白の聖騎士、愛馬にイイ感じのセリフを言う
「白雲・・・。あと少しだけ私に付き合ってくれ」
レオナルドはその白さから白雲と名付けた愛馬に対してイイ感じのセリフを言うために時間稼ぎを決意している。
そんな主の気持ちを知ってか知らずかレオナルドの乗る白馬は、力の限り疾走する。
レオナルドの手綱を受けて少しもスピードを落とすことなく、必死に主を運んでいく。
「あの馬を見よ、さすがは白の聖騎士の騎馬だけはある」「うむ、馬とは言え覚悟が伝わってくるようだ」帝国兵を驚かせる働きをする白雲だ。
「ええい、取り囲め!取り囲んで仕留めるのだ!」
帝国の小隊長がヒステリックに兵たちに檄を飛ばす。
そうはさせじと白雲は一層スピードを上げてレオナルドを運んでいく。
しかし、そんな無理が続くわけもない。
やがてそんな白雲も力尽きる時がきた。常に全力で動き続けて、無理をし過ぎたその足はがくがくと震え、鼻息荒く完全に限界が来ていた。
聖剣から魔力供給と体力回復の加護を受けているレオナルドならいざしらず、普通の馬がどんなに頑張っても全力の働きがそう長く持つはずがない。
その様子を見たレオナルドは神聖魔法の『聖なる波動』で再び帝国兵から距離を開けると、白雲から下馬する。
戦場で騎士が騎馬から降りるというあり得ない出来事に帝国兵たちが戸惑っていると
「白雲・・・。今までありがとう。だが、これまでだ。お前までここで死ぬことはない。生き延びてくれ・・・」
白雲の首を優しくなでながら語りかける。
白雲はそのつぶらな瞳で悲しそうに白の聖騎士を見つめているが、白の聖騎士は白雲を説得するように「大丈夫だ」と頷く。
そして遠巻きに見ていた帝国兵に向き直ると
「心ある帝国兵よ!聞いて頂きたい!今からこの馬を逃がすが、どうかこの馬は見逃してほしい!ここまで私に付き合ってくれたが死なすのは忍びないのだ!頼む!」
お願いする形ではあるが、決して媚びるわけではなく、毅然とした態度だった。
その思いが通じたのか帝国兵たちは動きを止めて、自然と道を開ける。
「さあ、行け!」
白の聖騎士に促されるが白雲はその場から動かない。
「行くんだ!行ってくれ!」
悲痛な叫びをあげる白の聖騎士の姿を悲しそうに見ながら白雲はゆっくりと走り去っていく。
「これでいい・・・これで・・・」
どこかできいたようなセリフを言う白の聖騎士だが・・・
(やっべええええ!白雲さん、マジで~!?本気で置いていくんですか?俺の事!あー、詰んだ、詰んだ!もう、詰んだわ!さすがに詰んだわ!いくら聖剣の加護で体力と魔力の回復があっても馬なかったらこの大軍から逃げるのマジ無理だろ!あ~、余計なこと言っちゃったわ。いや、『イイ感じのセリフ』ではあるんだけど!)
さすがにちょっと後悔をしていた。
「姫様によろしくな・・・」
だんだん遠くなっていく白雲に対して、聞こえるはずのないセリフを言う。もっとも、本当は白雲に言ったわけではなく周りの帝国兵に言ったわけだが。
(あー、マジで一人になる・・・。あー、一人・・・。一人はつれーなあ・・・。一人で死ぬのはつらいって・・・)
そんな事を顔には一切出さずに白の聖騎士は覚悟を決めた表情で帝国兵に向き直る。
「帝国兵の方々。改めてお礼を申し上げる・・・。だが、戦いは戦い。今しばらく私に付き合って頂こう!」
再びレオナルドは戦い始めるが、白雲という機動力を失って帝国兵に取り囲まれる場面が増える。
魔法で蹴散らすが、致命傷ではないのですぐに回復して帝国兵たちは群がってくる。
かといってとどめを刺すほどの余裕は体力的にも魔力的にもない。
(せめて白雲がいれば聖剣の加護で回復するための時間を稼げたのだが・・・。でも、『イイ感じのセリフ』を言うためにはこうするしかなかった・・・)
後先考えずに『イイ感じのセリフ』を言うことを優先してレオナルドは明らかに危機に陥っていた。
「くそっ・・・」
(もう、イイ感じのセリフを言えなくなるのか・・・)
死ぬことをそんな風に表現するレオナルドの視界に土煙あげてくる何かが見える。
全速力で戻ってきたのは・・・。
白雲だ!
「ヒヒーン!」
レオナルドに乗れとばかりにひときわ大きいいななきをあげる白雲にレオナルドは迷わず騎乗する。
「白雲・・・。もう逃げろとは言わん。私と運命を共にしてくれ!」
レオナルドの言葉に心得たとばかりに白雲は先ほどにもまして帝国軍の中を疾走する。
しかし、白雲はなぜ戻ってきたのか?
ジャンと同じようにレオナルドに殉じようとしたのか・・・?
そうであれば感動的な場面だったが・・・。
白雲は純粋なジャンとは違い『イイ感じの行動』をするために戻ってきたのだ。!
最後まで主人と運命を共にする名馬。それを演じるために白雲はここに戻ってきたのだ。
この主にしてこの馬ありである。
白雲はレオナルドが好きだった。自分を目立たせてくれるこの主人が。
レオナルドは白雲が好きだった。自分とともに目立ってくれるこの白馬が。
(さあ、まだまだイイ感じのセリフを言ってやるぜ!)
レオナルドは決意新たに白雲とともに戦うのだった。
次話から姫騎士サイドの話が入ります。