金色の姫騎士、イイ感じのセリフを言う
よくわからない理由でに焦っているレオナルドと違ってポッパーは『機智奇策』の条件を満たすための策を着実にすすめていた。
ポッパーが策を考える第一段階として用いた方法はピジョンの戦い方を見る事だ。そうして現在の戦況を把握する。
その結果ピジョンは人知を超えた力を持ちながらも聖騎士たちを傷付けないように戦っていると判断した。
第二段階はその分析した状況に適した対応策を考える事だ。
『精霊神』として圧倒的な強さを誇るピジョンには聖王国最強の聖騎士で安定した強さを誇るクレディがその力を発揮しても決定的なダメージを与えられないだろう。
(通常状態ではクレディには及ばないものの、条件がそろった時に爆発力のある自分かレオナルドが主戦力にならなくてはならないだろう。・・・姫には申し訳ないが我々とでは単純に基礎的な戦闘力が違い過ぎるからな。これが普通の考えだ)
クレディ達がピジョンと戦っている間にも的確に神聖魔法を放って牽制しながらポッパーは考えをまとめている。
「ほらほらほらあ!その程度ですかあ!」
ピジョンが狂気的な叫びを上げる。聖騎士たちを傷つけない戦いに次第に余裕がなくなってきているように見える。
(やつの動きが変わって来ているな。長期戦になるのを嫌っているのか・・・。だがこの変わり方はチャンスでもあるが、危険な賭けにもなる)
もし、誰かを見せしめに殺すつもりなら、今までの行動からして狙われるのは白の聖騎士だろう。そしてそれこそが『自己犠牲』の聖剣である白の聖騎士にとって最大のチャンスであるとポッパーは考えている。
・・・誤解とは恐ろしいものである。このままいけば『自己犠牲』の聖剣なんて持っていないレオナルドは無駄に命を懸けさせられる事になるが、ポッパーの思考は更に飛躍する。
(このままいけば白の聖剣の条件が整うは時間の問題ですが、それだけではピジョンを倒すにはまだ足らない。緑の聖剣と金色の聖剣も力を引き出さないと・・・ここは姫の勇気にかけるしかないですね。姫の勇気次第なんて『策』と言うには稚拙すぎるものですがこれにかけるしかないのです)
白の聖剣を『自己犠牲』の聖剣だと思い込んでいるポッパーだが、シエナに合図を送る。シエナはそれを見て目を見開く。
(あ、あれをしろというのですね・・・。ついにこの時がきましたか。ポッパーの判断には間違いはないでしょうが、彼は私がクレディか何かと勘違いしているのではないでしょうか。あれをするにはかなり勇気がいります。でも、勇気を出さなくては・・・)
やがてシエナは覚悟を決めたようにレオナルドに向き直ると、言った。
「レオナルド様。愛しています」
「姫、急に何を・・・」
まるで死亡フラグのようなセリフを言うシエナにレオナルドは動揺を隠せない。
(え?何?姫はどうしちゃったんだ?シンプルだけどストレートな『イイ感じのセリフ』をいきなりいうなんて!まるでこの後死ぬような・・・。いやいやいやダメだぞ!?そういうのは俺のだよ?いくら姫でもそれはダメだよ?俺よりいいシチュエーションで『イイ感じのセリフ』を言っちゃあダメだろ!それはいろいろヤバすぎる!)
斜め上の心配するレオナルドの表情をどう解釈したのかわからないが、シエナは笑顔で話す。
「誤解しないでください。もしかして私がこれから命を懸けた特攻をするように見えましたか?私がしたのは今まで心の奥底に秘めていた真実を明らかにしただけ。私の聖剣、金色の聖剣は『真実一路』の力を引き出すために!」
(心の奥底・・・みんな知っていたと思うが)
クレディが珍しく心の中でツッコミを入れるがそれを無視して金色の聖剣は今までにない力を発揮する。
その膨大な力の奔流を目の当たりにして
「愛の力は偉大ですね」
軽口叩くポッパーに、
「ポッパー、あなたがいざとなればこうしろと言ったんでしょう。無茶苦茶な策だとは思いましたが、でも確かに効果があったようですね」
金色の聖剣の真価を引き出す『奇策』(愛の告白)を成功させたことで緑の聖剣も金色の聖剣ほどではないが、その力を高めている。
真の力を引き出した金色の聖剣と、条件を満たして強化された緑の聖剣、そして元々安定した強さを発揮してきた青の聖剣。
(愛の告白をして力を発揮するなんて、姫、めっちゃ主人公っぽくない?なんか急に俺がヒロインポジションに・・・)
唯一聖剣の力を引き出せていないのでみんなに守られるような格好になっているレオナルドは焦るがどうにもならなかった。
それも仕方ない。『自己犠牲』ならぬ『自己顕示』を力の源とする白の聖剣の力を示すための観客が少なすぎるのだ。
ピジョンの力によって別の空間に飛ばされたためにここにいるのはレオナルドを含めて5人しかいない。これでは『自己顕示』の力を示しようがないのだ。
(ピジョンも余計な事をしてくれちゃったよねえ。城の中なら確かに俺たちが本気で戦えば王宮がぶっ壊れて被害が出るかもしれないけど、その騒ぎで嫌でもギャラリーが王宮中から寄ってくるから俺も『イイ感じのセリフ』を言いまくって白の聖剣の力を高める事もできたのに、ここでは誰も来ないからどうにもならないじゃないか!)
人間の被害を出さないために別の空間に転移したピジョンよりも人間の事を思っていない聖騎士だ。すがすがしいほど『イイ感じのセリフ』が最優先であった。
(そもそも愛の告白が『奇策』って緑の聖剣、判定甘くない?そんなの『奇策』でもなんでもないじゃん!なんでそんなので力発揮してんだよ!とんだ尻軽聖剣だよ!)
レオナルドの批判は緑の聖剣にも及びつつあった。自分も幾度となく白の聖剣の結構甘々な判定に救われているはずなのだが。
レオナルドがそんな事を考えているとは知らない三人は聖剣の力をフルに生かしてピジョンを次第に追い詰めていくが、
「ええい!鬱陶しいわ!」
ピジョンの手加減なしの渾身の衝撃波に力を発揮した聖剣を持った三人もさすがに吹き飛ばされてしまう。ただ一人蚊帳の外にいた レオナルドだけが無傷だが相変わらず聖剣の力を引き出せていない。
「・・・レオナルド、どうして聖剣の力が発揮できないんだ。まさか、怖気づいたのか」
『自己犠牲』の白の聖剣の力を引き出せない様子のレオナルドにポッパーは疑念を持ってしまう。
(白の聖騎士とはいえやはり自分の身がかわいいのか・・・。いや、無理もない。あれは・・・規格外すぎる)
全力に近い三人の聖剣使いでも一蹴されたのだ。聖剣の力を引き出せていない中途半端な状態で近づけば下手をしたら力を引き出す間もなく一瞬で殺される。しかし、そうやって自殺行為をする事が『自己犠牲』の条件を最大限に引き出すはずなのだがレオナルドはそれをしていない。わが身可愛さと思われても仕方ないだろう。
「そんなはずはありません!レオナルドは今までだって何度も、どんな場面でも、命を懸けて、身体を張って、戦ってくれたのです。きっと何か考えが・・・」
レオナルドを必死に庇うシエナのセリフに、
(姫・・・。またそんな『イイ感じのセリフ』を言っちゃってえ・・・。すんませんこんな『イイ感じのセリフ』一つ言えないクズのために・・・)
レオナルドは嫉妬と感謝の入り混じった感情を抱いていた。