南方へ
第八将軍フローラは自身の軍の中隊長であるレオナルドに会い来ていた。
いち中隊長であるレオナルドにフローラが頻繁に会いに来ることは普通なら問題であったが、レオナルドの人格やそれまでの関係性を考えると強く止める者はいなかった。
フローラがリンツ公国時代にレオナルドに助けられたのは周知の事実だったし、レオナルドのこれまでの振舞いから、その人間性を疑う者はもはや帝国内にはいるはずもなかった。
白の聖騎士は高潔な人物である。
その認識は揺るぎないものになっていたのだ。
実際は『イイ感じのセリフ』を言うためにした行動がたまたまそう見えているだけで、本来の姿はただの自己顕示欲の塊なのだが・・・。
話を元に戻す。
フローラは今日はちゃんと用事があってレオナルドの元に来ていた。
「今度の任務で私たち第八軍団は南方へ向かうことに決まりました」
「そうですか。それでは相手は南方の部族ですか?」
「そうです。以前から小競り合いがあったのですが、この度は本格的に帝国に対して反抗を企てているようなのです」
「南方の部族が相手ですか・・・」
レオナルドの顔が心なしか安堵しているように見える。
(やはり、聖王国とはたもとを分かったとはいえ、戦わないで済むとわかると安心されるのね)
フローラはそんな風に解釈するが、この聖騎士がそんな普通の考えをしているわけもなく・・・
(南方の部族かー。やつらは個人の武勇を誇る戦闘民族だからな!こういうやつらを相手にするとやっぱりこっちも目立てるし、イイ感じのセリフを言うチャンスもあるよな!なんかこう軍隊組織がしっかりしているところだとなかなか個人が目立つ事は難しいからチャンスも少なくなるよな。よかった~。そういうちゃんとしたところが相手じゃなくて!)
だいぶおかしなところに目をつけて安心していた。
「南方の部族が相手で安心しましたか?」
少し意地悪なフローラの質問に
「いえ、南方の部族は武勇の誉れ高い油断のならない相手です。気を引き締めて戦わなくては足元をすくわれることになりかねません」
レオナルドは心にもないことを言う。
「そうですね。しっかり準備をしたいところですが、できるだけ急いで行くように指令が出ていますので出発は3日後になります。レオナルド様の隊は大丈夫ですか?無理なら後で来られてもよろしいのですが」
中隊長として任命されたばかりのレオナルドの隊にはまだ雇われて日の浅い傭兵が主力なので急な軍事行動は難しいのではないかとフローラは気遣ってくる。
「大丈夫です。タイユフールに任せておけば三日後には出発できるでしょう」
「ずいぶんとタイユフール殿を信頼されているのですね?」
「ええ。彼はやるときはやる男です。私の信頼に見事こたえてくれることでしょう」
(タイユフールはやる。俺の新たな英雄詩を書くためにあいつは絶対に俺の隊が戦場に間に合うように仕上げてくるはずだ。たとえ部隊がガタガタだったとしてとりあえず戦場に着くようにするはずだ!間違いない!)
部隊がガタガタであってもとりあえず戦場に参加する。
普通ならかなりダメな指揮官の発想だったが『イイ感じのセリフ』を言うために目立ちたい一心のレオナルドはその決定になんの疑問も抱いていなかった。
そんなレオナルドの内心を知らないフローラは
(さすがレオナルド様。三日で部隊をまとめ上げる自信があるのですね。レオナルド様に限って部隊がそろってない状態で戦場に来るはずもありませんものね)
完全に騙されているのだった。




