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タイユフール、イイ感じのセリフを言う

「できれば黒の聖剣の本継承もしておきたいところだな」


 王宮に『聖騎士の道』で侵入するのならついでに表向きの聖王国入りの理由である黒の聖剣の本継承も済ませておきたいとレオナルドが提案するが、シンゴは反論する。


 「そんな余裕があるのですか?無理に寄らなくてもピジョンの所へそのまま向かった方が良いのではないですか?」


 「いえ、私も本継承をすましておくことには賛成です。確かに聖堂に寄ることはリスクですが、それ以上に本継承をする事にメリットあるのです」

 

 聖剣の所有者であるシエナはレオナルドに賛成する。ピジョンに対抗できるのが聖剣の所有者だけである以上、聖剣の力は万全にしておきたいのだ。本継承と仮継承ではその出力に倍以上の違いがある。


 「そもそもピジョンは僕とレオナルドさんがいても無理な相手なんですか?」


 シンゴは自分とレオナルドがいればたいていの相手は倒せると確信しているだけに疑問に思うらしい。


 「私の知っているピジョンなら私だけでもおつりがくるだろう。・・・だが、嫌な感じがする。こういう時の私はカンはよく当たる」


 ピジョンは宰相という政治職のわりには剣が使えるが、聖騎士に比べるとふたまわりは落ちる。レオナルド一人でも余裕で勝てる相手だ。

 

 では、なぜレオナルドはこんな発言をしたのだろう。その答えは・・・


 (こう言っておけば万が一ピジョンが強くて苦戦しても『さすがはレオナルド。相手の真の強さを見抜いていたのですね』となるし、あっさり勝ったとしても『あれほど強いと言っていたピジョンをあっさり倒すなんて・・・さすがはレオナルド』となるわけだ)


 どっちに転んでもレオナルド自身が『さすが』と言われる様に『イイ感じのセリフ保険』をかけているだけだった。


 結局レオナルドの意見を取り入れてシンゴの黒の聖剣の本継承を済ませるために『聖騎士の道』は王宮内の聖堂に開くことにした。


 指定した時刻にシエナが聖堂の人払いをしておいて(シエナが金色の聖剣の台座で集中するためと理由を付ければ可能だろう)レオナルドがそこに『聖騎士の道』を開く。こうすれば自然と他の者がいない状態で『聖騎士の道』を開けるというものだ。


 「決行の日時はおって知らせます。では、また会いましょう」


 シエナはマリーを伴って帰って行く。レオナルドと別れるのは名残惜しいがピジョンが危険な存在とわかったからには長時間、城を抜け出すのは良くないと判断したのだ。



 三日後、、マリーからの知らせで翌日の正午にレオナルドはシエナの元に『聖騎士の道』を開くことになった。


                                      *



 「上手くいきましたね」


 タイユフールは聖堂の黒の聖剣の台座でシンゴの聖剣の本継承を済ませるとホッとしたように一息ついている。


 正午にレオナルドが『聖騎士の道』を作って無事にシエナのいる聖堂にたどり着いたレオナルド、タイユフール、シンゴ、レイミア。


 仮継承との時と同じようにタイユフールが儀式を担当したのだが、シンゴは穏やかでない事をつぶやく。


 「いえ、そうでもないようです」


 「そんなことないでしょう。私の儀式は完ぺきでしたよ」


 思わぬシンゴの否定の言葉にタイユフールは憮然とする。


 その様子を見てシンゴは慌てたように手を振って、


 「ああ、違うんです。儀式は上手くいったと思いますが、まずい事に敵に見つかりましたね。敵意を持った者が一人こちらに向かってきているようです。なかなかできる相手の様ですね」


 シンゴは相変わらずの感覚の冴えを見せる。

 

 「一人ですか。では、私が食い止めます」


 タイユフールはこういう事態になったら宣言しようと思っていたように即座にしんがりを引き受けている。この後にピジョンの所へ向かう以上ここで手間取るのは得策ではない。他の者たちが一直線にピジョンのもとへ行けるように食い止める者が必要だろう。


 『一人で敵を食い止める』という『イイ感じのセリフ』を言われていつものレオナルドなら(タイユフール、俺を差し置いて『イイ感じのセリフ』を言うなんて!)と思って嫉妬に狂うところだろうが、


 「タイユフール、任せたぞ」


 と普通に後を託している。そのあまりにもあっさりした様子にレイミアが眉をひそめる。


 「ちょっと、本当にタイユフールだけおいていくつもり?」


 敵中で単独行動する事自体が危険な事なのに、一人で足止めをさせるのはあまりに無謀に見える。


 「タイユフールなら心配いらん。無理だと思えるようなことでも、任せられる男だ。だから、任せる」


 タイユフールはレオナルドがかつて帝国軍相手に一人残った時と同じ状況に自分を置いている。規模こそ違うが命懸けで敵を食い止める事には違いない。なにしろシンゴが『なかなかできる』とまで言っている相手だ。弱いわけはないだろう。


 (任されたからには命に代えても食い止める)


 そんな悲壮なタイユフールの決意も知らずにレオナルドはこんな事を考えていた。


 (タイユフール、おいしいシチュエーションだな。上手くやったな。正直俺がやりたいくらいだ。うらやましいぜ!タイユフール!普通だったらここで俺の立場なら『必ず生きて帰れ』的な『イイ感じのセリフ』を言うところだけどな、タイユフール・・・今回の俺は一味違うぜ)


 レオナルドは真剣な目でタイユフールを見ると

 

 「使命を果たせ、タイユフール。私も使命を果たす」


 「・・・はい!」


 あえて命の危険には触れず、ピジョンを倒すという至上の目的を果たす事だけを告げたレオナルドの激励にタイユフールもレオナルドの自分に対する信頼を感じて必ずやりぬくという気持ちになっているが、レオナルドは・・・


 (今回の俺は自分が残って犠牲になって『イイ感じのセリフ』を言うのではなく、犠牲になろうとしている者を苦渋の決断で残して『イイ感じのセリフ』を言うという立場だ。こういう時に『生きて帰れ』的なセリフは使い古されて少し弱いからな。使命を最優先する的なセリフこそ真の『イイ感じのセリフ』ってもんよ!)


 こういう事だった。

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