白の聖騎士、ハッタリを言う
『聖断!!!』
クレディ、シエナ、ポッパーが三人同時にそれぞれで全力の『聖断』を繰り出すと、ピジョンが作り出した外界に影響がないはずのこの空間ですら震えそうなほどのエネルギーが一直線にピジョンに向かっていく。
だが、その一撃ですらもピジョンは紫の聖剣を使用することで無効化する。さすがにただの衝撃波では相殺できないがそれも紫の聖剣を使えば可能なのだろう。
「これほどの攻撃すら効かないとは嫌になりますね」
ポッパーは底なしとも思えるピジョンの力に珍しく弱音を吐くが、ピジョン自身はむしろ
(この程度しか力が出せないとは嫌になる)
と『精霊神』としての力を十分に出せていないと嘆いているのだ。
『自由自在』の力で紫の聖剣から少しづつ『紫の精霊神』としての力を抽出して今のピジョンとしての肉体を作り上げたのだが、依然として『紫の精霊神』の神体は紫の聖剣に封印されたままなのだ。
そのため強大な力を行使するにはこうして紫の聖剣を使ってそこから力を引き出すしかないのだ。しかし、それもこのかりそめの肉体では引き出せる力の量に限界がある。
(それにしても忌々しい封印よ。千年以上たってもいまだに完全には解けぬ)
悠然と構えている(実際には聖剣の力が出せないので一人だけ距離をとっているだけなのだが)白の聖騎士、レオナルドを恨めしそうな目でにらみつける。
その後も力を出し切れないピジョンと全力を引き出している三人の聖騎士はどちらも決め手を欠いた一進一退の攻防を続ける。一応レオナルドも神聖魔法でちょっかいをかけているが力量差がありすぎて、ほぼ空気だ。
もっとも、決め手を欠くといっても三人を殺さないように戦う(殺すのは白の聖騎士だと決めているからだ)のが難しいピジョンと、ピジョンを殺すことが難しい三人では全く意味が違っている。
こうなってくると重要になってくるのはレオナルドの存在だ。レオナルドを殺して見せしめにしたいピジョンとレナルドの加勢を期待している聖騎士たちの双方にとってレオナルドの行動がカギとなっている。
(うう・・・。めっちゃ期待されている。『イイ感じのセリフ』を言うには最高のシチュエーションなのだが、それを言うために必要な力を引き出せないんだよなあ。白の聖剣の『自己顕示』を引き出せない以上、あのレベルの戦いに近づいたら間違いなく瞬殺されるし・・・でも、あの眼。なんでお前は動かないんだよ?!って思われてるよね、双方から・・・)
いたたまれなくなったレオナルドはついに決意する。
「ポッパー、あと5分だけ三人でピジョンの気を引いてくれないか?」
「5分・・・何か考えがあるんだな?」
ポッパーの問いにレオナルドは黙ってうなづく。
その表情にただならぬ決意を感じたポッパーは
「姫、クレディ。聞いての通りだ。あと5分私たちで時間を稼ぎましょう!」
と再びシエナとクレディと共にピジョンに向かっていく。
(あの思いつめたような顔・・・レオナルドは『自己犠牲』の決意をしたようですね)
シエナは胸が締め付けられるような気持ちになるが、今はその気持ちを振り払って聖剣をふるっている。
そして当のレオナルドは、
(あと5分・・・・。それっぽいセリフなのでいってみたがマジでどうしよう?何の考えもないのだが、皆の視線に耐えきれなくなってつい言ってしまった・・・)
この後どうしようか悩んでいた。
(ああ。もう時間ないなあ。とりあえず『聖断』の構えでもしてみるか。って言っても今の状態じゃあとてもじゃないけど単独で『聖断』を使うことなんてできないんだよなあ。もう完全にハッタリだよ、これは)
それまではシエナと協力することで『聖断』を使用していたが、金色の聖剣が真の力を発揮しているシエナは単独で『聖断』を使いながら戦っているのでそれに頼ることはできない。
