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東方の少年剣士、イイ感じセリフを言う

 タイユフールを残して先に進んでいたレオナルド一行。しばらくは順調に進んでいたのだが、さすがにピジョンは甘くはなかった。


ピジョンがいるはずの『精霊の間』に向かう途中にある『騎士の領域』と呼ばれる廊下には、すでにピジョンの手の者たちが先回りして立ちはだかっていたのだ。


 敵がいる事はレオナルド達もある程度予想していたが、問題はその『敵』の姿だ。


「ねえ、前にも思ったんだけど聖王国の人ってずいぶん個性的な人たちがいるわね」


 レイミアは以前聖都の中でレオナルド達聖騎士のコスプレをしている人たちを見た時と同じような事を言っている。


 「いえ、あれはさすがにおかしいですよ。私も初めて見ました」


 誤解しないでくださいとばかりにシエナは即座に否定する。


 シエナが否定するように確かにそいつらは異常だった。

 

 人の形はしているものの、その目は人の生気は感じられない。まるでガラス細工のような瞳は生物の物とは思えなかった。また皮膚の色も様々で、赤や紫、緑や青といったさまざまな装いで、さらに異様に濃い毛に覆われていたり、鱗がびっしりと生えている者すらいる。


 その割に背格好だけは測ったかのように全員同じ大きさなのも気味悪さを際立たせている。


 「彼らはピジョンの私兵でしょうね。もっとも私の知っている姿ではないですが。いよいよピジョンもその本性を隠す気がなくなってきたと言うことでしょうね」


 まるで魔物の様な者たちを従えているピジョンの異様さに改めてシエナは息をのむ。


 深刻な顔をしているシエナに、レイミアはわざとらしくため息をつくと、腰の剣を抜き放ちながら


「・・・仕方ないわね。ここはあたしが食い止めるわ。あんたたちは先に行きなさいよ。この先は聖騎士にしかできない事があるんでしょ。主役がいないと話にならないだろうから、聖騎士じゃないあたしが引き受けたわ!」


 レオナルドばりの『イイ感じのセリフ』を言っている。


 タイユフールに続いてまたしても出た『ここはオレに任せて先に行け!』系の『イイ感じのセリフ』にレオナルドは、


 (これってさっきと同じシチュエーションだよねえ。だからと言って同じ系統のセリフを言うと、ぜんっぜん『イイ感じのセリフ』じゃなくなっちゃうよねえ。またかよ!ワンパターンだな!って思われるだろうし。ここはまた別の切り口の『イイ感じのセリフ』を言わないとなあ・・・)


 どんな『イイ感じのセリフ』を言うか慎重にならざるえない。下手なセリフは言えば『ワンパターン使いまわ四郎』になってしまうのだ。


 レオナルドがそんな余計な事を考えている間に、シンゴが先にレイミアに『イイ感じのセリフ』?を言ってしまう。


 「レイミア、僕も残るよ。僕は聖剣は持っていても聖騎士じゃないからね。後は主役たちに任せる事にしよう」


 「シンゴ・・・いいの?」


 レイミアは意外そうな顔でシンゴを見ている。


 強い者と戦う事を至上の喜びにしているシンゴはピジョンとの対決を望んでいると思っていた。レオナルドが『イイ感じのセリフ』を言いたいように、シンゴは強敵と戦いたい。それは間違いないはずだった。


 しかし、シンゴはレイミアの問いに力強くうなづくと


 「ああ。好きな子を一人残していくわけにはいかないからね」


 サラッと衝撃的な事を言っている。


 「ああ。なるほど。ってえええええええ!?」


 納得しかけたが、思わずレイミアは驚きの声を上げる。


 「え?レイミアは僕の事好きじゃないの?」


 「そ、それは好きだけど・・・ってえええええええ!?」


 あまりにストレートな告白に完全にレイミアは押されている。今まで自分が一方的に好意を寄せていたと思っていたので理解が追い付ないようだ。


 「よかった。じゃあ、邪魔者を消そうか」


 無邪気な顔でシンゴは物騒な事を言っている。その瞬間に敵が一人倒れている。


 「は、はい!」


 レイミアは顔を真っ赤にしながら素直に答えながら、敵を一刀両断する。


 (ど、どういうことなのかしら。何かの冗談かしら。でも、シンゴはそんな冗談は言わないよね?!って言う事は本当にあたしの事が好きって事?!あたしはもちろんシンゴが大好きだし何の問題もないんだけど・・・)


 いろいろ考えながらシンゴの端正な横顔を見るレイミアは、


 (ああー、好き!これは絶対に絶対に好きなやつだ。ああもう、幸せすぎる!)


 そんな風に心中で叫びながらサクサクと斬殺している。


 レイミアは元々強いが、常に安定した強さを誇るレオナルドやシンゴと違って気分屋なところがある。しかし、今は100パーセント以上の実力を発揮する状態になっているのでシンゴにも引けを取らない速さで敵を倒している。


 シンゴとレイミアが完全に二人の世界にはいってしまい、レオナルドを無視した形で話が進んでいるので、この『イイ感じのセリフ』を言いたい病患者はさぞかしへそを曲げているかといえばそうでもなかった。


(こういうラブコメ的な『イイ感じのセリフ』は正直、守備範囲外なんだよなあ。そりゃあ、こういうのも『イイ感じのセリフ』ってわかるけど俺の得意分野じゃないんだよなあ。属性が違うっていうやつ?神聖魔法を得意としている俺が闇魔法の使用を苦手としているように、ラブコメ系の『イイ感じのセリフ』の使用は苦手なのだ)


 どうも『イイ感じのセリフ』ならなんでもいいというわけではないらしい。やはり属性が違う『イイ感じのセリフ』は使いにくいようだ。


 (そりゃー、たまにどんな属性の『イイ感じのセリフ』でも使えるチート野郎もいるだろうけど、残念ながら俺は全属性なんていうすごい人間ではないからなあ。俺がラブコメ系の『イイ感じのセリフ』を無理に言っても、威力は半減だろう)


 『イイ感じのセリフ』の威力とは何なのかわからないが、レオナルドは本気でこう考えているようだった。


 そのためラブコメ展開になるとあえて自分から近づかないようにしているので、嫉妬することもなく「すまない、後は頼んだぞ」とあっさりとシンゴとレイミアを残してレオナルドはシエナと共に立ち去って行きながら、


 (しかし、シンゴはラブコメ系の『イイ感じのセリフ』も言えるのか。侮れないな)


 変な事に感心していた。


                                                        

                                      *

        


 「二人きりになってしまいましたね・・・」


 ともすればラブコメ的なセリフを誘うような事を言うシエナに対して、


 「気を引き締めて行きましょう」


 とレオナルドはあくまで苦手属性のラブコメを避けた『イイ感じのセリフ』で答えるのだった。

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