フローラの帰還
幾多の反抗部族をまとめていたカウニッツがレオナルドに下ったことによりこの地域の帝国の統治は盤石になったといっていい状態になっていた。
もともとこの地域は帝国領に組み込まれた後も数多くの自立心を持った少数部族が割拠しており、表向きは帝国に従っていても事あるごとに反乱を繰りかえしていた。それも一度に蜂起するのではなく、それぞれ勝手に反乱を起こすので一網打尽とはいかなかったのだ。
そのため帝国は『砦』を作って駐屯兵をおいて常ににらみを利かせておいて、部族の反乱がおこるとその反乱を起こした部族に軍勢を派遣して鎮圧するという一種のもぐらたたきの様になっていた。
このように帝国は何十年もこの地域の少数部族の反乱に悩まされていたのだが、それがたった一人の男、しかも帝国に所属して日も浅いその男は将軍ですらなく、大隊長に過ぎない身分で反乱に終止符をうったのだ。
その功績と衝撃は帝国内に驚きと賞賛をもって迎えられた。
中でもその男レオナルドの直属の上司である第八軍団将軍のフローラは砦に5000の反乱部族が迫ってきているとの一報を受けてリスオー公国の援兵をまとめて大急ぎで砦に戻っている途中に「反乱部族の長がレオナルド大隊長に降伏した」と伝令を受けて我が耳を疑ったものだ。
(いくらレオナルド様とはいえこの短期間で5000もの反乱部族をしたがえるなんてにわかには信じられません。しかも報告では大げさに言っていたのか一兵たりとも失っていないとのことでしたが・・・。さすがにこれはありえないでしょうね)
あの好戦的な反乱部族を降伏させるのに全く兵の損失がないなど考えられなかった。まさかまた一騎打ちで決着をつけたわけではないだろう。相手は数的には優位なのだ。一騎打ちに応じるわけがない。
おそらくかなりの激戦が繰り返されて、砦もきっと見るも無残な姿になっているはずだ。破壊された砦は防衛機能の大半を失っている可能性がある。そこを反乱部族に残党に襲われたら・・・。
(やはり、合流を急ぐべきですね)
そう決意したフローラが行軍速度を戦時並みに早めたのは常識的な判断だといってよかった。
ただ、砦にたどりついたフローラは白の聖騎士レオナルドがいかに常識外の人間だと思い知る。
「あの砦・・・私が出発した時よりも立派になってないですか?」
わが目を疑いながら副官に話しかけるフローラに
「私の目にもそう見えますな」
リンツ公国時代から従ってくれている忠実な副官も驚き過ぎてあきれたように答える。
カウニッツ達がレオナルドの計略(正確にはレオナルドの撤退命令を計略だと勘違いしたタイユフールの計略だが)で残した物資で砦で強化していたために、砦は破壊されるどころかさらに強化された状態になっていたのだ。
「どうやったらこういう事ができるのでしょうか?」
「わかりませんな。ただ、白の聖騎士殿は個人的武勇だけではなく戦術家としても規格外の方なのでしょうな」
感心する二人だが、この結果がただ単にレオナルドが『イイ感じのセリフを言いたいがためにした行動』からもたらされたと想像もつくわけがなかった。




