白の聖騎士、従騎士にイイ感じのセリフを言う
(うわっ、帝国の奴らすごい勢いで来てるな~)
遠目に見える帝国軍の土煙を見ながら白の聖騎士はそう思うが、ここに到着するまでしばらく時間がありそうだ。
(イイ感じのセリフを言う相手が近くにいない・・・一人でぶつぶつ言っていたらただのアブナイやつだ・・・)
白の聖騎士がそんな事を考えていると一人の少年騎士が親衛隊から離れて戻ってくる。
「レオナルド様!最後までお供いたします!」
白の聖騎士付きの従騎士の一人、ジャンだ。
まだ、14歳のジャンはあどけなさを残すその顔を緊張のためか強張らせている。
しかし、決して震えてはいないその様子から少年ながらその胆力が伺える。
「ジャン・・・」
(まだまだ子供だと思っていたが・・・だいぶイイ感じのセリフを言うようになったな!『最後までお供いたします』はなかなかイイ!)
白の聖騎士レオナルドは感心しながらも、ジャンにどのタイプのイイ感じのセリフを返そうかと考える。
この場合主に二つのパターンが考えられる。
あくまで優しく諭して「今はまだ死ぬ時ではない。若き命を大事にしろ」的な『命大事に』系のイイ感じのセリフを言うか、あえて悪役を演じて「お前程度がいても足手まといになるだけだ!邪魔になる前にさっさと消え失せろ!」的な『ツンデレ』系のイイ感じのセリフを言うか・・・。
(今までの俺の言動からは前者がしっくりくるが、逆に後者でも意外性を演出したイイ感じのセリフを言えそうだな・・・。それに後者ならジャンが去った後に『これでいい…』系のセリフを言えるし)
ちなみにジャンをここに残して共に戦うという選択肢はない。
ジャンの身を案じているわけではなく下手に残して自分よりも『イイ感じのセリフ』をジャンに言われてはたまらないという思いからだ。
(せっかくこのシチュエーションを作り上げたんだ。ジャンには悪いがこの場の『イイ感じのセリフ』は全部俺のもんだからな!)
レオナルドがそんな事を考えているとはつゆ知らず、ジャンは
(レオナルド様が苦悩していらっしゃる。お優しいレオナルド様の事だ。きっと僕をこの場から逃がそうとするだろうが、僕は無理にでも残ってやる!)
と健気な事を思っていた。
そんなジャンの気持ちに全く気付かない白の聖騎士レオナルドは、ことさら厳しい顔つきになると
「ジャン、私の教えた騎士の掟を覚えているか?」
「はい!騎士は困難に立ち向かわなくてはいけない!です」
これは自分が残ることを許してくれるのかと素直なジャンは喜ぶが、
「では聖騎士レオナルドが従騎士ジャンに命じる!この場から直ちに立ち去り、生き残れ!」
「え?」
ジャンは自分の耳を疑うが、レオナルドは強い口調で再び言う。
「聞こえなかったのか!ここで討ち死にするという安易な道を選ばず、騎士ならばなんとしても生き残るという困難な道を進めと言っているのだ!」
「そんな・・・・確かに僕は未熟者で実力もありませんが、それでも最後までレオナルド様にお仕えしていたいのです」
真剣な眼差しで懇願してくるジャンに対して
(またイイ感じのセリフを!ジャン・・・あなどれないやつ!)
レオナルドは軽く嫉妬する。
従騎士ながら騎士以上の実力を持つジャンをこれ以上ここにいさせたらどんな『イイ感じのセリフ』を言いだすかわかったものではない。
「ジャン、私の聖剣の力は知っているだろう?私の聖剣は正直一人の方が力を発揮できるのだ」
「それは・・・」
ジャンはレオナルドのの持つ聖剣が力をもっとも発揮する条件を当然知っている。それゆえに『一人で残る』と言った意味も理解しているためにそれ以上何も言えなくなってしまう。
(ふっ、ジャンもまだまだだな。この程度で『イイ感じのセリフ』を言えなくなってしまうとはな!まあ、まだ子供だから仕方あるまい!)
レオナルドははそんな事を思いながらも
「ジャン・・・。死ぬ事は簡単だぞ?むしろ生きる事の方が苦しいのだ。簡単な道と困難な道、騎士としてどちらを選ぶのが正しいかは君ならわかるな?」
(ふっ、やはり俺の方がイイ感じのセリフを言えるな!)
とイイ感じのセリフを言う事ばかり考えている。
・・・誠実そのものの表情で。
その表情に純真なジャンはあっけなく騙される。
「・・・わかりました。僕は騎士として正しい道を選びます!でも、いつの日かレオナルド様と轡を並べられるような立派な騎士になってみせますのでその時は共に戦ってください!」
「ああ、約束だ」
(ジャン、お前はまだ若い。まだいくらでも『イイ感じセリフ』をいう状況を作り出せるはずだ・・・。悪いが俺の作ったこの状況を使わせるわけにはいかないな!)
白の聖騎士は満足そうな顔でジャンを見送る。
こうして従騎士ジャンが去り、イイ感じのセリフを言う相手がいなくなってしまった白の聖騎士。
白の聖騎士レオナルドはいったいどうなってしまうのか?
しかし、心配はいらない。
帝国軍は目前に迫って来ている。
(さあ来い、帝国兵ども!思う存分『イイ感じのセリフ』を言ってやるぜ!)
白の聖騎士はそう萌えるのだった。