白の聖騎士、砦にてイイ感じのセリフを言う
「あれ、正気ですかね?」
「とても正気とは思えんが、一歩も引く気はないようだな」
タイユフールの問いにレオナルドは複雑な思いで答えていた。
*
フローラに率いられた帝国第八軍団は南方の部族の反乱の鎮圧のため、帝国軍の砦に到着していた。
レオナルドの中隊は出立の準備が間に合わないかと思われていたが、傭兵隊長のタイユフールの卓越した指導力のおかげで本隊とともに出陣していたので、この砦にもたどり着いていた。
この砦には帝国第八軍団6000人が集結しているのだが、それに対して反乱軍の数は300に満たない。
先ほどのレオナルドたちの会話はたった300で立ち向かおうとしている反乱部族の様子をみての事だ。
レオナルドがかつて帝国軍に追い詰められた時でさえも帝国軍3000に対して聖王国軍300だった。
今回はそれを上回る6000対300という戦力差だ。
しかも、帝国軍側が砦にこもっているので反乱軍は逃げようと思えば逃げられるはずだ。それにも関わらず帝国軍に出て来いと挑発しているのだ。
普通に考えたら正気とは思えないだろう。
なぜそれをレオナルドが複雑な思いで見ているかと言えば『これほど勇敢な部族を滅ぼすのはしのびない』と思っているわけもなく、
(マジかよ~。こいつら。6000対300とかやられたら俺の帝国軍との戦いがちょっとかすんじゃうだろ!まあ、俺は最終的には一人で3000相手にしたわけだから、俺の方が断然凄いけど、それにしてもないわ。あーマジないわ!)
そんな事を考えていた。
「レオナルド様。どうしましょうか?」
フローラは部下であるレオナルドに相変わらず敬語だ。
「指揮官はフローラ様ですよ。いつでもご命令があればすぐに彼らを鎮圧して見せましょう」
あのめざわりな6000対300を消したいレオナルドは結論を急ぐが、
「そうしたいのはやまやまですが、たった300に対してあまり無道な事をしてはますます部族の反乱を招くのではないでしょうか」
フローラの心配もわかる。帝国はフローラがそうであるように他民族を吸収合併してできている。対応を誤るとこの反乱は長引くだろう。
「そうですね・・・。では・・・」
レオナルドは考える。自分がイイ感じのセリフを言えて、なおかつ6000対300を超えるインパクトを与えらる方法を。
(・・・いい事考えた!俺ってやっぱり天才かも)
「フローラ様。大軍で彼らを鎮圧する事が不安でしたら私一人にお任せください。それならば帝国の無道とは思われないでしょう」
「ええ?!いくらレオナルド様でもあの勇猛な部族をたった一人でなんて・・・」
「お忘れですか?私はたった一人で帝国軍3000をお相手したのですよ?」
(よっしゃー!イイ感じのセリフ、『お忘れですか?』を言えたぜー!これってなかなかタイミングが難しいけど言えたら、カッコいいよな!)
「それはそうですけど・・・」
さすがにフローラは躊躇している。いくらなんでも一人で相手をするなんて無謀としか思えない。
「大丈夫ですよ。今は白の聖剣も私の愛馬もいます。それにたった一人に打ちのめされたとあればあの部族も今度こそ帝国に心服するでしょう。お任せください」
(レオナルド様がここまで自信満々なら大丈夫なのですね)
レオナルドの態度にフローラは決心したのだった。
その態度にはいつも本心が隠されていて、ただの見栄だと知らずに・・・。




