カウニッツ、勘違いする。
カウニッツは自らに背を向けて悠々と砦の中を進んでいくレオナルドに最初は反感を持っていた。
確かにこの砦を落とした手並みは大したものだが、それはだまし討ちの様なやり方だ。戦術としては見事なものだと認めるが、剣を交えて戦っていないため、負けを認めたものの服従する気にはなれなかった。
(敗北したからには命は取れられても構わぬが、この者に従う事はできない)
もともとカウニッツは反抗部族の者たちの作戦もなにもない力押しで帝国に反抗するやり方には反対だったはずだ。
アリアスの様な真っ向勝負を好んで、個人の武勇を愛する典型的な部族の者たちを下に見ていたはずだった。
しかし、いざ自分が帝国の姑息なやり方にはめられてみるとどうにも納得できるものではなかったのだ。
戦は作戦だとインテリぶってはいるが、カウニッツも部族の者らしく、本来は武力によって相手を叩きのめすことに快感を感じているのだ。それが部族としての本能なのだろう。
それにレオナルドの妙に芝居がかった言い方(レオナルド曰くイイ感じのセリフ)も鼻についた。
(アリアスはいざしらず、この優男だけなら不意をつけば首をへし折ることができるかもしれん。アリアスに一騎打ちで勝ったと言うがどうせあの単細胞をうまく罠にハメて倒したのだろう)
カウニッツも戦闘自慢の部族をまとめる長だ。本人は策士という反抗部族の中では新しいタイプの長であることを自認しており、それによって大勢の部族の者たちをまとめているのも事実だが、それだけでは戦い好きの蛮族たちを率いる事はできない。
部族の兵たちの信望を集めるにはやはり個人としての強さも必要とされておりカウニッツは十分にそれにこたえるだけの実力を有していた。
(うまく一対一になることができれば・・・)
カウニッツがそんな事を考えているとは知らないのかレオナルドは、
「アリアス、彼と二人で話がしたい。この部屋を借りるぞ」
とわざわざ自分からカウニッツと一対一の状況を作ってくれる。
(・・・好機か?)
カウニッツは心の中でニヤリとするが、すぐにそれが間違いだと思い知る。
部屋の中に二人きりになった瞬間に1ミリも身じろぎもできないほどの圧倒的な威圧感をレオナルドから受けてしまう。
(な、なんという凄まじいオーラだ。これほどの力は今まで感じたことがない。これが人間の力か?まるで神か悪魔の様だ・・・これが白の聖騎士の力か!)
命を捨てても従わないと思っていたカウニッツだったが、その威圧感に顔面蒼白になる。
その様子を見てレオナルドは(あー、やっぱりこうなるか)と思う。
(白の聖剣のやつ、たぎってるなあ。まあ、今回は俺が聖剣に頼らずに解決したから出番が全くなかったからなあ。こいつ7000人の部族相手に大立ち回りをしてやろうとか張り切っていたんだろうけど、結果は俺の作戦っていうか勝手に勘違いしてくれたタイユフールの作戦のおかげで戦わなくて済んだからな・・・少しでも存在感を出そうと必死になってるんだろうなあ)
そう、レオナルドは目立てなかった白の聖剣のフラストレーションを鞘ごしに感じていたので、それを解消させてやるためにこの部屋にカウニッツを引き込んだのだ。
(これで白の聖剣をカウニッツが恐れてくれたら白の聖剣も満足するだろう)
しかし、レオナルドの目的を知らないカウニッツは白の聖剣の発しているオーラをレオナルド自身のものだと錯覚してこれではとても勝てないとあっけなく戦意を喪失する。
「恐れ入りました。あなたの部下になりましょう」
その言葉を聞いた瞬間に白の聖剣が(これはわしの力なんじゃー!)とばかりにさらに膨大なオーラを垂れ流してカウニッツをおびえさせるのだった。




