白の聖騎士、イイ感じのセリフを言う
「では、どうしても我らに味方されないと言われるのですね?」
「くどいな。私は帝国を裏切らない。君たちが帝国の敵だというのなら私の敵だよ」
レオナルドは冷静に答えているが、例によって心の中では
(あー、俺のバカ、バカ。ここはとりあえず嘘でも味方するっていって乗り切ればいいじゃんかあ。せっかく最後のチャンスをくれたのに、身体の奥底まで染みついたイイ感じのセリフがどうしてもでてしまうー!)
かなり焦っていた。しかし、そんな事にはお構いなしに男は決心したように言う。
「わかりました・・・。では・・・」
(あー、待ってくれえ。やっぱりなしに・・・)
「あなたを正式に第八軍団にお迎えします」
(ん?どういうことだ?)
レオナルドが疑問に思っていると、
「試すような事をして申し訳ありません。実は我々は反帝国ではありません。ただ、聖王国の聖騎士だったあなたが本当に帝国に忠誠を誓っているのかを知りたくてこのような事しました。本当に申し訳ありません」
(た、助かった・・・)
レオナルドはホッとするがそれは表に出さずにムッとした表情で
「試されるのは好きじゃないな。だが、これで私の事を信じてもらえたかな?」
「はい。さすがは白の聖騎士殿ですね。フローラ様の言われていた通りの方の様です」
「これはフローラ様の差し金なのか?」
レオナルドの問いに男は慌てたように
「いえ、フローラ様はご存じない事です。我らが独断でしたことですのでフローラ様に対して悪く思わないでください」
と言いつくろっている。
話を聞いてみると彼らは元リンツ公国の騎士でリンツが帝国に帰属してからはフローラに従って帝国の軍団に組みこまれたらしい。
当初は不安や不満はあったが帝国の兵士たちからも差別を受けることもほとんどなく(一部レイミアの様な例外はいたが)、元他国の兵だからと言って特別危険な戦場に出さされるわけでもなかったので今では帝国のやり方におおむね満足しているとの事だった。
(今の帝国はこれだから恐ろしい。以前はただ他国を力攻めで滅ぼすだけで後の処理は苦手だったようだが、ここ数年はこのような融和政策を推し進めている。そのおかげで聖王国の神聖同盟に入っていた国もいくつかは離脱したのだからな)
レオナルドが捕えられた戦いも神聖同盟のある国が帝国に寝返ったために、窮地に陥った他の同盟国を救うために姫騎士シエナが出陣したものだった。
「では、今度こそ案内してもらえるんだろうな」
「はい。そこでお願いがあるのですが先ほどの我々の芝居の事はフローラ様には言わないで欲しいのです」
そういう男の顔には卑屈なものは見られない。
(なるほどな)レオナルドは勝手に納得する。
「フローラ様に余計な心配をかけたくないと言うことか」
男は黙ってうなずいている。フローラにこのことを言われて叱られるのを恐れているわけではなく、フローラの身辺に近づく者を彼らが気を利かして試している事を知られなくないのだろう。
フローラの性格から考えて部下にそこまで気を遣わせていると知ったら自分の能力のなさを責めると思っているのだ。
(いい奴らだ。主を思う気持ちが強いな。そして、俺に・・・)
「私はそれほどおしゃべりではないよ」
(こういうイイ感じのセリフを言うチャンスをくれたんだからな!)
レオナルドは相変わらずだった。