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聖騎士、雄弁に語る。

シエナは父である聖王エスケレス2世にレオナルドの身代金が払われなかった事への説明を求めていたが聖王の言葉はどこか他人事の様だった。


「ピジョンの決めた事だ。この国にとって悪い事ではあるまい。確かに白の聖剣の事は残念に思うがな」


 ピジョンはもともと中級貴族にすぎなかったが、経理を担当する文官に任命されてから頭角を現した男で、宰相になってからは主に緊縮財政をとることでこの国の経済を立て直してきた。

 経済危機にあった聖王国を救った宰相の決めることは聖王国のためと聖王は盲目的に信じているようだった。


 しかし、シエナはピジョン宰相とレオナルドとの間に以前いさかいがあったのを知っている。また武断派である聖騎士たちの事をピジョンが良く思っていないのも聖王国内では周知の事実だった。

 そのシエナからしたら今回の身代金支払い拒否は聖王国のためではなくピジョンの私怨からきているようにしか思えなかった。


「お父様!ピジョンはレオナルドの事を・・・」


「姫、私情で物を言われては困りますな。姫たるもの、どの騎士も平等に扱わなくてはいけませんよ」


シエナの言葉をピシャリと遮ったのは同席していた宰相ピジョンだ。


「私は私情など・・・」

 

「少しも挟んでいないと?その言葉は金色の聖剣に誓えますか?」


 『真実一路』の金色の聖剣を持ち出されてシエナは黙ってしまう。

 シエナは自分の心の奥底にレオナルドを慕う気持ちがあるのに気付いている。

 例え捕えられた者が他の騎士であってもシエナは同じ行動をとっていただろうが、それでも今回の件に私情がないと言ってしまえばそれは嘘になってしまう。

 シエナは確かにレオナルドが好きなのだ。

 宰相の私怨を暴くつもりがいつの間にかシエナの私情になってしまっている。

 ピジョンとはこういうことができる男だった。

 黙ってしまったシエナを見て聖王エスケレス2世は深いため息をつく。


 「どうやらピジョンの言っていた通りの様だな。あの男は下賤の身の分際で姫をたぶらかしていたのか」


 「仰せの通りでございます。姫様は私情のために物事が見えなくなっているのです」


 聖王が身代金の支払いを止めた本当の理由は聖剣が戻ってこないからではなく、ピジョンによってシエナの気持ちを知らされたからだった。

 聖騎士としての白の聖騎士の力は認めていたが、姫の結婚相手としてはあり得ないと思っていた。それを排除するためにレオナルドの身代金の支払いを止めたのだ。


 思惑通りにいったピジョンはさらに続ける。


 「それよりも問題な事がございます。さきほど青の聖騎士クレディが王宮内で聖剣をふるって暴れまわったとの情報が入っています。いかに聖騎士と言えども王宮内での狼藉をゆるすわけにはまいりません。厳正なる処置をお願いいたします」


 「それは本当か?ううむ・・・」

 

 聖剣に選ばれた聖騎士たちはこの国にとって特別な存在だが、王宮内で暴れるとは穏やかではない。ピジョンの言葉に聖王がうなっていると


 「その件については私から説明いたしましょう!」

 

 緑の聖騎士ポッパーが現れて、雄弁に語りだす。


 「宰相殿、情報は正確にお願いします。さきほど青の聖騎士クレディに()()()()()が王宮で暴れまわっておりましたので、()()()()居合わせたゴドフロア将軍が対応して撃退しております。ただ、惜しくも捕えることができませんでしたので現在ゴドフロア将軍が追撃隊を組織して行方を追っているところなのです」


 「よく似た賊だと?私は青の聖騎士クレディ本人だと報告を受けている!」


 「宰相殿は報告を受けただけですよね?つまり、実際にはクレディの姿を見ていませんよね?私はその姿を見ましたが確かにクレディによく似ておりましたが、別人でしたよ」


 いけしゃあしゃあと言い放つポッパーにピジョンは言い返せない。その場面を実際に見たと言われたら見ていないピジョンにはこの場でそれを否定することはできなかった。

 その姿をみてポッパーはさらに続ける。


 「しかし、危ないところでした。()()()()ゴドフロア将軍が居合わせていたから賊を食い止めることができましたが、そうでなければここまで賊が来ていた可能性もありましたからね。王宮の警備体制を抜本的に見直す必要があるようです」


 「抜本的に見直すとはどうするつもりなのだ?」


 ポッパーの言葉に聖王が身を乗り出してくる。ポッパーの声には不思議と真実味があるのだ。


 「確か経費削減のために王宮の警備を減らしたのは宰相殿でしたが・・・。今回の事で通常の警備兵では全くあてにならない事が証明されました。そこで王宮に常に聖騎士を一人以上配属しておくことを提案します。賊を撃退したのは聖騎士ですし、聖騎士を王宮内に配備しておくだけなら経費もあまりかかりません。このくらいの事は我らが王の大事な命を守るためには必要な事だと思いますが、どうでしょうか?」


 「悪くないな。よし、そのように取り計らうといい」


 「ありがとうございます!」


 ポッパーはクレディの不祥事をもみ消しただけでなく、それを利用して王宮内に聖騎士の影響力をもたらすことに成功していた。


 (緑の聖騎士・・・。腹立たしい男だ。いや、聖騎士どもは皆気にくわぬ!)


 ピジョンは忌々しそうにポッパーをにらみつけるのだった。

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