白の聖騎士、イイ感じのセリフを言えない
想定外の展開にピジョンは考えを巡らせる。
(まさか私の本気の『精神制御』を抵抗するとは。聖剣に宿る『精霊神』と最も親和性を高めているのは白の聖騎士だとは思っていましたが、これほどまでとは思いませんでしたね)
ピジョンは軽く驚いてはいるが、特に追い詰められた様子はない。
確かに『精神制御』を防がれたのは意外ではあったが、この状況に合わせた行動をとることは難しくない。それこそ実行できる手段は何通りもあったのだが、ピジョンが採用したのは最も単純で一番効果的である方法だった。
「・・・仕方ありませんね。あまりこの方法はとりたくなかったのですが、少々実力に訴えさせてもらう事にしましょう」
実力行使だ。
といってもピジョンは聖騎士たちを倒すつもりはない。
聖騎士は一人一人が聖王国にとって国の命運を左右するほどの強力な戦力なのだ。表立って『精霊神』としての力を見せる気はないピジョンとって、今後も彼らには役に立ってもらう必要がある。
(聖剣持ち四人相手に生かさず殺さず心を折る。ハンディキャップのあるゲームは嫌いではありません)
レオナルドが嫉妬しそうな『イイ感じのセリフ』を心の中で言うピジョン。
『精霊神』であるピジョンにとって人間相手に不可能なことなどないし、難しいこともほとんど存在しない。しかし、自分と同じ『精霊神』の力を片鱗を使う聖剣持ち相手なら多少は楽しめるだろう。
「さあ、どこからでもかかってきなさい。あなた方と私にどれほどの差があるか思い知らせてあげましょう。それこそ、嫌と言うほどに・・・」
ピジョンが戦いを宣言している最中に、
「聖断!」
クレディがいきなり聖騎士の奥義を放つ!
『勇猛果敢』の青の聖剣を持つクレディは条件を満たす事が厳しい他の聖剣と違って、あらゆる場面で力を発揮しやすい。
もっともそれはどんな時でも勇気を失わないというクレディの心の強さがあるから出来る事であって言うほど簡単な事ではないのだが。
その思い切りの良さは完全にピジョンの不意を突いたように見えたが、紫の聖剣を軽く振り下ろしただけで『聖断』は霧散してしまう。
それに怯むことなく、今度は
『聖断!!』
クレディに少し遅れてレオナルドとシエナが協力して『聖断』を放つ。二人がかりで放った『聖断』はクレディのそれと同程度の威力だったがこれも一振りであっけなく無効化される。
だがその間に距離を詰めていたクレディが果敢に接近戦を仕掛けるが、
「無謀!」
の一言の元にピジョンが放った衝撃波にクレディは後退を余儀なくされる。
(退かせることができましたか・・・。いや、退いたのか)
クレディは猪突猛進に攻めているように見えて冷静だ。ギリギリの所を見極めて、ピジョンに退かされる前に自ら後退している。そのため退かされた時にできる僅かな隙がなく、ピジョンは嫌でもその存在を意識してしまう。
「素晴らしい戦闘センスですね。地力は私に遥かに及びませんが・・・」
またしてもピジョンの話の途中でレオナルドが(言わせねーよ!)とばかりに神聖魔法を放ち、シエナ、ポッパーも立て続けに神聖魔法を時間差で放つ。その威力は騎士ながら神官顔負けだが、当然ピジョンには通用しないが連続で放つ事で小うるさい虫が飛び回っている程度の面倒臭さを感じさせている。
接近しようと再び動き出しているクレディに続いて今度はレオナルドとシエナも接近戦を試みる。
今度も衝撃波で迎撃しようとするピジョンの動きを読んでいたように、レオナルドとシエナはその場にとどまって『聖断』の構えを取ると、威力を犠牲にして発動を速めた『聖断』でピジョンの衝撃波を相殺する。
衝撃波が消えたことによりクレディが更に一歩踏み込もうとすると、ピジョンは僅かに下がりながらクレディの一撃をかわすと間合いを開ける。
(やはりそうですか・・・)
主戦に加わらないでフォローに回っているポッパーには分かったことがある。
(ピジョンは接近戦を嫌がっているように見える。それは接近戦で自らを傷つけられることを恐れているわけではない。むしろ逆だ。こちらを傷つけ過ぎないようにするためのようだ)
『聖断』を一振りで無効化できる紫の聖剣の一撃を当ててしまうと、下手をすると相手を殺しかねない。ピジョンがその気になれば聖騎士たちはすぐに全滅してしまうだろう。
(こちらが多数なのに相手に手加減されたのは聖騎士になって初めての経験ですね)
しかしポッパーはそれを屈辱だとは思わなかった。そんな無駄な感情を抱くよりも、ピジョンを倒す事に思考を集中していたからだ。
ピジョンに一定の警戒をされているクレディは確かに個人の戦闘力は間違いなくこの中では最強だが、ピジョンという化け物を倒すには自分の能力が必要だと思っているのだ。
事実、ここまでの聖騎士たちの戦い方は事前に打ち合わせておいたポッパーの作戦通りだ。
(クレディは安定感のある強さがありますがそれは人間相手までにしか通用しないでしょう。規格外の相手には私かレオナルドでなければ・・・)
条件を満たすのが難しい『機智奇策』か『自己犠牲』(本当は『自己顕示』だか)を最大限に発揮しなければ勝機はないが、ポッパーの場合はその特性上、初めての相手には時間がかかり過ぎるし、レオナルドの場合は危険な状態にしなければならないのでやられない程度に時間を稼ぐ必要があるためにこういう戦い方になっていたのだ。
しかし、このやり方には思わぬ効果があった。
(面倒ですね。・・・一人くらい殺してみてもいいかもしれませんね)
ピジョンは次第に危険な苛立ちを覚えていた。
ちなみにレオナルドも、
(こいつ・・・!強すぎて『イイ感じのセリフ』を言う余裕が全くないじゃないか!)
とこちらもある意味では危険な苛立ちを覚えていた。




