帝国の・・・。
一般の独房に移されてから一週間。レオナルドはすっかり人相が変わっていた。希望に満ちていた眼はぼんやりとしたものになり、引き締まっていた口元も少し半開きだ。
(まさかこんなことになるなんて・・・。聖剣もこんな気持ちだったのかもしれないな・・・。)
帝国での捕虜生活が楽しすぎて聖剣の事をうっかり忘れていたレオナルドだったが、いざ自分が人から隔離された状況になるといろんな事に考えが及ぶようになっていた。
というよりもいろんな事を考えなくてはやってられないらしい。
その日はひさしぶりに食事を運ぶ兵士以外の者が来る気配がしたが、レオナルドは反応しなかった。どうせ自分の所は通り過ぎるだけだと思っていたからだ。
しかし、その少年はレオナルドの独房の前で立ち止まる。二人の屈強な男たちを後ろに控えさせており、一見して身分が高いのがわかる服装をしていた少年は興味深そうにレオナルドを見てくる。
「だれだ?」
「余は帝国第三皇子ガラハドじゃ」
「これは失礼を」
レオナルドはすぐに片膝をつく。ヤバい精神状態になっていたとしても皇子に対する礼を忘れるような真似はしない。
「聖王国に見捨てられたと聞いていたが、なかなかどうして見どころがありそうな男じゃな。余はこれでも人を見る目には自信がある。これは惜しい者じゃ。おっと、誤解するなよ?惜しいと言っても我ら帝国は決して法外な身代金を要求したわけではないぞ。お主の聖王国の身分から考えて通常の上級騎士に対する身代金しか要求しておらぬ。それこそお主の私財でも払えるくらいだと思うがな。・・・お主、相当の浪費家なのか?」
「いえ、通常の身代金であれば聖王国内の私の財産でも十分払えるはずです」
「そうか、ないのは金ではなくて人望のようじゃな」
「ずけずけと言われるのですね」
「なんせ皇子じゃからな。まあそんな事はよい。余がお前の身代金を払ってやろうと思ってな」
「つまりあなたの配下になれというのですか?」
「そうは言わん。金は払ってやるが後は好きにするがよい。聖王国に帰るもよし、他のところに行ってもよしじゃ」
そう言いながらもガラハドの眼は探るようにレオナルドを見てくる。
帝国の第三皇子・・・。帝国兵の人気は高いようだが、いかんせん第三皇子であるために皇帝になる可能性は低いと言われいる。もっとも本人にもその気はないようで戦上手な割に野心的なところはないときいているが・・・。
「・・・わかりました。では、早速ここから出して下さい。私の好きにします」
「よし、開けてやれ」
ガラハドが後ろの男に指示をすると黙って牢のカギを開ける。皇子の前で罪人を解放するなど危険極まりないが、二人の男には丸腰であるレオナルドを抑えらえる自信があるようだ。
牢から出たレオナルドがガラハドの前来た時には少し警戒したようだったが、レオナルドはひざまずいて両手を組んで差し出すようにして、
「あなたの家臣にしていただきたい」
「臣従礼か。良かろう」
ガラハドは差し出された手を自身の両手で包み込む。そしてその手に誓いの接吻をしてやる。
レオナルドをガラハドに臣従させたのは聖王国に裏切られた恨みだったのか?
それとも自分を認めてくれたガラハドに恩義を感じたのか?
実際のレオナルドの心の声をきいてみよう。
(はーっ。やっと出れた!これで自由に『イイ感じのセリフ』を言える環境になったなあ!さて、まずは誰に言おうか・・・。っていいのいた!)
これだった。
この状況でガラハドに言うとしたら、一つしかない。いや、正確に言えばいろいろ考えられるだろうが、久しぶりの『イイ感じのセリフ』だ。レオナルドは奇抜なものではなくベタなやつが言いたかったのだ。
結果、帝国の聖騎士が誕生した。
以上で第一章:『聖王国の聖騎士編』が終わりです。ほとんど帝国の捕虜でしたが。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
次話から『帝国の聖騎士編』が始まりますが再開は2週間後の10月13日を予定しています。
再開後は今までと同じくらいのペースで更新する予定です。
再開までの間に別の小説『第一王子はモテない』を随時掲載していきますのでよろしければ読んでいただけたらと思います。
※『第一王子はモテない』はすでに書き終わっていますので『白の聖騎士』の作成スピードには影響しません。




