天然と養殖とイイ感じのセリフ
「アリアス、おしゃべりはそれくらいにしておくんだな」
(これ以上こいつに話させると俺のセリフが目立たないじゃないか。こいつ、あれだな。天然モノだな)
レオナルドは自分のように命懸けで頑張ったり、無い知恵を絞って、いろいろ根回しして、ようやくイイ感じののセリフを絞り出せる養殖『イイ感じのセリフ使い』とは違う、存在しているだけで自然とイイ感じのセリフを吐き出す天然『イイ感じのセリフ使い』をアリアスに感じていた。
(ここは強引にでも俺に流れを持ってきてやる。養殖モノとはいえ人生の全てをイイ感じのセリフに捧げてきた俺の経験値をなめるなよ!)
レオナルドはカウニッツに突き付けていた白の聖剣を鞘に納めると「こちらについてきてもらおう」と無造作に歩き出していたので、
「拘束するぞ?」
とアリアスが当然の確認をしてくるが、
「いや、それは必要ないだろう。さすがに武器は持たせられないがな」
レオナルドが振り返りもせずに言い放つ。しかし、心の中では、
(『拘束するぞ?』だって、ぷぷぷっ。フツーの発想のフツーのセリフだな!所詮は天然モノ。不意の展開には弱いな。それに比べて俺の多少危険だとしてもあえて拘束しないで『それは必要ない』ってクールに言うのはイイ感じのセリフだよな。それに加えてちょっと冗談ぽく『さすがに武器は持たせられないがな』まで言えるなんてなかなかできない事ですよ!これは!)と変な事を勝ち誇っている。
そんな事をレオナルドが考えているとは知らないアリアスは少し不満そうな顔をするが素直に従う。
(まあ、確かにこいつがどうあがいたところで俺とレオナルド様がいればもはや何もできまい。しかし、綺麗な見た目に似合わず豪胆な方だ)
改めて白の聖騎士という人物に感心するアリアスだが、レオナルドはアリアスが考えているようにもはやカウニッツに反抗する気力は残っていないと判断したわけでも豪胆でもないのはその心の声をきけばよく分かる。
レオナルドは今までになかったイイ感じのセリフを言うシチュエーションを堪能しているだけだった。
*
特に意味もなくイイ感じのセリフを言うシチュエーションを作るためにカウニッツ達を連れ出したレオナルドだったが砦の中を見て回りながら、
「しかし、見事なものだな。ありがとう、わざわざ私のために改修してくれて」
この短期間でよくここまで仕上げたものだとレオナルドは皮肉ではなく素直に感心する。
反抗部族の戦士には荒くれものが多く、長の命令でも気にくわない命令は素直にきかないと言われているが、これだけの作業を滞りなくできているのはそれだけカウニッツの統率力が優れている証だろう。
(アリアスではこうはいかないだろう)
個人の戦闘力なら白の聖剣全開状態の自分にも劣らないアリアスだが、多くの者を率いる能力は個人的な武勇に頼りすぎているので心もとないものがある。
(配下に加えたいな。そうすれば・・・)
指揮官としてはいくら優秀であっても同じような配下だけでなく違うタイプの配下を持ちたいと考えるのは当然だ。それだけ戦術に幅が出るからだ。
しかし、この白の聖騎士はそんな理由でカウニッツを配下にしたいと思うわけがなかった。この男が思っていたのは、
(こういうタイプがいるとまた『イイ感じのセリフ』を言う幅が広がるからなあ!)だった。
あらすじにも書きましたが3日に1回、いえ1週間1回程度更新したいと言う願望を持っていますが時々気分でイレギュラーに更新したりしますのでよろしくお願いします。
とりあえず反抗部族編が終わるまでは連載します。