軍師、タイユフール
「よく、何も言わずに私に従ってくれたな」
「普通なら反対していますよ。さすがに何もせずに逃げ出すなど、砦の防衛を任された者としてはありえない行動ですからね。しかし、あなたなら別です。何か深い考えがあるのは間違いないですからね」
タイユフールの確信に満ちた物言いにレオナルドは黙ってうなずいているが・・・。
(ちゃんと反対しろよ~。お前くらい状況が読める男ならわかるだろ?ここで逃げ出してどうするんだよ!)
逃げ出す準備を着々としている配下の兵たちを見て心中穏やかではない。
(まずい、まずい、まずいー!これはマジでヤバいだろう。一戦も交えずに敵前逃亡するなんてどう言い訳しても無理だろう。まあ、言い訳なんていう『イイ感じのセリフ』に程遠い事は死んでも言わないけどな!)
「食料等は全て持ち出しますが、砦の補修用の資材は残しておいていいですね?」
タイユフールにが確認してくる事の意味が一瞬わからなかったが、レオナルドは反射的に
「さすがだな。君に任せておけば安心だ」
と意味ありげに返事をしている。
「いえ、さすがなのはレオナルド様ですよ。ただ逃げるわけがありませんからね。私も初めはわかりませんでしたが、あなたに深い考えがあるとわかってピンっときましたよ」
「そこに気づけるのがさすがだと言うことさ。全てを言わなくても把握してくれる副官がいるのは私にとって幸運だったよ」
(俺の深い考えってなんだろう?タイユフールは何にピンっときたんだ?)
そんな疑問は全く顔に出さないでレオナルドはうまく話を合わせている。
「どういうことなんだ?俺にはさっぱりわからないぞ。ただ逃げるわけじゃないって事か?」
一人会話から残された形になっていたアリアスが不満そうにタイユフールにきいている。
(おおっ、アリアスいい事いうじゃないか。そうだ、そのままタイユフールにきいてくれ)
レオナルドの心の声もアリアスを応援している。
「わからないのですか?まあ、私のほうが少しばかりレオナルド様との付き合いが長いですからね。その考えがわかるのですよ」
勝ち誇ったように言うタイユフールだが、
(いや、俺自身分かってないんだか・・・。タイユフール君、いったい君はどんなことを思いついているんだい?)
当のレオナルドは困惑している。
「もったいぶらずに教えてくれよ」
「仕方ありませんね・・・。レオナルド様の今回の作戦は・・・」
タイユフールの説明にレオナルドはアリアスと共に
(こいつすっごいな。確かにその作戦がハマれば何とかなるかもしれないな)
心底感心したのだった。