裏切りのススメ
「こちらへ」
案内されるままにレオナルドはついていく。
第三皇子ガラハドの臣下として仕えることになったが、とりあえずフローラの率いる第八軍団に所属することになったので、第八軍団の使いと名乗る男たちが迎えに来ていた。
牢獄からでてこの砦を歩き回るのはこれが初めてではなかったが捕虜ではない状態は初めてでやはり気分がよかった。
自由になれる・・・。と言っても祖国にはもはや帰れず、敵国だった帝国のために戦うことになるのだがそれでも虜囚の身から解放された喜びは、そうなった者にしかわからないことだろう。
「意外と晴れ晴れとした表情ですね?」
案内をする男の一人が話しかけてくる。
「戦に負けたみじめな男の顔がお望みだったのかな?」
「いえ、無駄に悲壮ぶられてもこちらも気を使いますからね。今の方がいいですよ。ただ、思っていた以上にあなたの顔は吹っ切れているようにみえます」
それはそうだろう。レオナルドは誰も訪ねてこない牢獄から解放されたのだ。自由の身になった以上いつでもイイ感じのセリフを言う事ができるし、今も「戦に負けたみじめな男の顔がお望みだったのかな?」というなかなかイイセリフを言えたので気分もいいのだ。
レオナルドの顔が晴れ晴れしている事を男は疑問に思っているようで、
「帝国に従うことをよく決心しましたね?」
「・・・聖王国にはもう私の居場所はないようだ。それならば必要とされているところで働くつもりだ」
レオナルドはよどみなく答えるが、男はしつこく確認してくる。
「しかし、あなたは本当にそれでよろしいのですか?ついこの間まで敵対していた帝国に所属することに抵抗感はないのですか?」
「いったい、何が言いたい?回りくどい言い方はやめてもらおう」
帝国に味方すると言っているのになぜ何度も確認されるのかレオナルドは疑問に思う。この尋ね方ではまるで帝国に味方して欲しくないようにみえるのだ。
レオナルドの言葉に男が意を決したように他の男たちにアイコンタクトをとると、皆一様にうなづいている。
「・・・わかりました。はっきり言いましょう!帝国を裏切っていただきたいのです」
内容が内容だけに男はさすがに声を潜めて言ってくる。
「どういうことだ?」
彼らも第八軍団の人間なら帝国の者のはずだ。しかし、帝国を裏切れということは第八軍団であるのは嘘だったのか?レオナルドがそんな疑問を抱いていると、
「我々は皆、帝国に敵対していた国の遺臣なのです。国が帝国に滅ぼされたために仕方なく帝国に従うことになったのですが、心の底から帝国に忠誠を誓っているわけではありません。いまは雌伏の時ですが、いずれは帝国に反旗をひるがえすつもりです」
別の男が説明してくるのをきいてレオナルドは第八軍団の成り立ちを思い出す。
(第八軍団はフローラ様の軍・・・。リンツ公国の遺臣が多いということか・・・)
「同志もすくなくありません。第八軍団内だけでも・・・」
別の男が説明を続けていく。
彼らの言うことをまとめると、現在の皇帝によって大きく軍拡主義に傾いている帝国は多くの国を侵略しているが、その侵略した国の遺臣や捕虜を積極的に自軍に組み入れているらしい。レオナルドにそうしたように。
そうする事でさらに軍の規模を拡大して新たな国を飲み込んでいく・・・。
だが、その帝国に無理やり組み込まれた者たちの中には当然不満を持つものも多く、彼らは祖国の垣根を取り払い、”反帝国”を旗印に団結し、帝国軍内に同志を集めているということらしい。
つまり聖王国出身のレオナルドにも帝国を裏切って彼らの反乱軍に加われと言いたいようだ。
(しかし、こんな事をこんなところで言うとは・・・。反乱の秘密となればどんな手を使っても守らなければらないものだろうに)
レオナルドはこの男たちをそれとなく観察していたが皆かなりの手練れのようだ。
聖剣がないどころか武器すらないこの状況で彼らの要求を無視するのは無謀だろう。
この要求を断ればおそらく・・・
「私はすでに聖王国を裏切って帝国についた。それは聖王国に裏切られたからだ。しかし、帝国は私を裏切っていない。だから、私から帝国を裏切ることはしない」
「そうですか・・・。残念です。しかし、我々の事を聞かれたからにはあなたをこのままにしておくわけにはいきません。本当に残念ですが・・・。」
「そちらから聞かせてきたのだろう?勝手な話だな」
白の聖騎士は余裕たっぷりにあきれたように言うが・・・。
(あー、やっぱりこうなったかああああ!わかってたんだよおおおおお!そりゃそーだよ!裏切りを勧めるって事はそれくらい覚悟をもってしなくちゃ無理だよねええええ!でも、『わかった。帝国を裏切る』なんて感じの悪いことぉ、言えるかああああ!)
と内心ではかなり焦っていた。




