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白の聖騎士、置いてけぼりになりそうになる


 『精霊の間』・・・聖王宮の中心部に位置するそこはいつの頃からかピジョン宰相が王宮での大半を過ごすようになっていた場所だ。


元々はダンスホールとして使われていた場所だったが、ピジョンが宰相になってから改修されて聖剣の元になったと信じられている『精霊神』を祀っている場所になっていた。


 聖剣自体の神殿は本継承でも使われる聖剣の台座がある『聖堂』が古くからあるのだが、その聖剣に宿っている『精霊神』を祀る場所が必要だろうとピジョンが主張して作らせたものだ。


「皆さん、準備はいいですか」


 シエナの問いに皆、緊張した面持ちで頷く。もっとも緊張した理由はクレディとポッパーは純粋に戦いに対する緊張感だったが、レオナルドはもちろん(さあ、いよいよ最終決戦だぞ。・・・うまく、『イイ感じのセリフ』を言えるかなあ)という緊張だ。


 クレディが扉を開けるとそこにはピジョンが待ち構えていた。


 「これはこれは、ご立派な皆さま方がお揃いでどうされましたかな」


 ピジョンはさして驚いた様子もなく悠然と問いかけてくる。シエナはまだしも帝国領にいるはずのクレディやポッパー、そして帝国軍に寝返ったレオナルドがいるにも関わらずこの反応だ。


 四人の聖剣の持ち主を相手に余裕の態度を崩さないピジョンは得体が知れない。少なくとも今までのピジョンの印象ではない。本来なら武闘派ではないピジョンに余裕があるはずがないのだ。


 戦場で鍛えられた四人ですら底冷えするような冷たい視線を送ってくるピジョンの無形の威圧感に皆、圧倒される。


 (・・・これがピジョンの本性ですか。とんだ狸でしたね)


 と自らも裏表があるポッパーなどは驚いている。


 そんな中で全く圧倒されていない者がいた。レオナルドだ。


 (『どうされましたか』ときたか。なかなか『イイ感じのセリフ』じゃないか。さーて、ここはどうやって返答しようかな。大事なとこだよね~。よーく考えて『イイ感じのセリフ』を言わないと・・・)


 などとのん気に構えていたのだが、、


 「貴様の企みもこれまでだ!観念するんだな!」


 青の聖騎士クレディが口火を切る。さすがは勇猛果敢の青の聖剣の持ち主だけはあっていち早くピジョンの威圧感から解放されている。


 「企み?何のことでしょう?」


 「白々しい事を!あのような者たちまでけしかけておいて知らぬ存ぜぬでは通りませんよ!」


 クレディの発言に勇気づけられたのかシエナは金色の聖剣を構えながら裂帛の気合いを込めた臨戦態勢をとるが、ピジョンはそれすらも意に介していない。


 「ああ、あの者たちの事ですか。全く役に立たない者たちでした。せっかく私が力を与えてやったというのに足止めすらできないとは情けない限りです。所詮ザコですね。力の使い方がなっていません」


 「あなたと言う人は・・・!」


 部下を部下とも思わないピジョンの発言にシエナは怒りを禁じえないが、ピジョンの視線は自分ではない者に向かっている事に気付く。その視線はそう、一直線にレオナルドに向いている。


 シエナがレオナルドの方を見るといつも冷静なレオナルドがかつてないほどの怒りの表情を見せている。その身体は憤怒にうち震えている。


 (レオナルドがこれほどの怒りを見せるなんて・・・。初めて見ました。どんな場面でも冷静に対処しているのに、ピジョンがそれだけの相手だと言うことなの?)


 シエナはそんな風にレオナルドの怒りを理解しているが、この白の聖騎士がそんな事で怒るわけがなかった。


 (お、俺を差し置いて皆でなんか『イイ感じのセリフ』を言い合ってる!お、おかしくねえ!?クライマックスだよね!?ここで『イイ感じのセリフ』を言うのは俺の役目だよね?マジでおかしいよねえ!?いくら『イイ感じのセリフ』を考えてて出遅れたとはいえ俺は命懸けで帝国からここに来てるんだよ?その俺を差し置いて『イイ感じのセリフ』を言い合うとかありえないだろ!?

 ・・・よーし、そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ!なんでもありってことだよな!?後悔するなよ!俺はどんな手段を使っても俺のための『イイ感じのセリフ』の場面にしてやるからなあ!)


 その怒りのすさまじさはピジョンでさえも無視できなくなったのか、


 「姫、困りますなあ。いくら恋仲とはいえ帝国に寝返った者をおそばに置いているとは、聖王国の姫君にあるまじきことですよ」


 ついこの場から排除しようとレオナルド個人に話を振ってしまう。


 (今だ!ここで言う!)


 自らに話が来たレオナルドはその好機を逃さない。

 

 「茶番はそれくらいにしておくのだな、ピジョン」


 あくまでも怒りを抑えた、しかし、強力なプレッシャーを感じさせる言い方をするレオナルド。


 (今だ!ここで言う!)という心の声がなければなかなか格好いい場面だ。


 「茶番?」


 レオナルドの言葉にピジョンが今までとは違う反応を見せている。今までとは違い何か気に障るような表情だ。


 ポッパーはその違いを見逃さないですぐに考えを巡らせる。


 (レオナルドの『茶番』に反応した。つまりレオナルドのセリフはピジョンの痛いところをついたのだろう。『茶番』とは何を指しているのか私にもわからないが、レオナルドは何かに気づいているのか?)


 ポッパーは自分以上にレオナルドが深い考えを持っていることに感嘆しているが、実際は・・・


 (ふうー。言ってやったぜ!『茶番』。これでこれまでの『イイ感じのセリフ』やり取りは全部ただの『茶番』になり下がったというわけだ!・・・まったく俺を差し置いて『イイ感じのセリフ』を言ったりするからこんな事になるのだあ~。さあ、これからが本番だぞ!)


 何の考えもなく、自分が介入できなかったやり取りを『茶番』と決めつけただけだった。



 


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