白の聖騎士、イイ感じのセリフを言えない
「ここですよ」
ジルが案内した練兵場は千人単位の軍団が演習ができそうな広さがある。
それほどの広さがあるにも関わらず練兵場にはジルの言っていたように人っ子一人いなかった。ここまで人払いができるのは並大抵の身分の者では無理だろう。第三軍団の参謀という身分だがジルにはかなりの権力があるようだった。
「武器はどうしますか?僕は木刀を使わせていただきます」
シンゴは刀に似た形の木剣である木刀を使用するらしい。
「私は普通の木剣と・・・盾も使用していいのかな?」
レオナルドの問いに
「いいですよ。レオナルド様の戦いやすいスタイルで来てください。ああ、でも・・・」
シンゴは気安く答えながらも口ごもっている。
「どうしたのだ?何か言いたいことがあるなら言ってくれ」
「できたら魔法はなしでお願いしたいのです。純粋な剣技だけの手合わせをしたいのですが無理ですよね。レオナルド様は魔法戦士ですから」
シンゴはあくまでも剣の武者修行で旅をしている。魔法と剣を組み合わせるというレオナルドの戦型は知っていたが、剣技のみの戦いをしてみたいと思ったのだ。
「・・・いいだろう。魔法はなしでやろう」
(まあ、どっちみち勝ち目はないしな。聖剣が全開状態で互角に近い相手だからなあ。聖剣がなければまず無理だな)
「ありがとうございます。勝敗は相手を気絶させる、武器を破壊する、参ったといわせる、審判役のジルさんが止める、といったところでどうでしょう?」
「それでいい」
レオナルドは自分にあった木剣と盾を選ぶ。シンゴは愛用の木刀を持っているようでそれを使うようだった。
二人が武器を構えるとジルが双方の顔を一度ずつ見て開始の合図をする。
「双方よろしいか?いかなる方法をとってもよいが正々堂々と戦うことを期待する・・・。
では、はじめ!」
ジルの合図が練兵場に響き渡るが、シンゴはなかなか攻めかねていた。
レオナルドに隙がないわけではない。シンゴの眼から見てわずかながらも隙を見ることができる。
しかし、一流の剣士になれば相手の打ち込みを誘うためにわざと隙を作ることが多々あるので、その隙を馬鹿正直に見ることはできない。
それよりも問題なのはレオナルドに全く戦意が感じられないことだ。
普通、立ち合いともなれば勝ってやろう気負いが出たり、負けまいと緊張したりするものだ。
シンゴの心童流ではその心の動きを見ることを重視している。心の動きを読めば身体的な隙よりもはるかに相手の動きを先読みすることができる。
そしてシンゴには剣先の動きや相手の表情、構えなどからその心理を読む天賦の才があった。
(こんなにも剣気がないのはお祖父様以来だ・・・すごい人だなあ)
シンゴは焦りこそしないが感心していた。
しかし、レオナルドは・・・。
(聖剣なしで魔法禁止なら勝つのは100パー無理だ。いつでも負けたときのイイ感じのセリフが言えるように考えておかないとな・・・。王道パターンでいくか・・・意表をついた感じのでいくか・・・)
こんなことを考えているので戦意がないはずである。
一方審判役のジルは不思議に思っていた。
(聖剣がなければシンゴ殿の方が数段上だと思っていたが、攻めかねているようですね。シンゴ殿の心童流では私ではわからない何かが見えているんでしょうかね)
このジルはシンゴから審判役を頼まれるだけあって実はかなりの実力者で第三軍団の参謀の身でありながら帝国十剣士の一人に名を連ねているのだ。
そのジルの見たところでは聖剣を装備していればわずかにレオナルドが上で、聖剣がなければ明らかにシンゴの方が強いと思っていたがそうでもないようだった。
(困ったことになりましたね。聖剣がなければ実力差があると思ったから手合わせを許可したのですが、これでは二人とも本気で戦うことになってしまいます。怪我をされてはこまるというのに・・・)
ジルのそんな心配をよそにシンゴは打ち込む決意を固める。
(相手がお祖父様と同じなら、お祖父様とするときと同じようにするだけ!)
心を読めない祖父と戦うときはただ己の極めた技を無心で打ち込むようにしている。それと同じことをするだけだ。
(行きますよ!レオナルド様!)
普段のシンゴなら仕掛けるときの心の動きを読まれることはないが、やはり祖父クラスの相手だと思っているので気負いがあった。
そしてその気負いは(負けたらすぐに『イイ感じのセリフ』を言おう)と思っているレオナルドは敏感に察知する。
ガアン!
勝負は一瞬だった。
レオナルドの盾は弾き飛ばされ・・・。
その木剣はシンゴの首筋に突き付けられていた。
「・・・参りました」
シンゴは悔しそうに唇をかんでいる。
「・・・ふっ」
レオナルドはそうつぶやく。
「そこまで!勝者、レオナルド」
ジルが宣言して勝敗はついたのだった。
戦いの詳細は次話になります。




