白の聖騎士、帝国兵にイイ感じのセリフを言う
「聖なる波動!」
白の聖騎士レオナルドの神聖魔法が迫りくる帝国兵三〇名ほどを一度に吹き飛ばす。
『聖なる波動』は衝撃波を飛ばす魔法で範囲を拳程度に絞れば鎧を貫くこともできるのだが、レオナルドはあえて敵兵の鎧を壊さないくらいに威力を抑えてその代わりに広範囲に使っている。
敵を殺さないため?時間稼ぎのために多くの敵を相手にするため?
レオナルドがこうする理由はただ一つ。
(ちまちまと一人一人倒すよりもこの方が見栄えがいいからな!一度に複数を相手にして吹き飛ばすといかにも俺が強いようにみえるからな!)
白の聖騎士こういう奴だった。
「ええいっ!何をひるんでいる!相手はたった一人だ!さっさと片づけてしまえ!」
帝国の小隊長の言葉に
「っふ、貴様らにそれができるかな?」
(よっしゃー!イイ感じのセリフー!)
間抜けな心の声は表情には出さないで白の聖騎士レオナルドは真面目そのものの顔で答えると、剣を抜き放ってそのまま帝国兵たちに突撃していく。
まさか単騎で突っ込んでくると思っていなかったのか慌てる帝国兵をしり目に白の聖騎士レオナルドは縦横無尽に愛馬を走らせながら帝国兵を蹴散らしていく。
「取り囲め!奴を逃がすな!」
隊列を乱しながらも殺到して来る帝国兵に対して、
「こちらはこの場から逃げるつもりなど毛頭ない!いくらでも相手になろう!」
そう言いながら小隊長の兜を剣で弾き飛ばす白の聖騎士はイイ感じのセリフを連発できてご満悦だ。ただし、その顔は真剣そのものだが。
その後も群がってくる帝国兵の槍を巧みに剣で払い、馬上から蹴倒していくその姿はまさにサーガの主人公の英雄そのものだ。
もっとも、剣と馬術であしらいきるには敵の数が多すぎるので、時折、神聖魔法を放って間合いを開けるのも忘れない。
その見事な戦いぶりに「さすがは名高い白の聖騎士だけはある」と物のわかる帝国兵は目を見張る。しかし、小隊長の立場ではそうはいかない。なんとしても倒そうとやっきになっている。
「ええい、弓だ!矢で射落とすのだ!」
帝国の小隊長の命令に弓兵が一斉に弓を引くが、全てレオナルドに届く前にあらぬ方向へそれていく。
「風精の守護か!あやつ神聖魔法と精霊魔法を同時に使っているのか!?」
『風精の守護』は風の精霊シルフを使役して自身に飛んでくる矢を自動的にそらさせる魔法だ。これを使用している者にはまず矢を当てることはできない。
しかし、精霊魔法を使い続けながら、合間に神聖魔法を使うなど普通ではまず無理だ。
「あいにくだが私には弓は効かない。私と語りたくばもう少し近くに来て頂こう!」
(このセリフを言いたくて精霊魔法と神聖魔法を同時に使うことを血尿がでるほど苦労して覚えたんだからな!さあ、いいリアクションしてくれよ~www)
「おのれ~・・・」
小隊長の怒りがレオナルドの耳に心地よく響いてくる。
(『おのれ~』頂きましたwww。それくらいしか言えないとは所詮小隊長レベルだな(笑))
レオナルドはめちゃくちゃいい気分になっている。
・・・そんな事は毛ほども顔にあらわさないが。
レオナルドがそんな調子で趣味と実益を兼ねながらここで敵を食い止めている間にすでに姫騎士以下親衛隊の姿は見えなくなっている。
「今少しの時間を稼ぐ必要があるか・・・」
時間を稼ぐという意味ではまだ十分ではないと白の聖騎士レオナルドは判断した・・・。
わけではなく、『時間を稼ぐ必要があるか』と言いたかっただけだった。
(さて、次はあいつに対して『イイ感じのセリフ』を言わないとな)
レオナルドは次のターゲットを決めている。さて、次のターゲットは・・・。