出せもしない『聖断』の構えをしながらレオナルドは(いや、俺マジで何やってんだろう)とそれまでのハッタリ人生を振り返って現実逃避をしているが、残酷にもタイムリミットの5分が近づこうとしていた。
そしてついにその時が来た時、(どうせ出ないだろう)と思いながらレオナルドがついに『聖断』を放つ決意をする。
「聖断!」
「ぐあああっ!な、なんだと・・・」
『聖断』の一撃をもろに受けたピジョンが悲鳴を上げる。さすがに死んではいないが『聖断』の直撃にかなりのダメージを負ったようだった。
その背後からの一撃はレオナルド・・・のものではなかった。
「シンゴ、どうやってここに?」
レオナルドが驚いて『聖断』の構えを解きながらピジョンの背後にいきなり現れた人物に問いかける。そう、それは信じられない事に黒の聖剣を使ったシンゴの一撃だったのだ。
「聖騎士の道ですよ。僕は一度見た技はたいてい使えます」
シンゴは本継承を済ませたことで『聖断』と『聖騎士の道』という聖騎士の技を使えるようになったという。
「聖騎士の道だって?しかしこの場所をどうやって突き止めたんだ・・・そうか、聖剣のある場所に飛んだのか!」
レオナルドはシンゴに問いながら自ら答えを導き出している。
『聖騎士の道』は任意の場所に空間転移できる聖剣使いの固有の技だが、その場所がわからなければ空間転移できない。しかし、任意の場所以外に転移できる場所がある。それが聖剣のある所だ。
「はい。聖剣が5本もそろっていましたら波動をたどるのも簡単でしたよ」
屈託ない顔でいうシンゴに(いや、全然簡単じゃないだろ。俺が聖騎士の道を修得した時は三日寝ないで修得して5キロやせるほどの努力したんだけど)とレオナルドは改めて才能って不公平だなと思う。
(まあ、その不公平のお陰で助かったんだけどな)
ちなみにレオナルドが助かったと思ったのはシンゴが来てくれたからではない。その後ろにもう一人の人物の姿を見たからだ。
「精神魔法の影響を受けない剣を譲り受けてきましたが、この様子では私が来てもたいして役には立たないようですね」
『聖断』をまともに受けても致命傷に至っていないピジョンを気味悪そうに見ながらタイユフールは自虐しているが、レオナルドは心の底から嬉しそうにタイユフールの両手を取る。
「いや、来てくれてよかった。おかげでピジョンを倒せそうだ」
(はーはっはっはっはっは!いいぞお!タイユフールが来たってことはここで俺が『イイ感じのセリフ』を言ったら間違いなく歴史に残る!しかも相手は『精霊神』!言ったら神だよ神。人間相手にチマチマと『イイ感じのセリフ』を言うのとわけが違うね!神相手に『イイ感じのセリフ』を言って止めを刺す。こんな燃えるシチュエーションは他にないだろう!なあ、白の聖剣!)
レオナルドの伝記作家であるタイユフールが来た事で、レオナルドの活躍を世界中に広める未来が示された。それによって白の聖剣の『自己顕示』が最大限にいかせることなったのだ。
(多少、前借感はあるが、お望み通り『自己顕示』できるだろう?)
レオナルドの問いかけに答えるようにこれまで見せたことのない輝きを白の聖剣は放ちだす。
「・・・な、なんだ・・・この力は!?」
白の聖剣から自分と同等以上の力を感じてピジョンは文字通り驚愕している。
「バカな!人間が聖剣から引き出せる力の限界を超えている!完全に白の精霊神と精神を一体にしたというのか!自己犠牲などという偽善の力がそれほどまでになる事などあり得ない!」
みっともなくわめいているピジョンに、レオナルドは不敵に笑いながら
「あり得ないかどうか、確かめてみるといい」
(よっしゃー!これこれー!これだけの力があれば思う存分『イイ感じのセリフ』が言えるってもんよ!さーて、どんな『イイ感じのセリフ』を言ってやろうかな~!)
いつもの調子を取り戻したのだった。
次回最終回の予定です。・・・たぶん。
たぶんて便利な言葉ですね。私は大好きです。




