白の聖騎士、知識を披露する
ピジョンは聖都にも屋敷を構えているが、王から絶対的な信頼を寄せれて全権を任せられているためかほとんど屋敷に帰る事はなく王宮の中にいるらしい。
もちろん王宮の中でも姫であるシエナの手引きがあれば、警備の厳しくない範囲までは簡単にはいる事ができるだろう。
だが、王宮の深部はさすがにそうはいかない。
何よりピジョンは聖騎士たちに対抗して私兵を王宮内に多量に入れている。普通なら問題になるところだが、これも王の信頼を盾に黙認されている。
「思ったよりも難しい状況ですね。ピジョンに近づくのは容易ではないようです」
レオナルドは王宮の現状を聞いて厳しい顔をしている。
「『聖騎士の道』を使えばよいのではないですか?」
シエナも聖剣を持っているだけあって聖剣所有者だけが使える瞬間移動の術である『聖騎士の道』の存在は知っているのだ。
「なるほど・・・。それは良い考えですね」
とレオナルドがハッとしたように同意するが、タイユフールが口を挟んでくる。
「待ってくださいよ。確か『聖騎士の道』では王宮内には入れないんじゃなかったですか?そのために王宮に潜入する方法を探していたじゃないですか」
『聖騎士の道』で王宮に入ることは一度検討されたことだ。その際にレオナルドから「『聖騎士の道』の瞬間移動でも王宮には結界が張られているから直接入る事はできない」と説明されている。
「確かに『聖騎士の道』の道では王宮に入れないと私は言った。だが、何でも物事には抜け道があるのだ」
レオナルドの言葉を受けて、シエナが続ける。
「基本的には『聖騎士の道』では王宮の結界は破れませんが、聖剣所有者の元になら『聖騎士の道』の出口を開くことができるのです」
「それならそうと初めから・・・ああ!そういうことね!」
レイミアは文句を言いかけてある事に気づいたらしい。
「そういうことだ。姫の協力を得る事ができたから初めて『聖騎士の道』の抜け道が使えると言うことだ」
聖剣所有者の元に『聖騎士の道』の出口を開くことができても、その聖剣所有者がこちらの味方でなければ意味がない。それどころか下手な相手の所に出てしまえば出た先ですぐに強敵との戦闘になってしまうだろう。
金色の聖剣の所有者のシエナが味方になって初めて使える手だ。
「それで潜入できたとして、ピジョン宰相を暗殺するんですか?いくら姫がこちら側についてピジョン宰相が国民に精神魔法をかけて洗脳していたと騒いでも、帝国の者が暗殺したのでは聖王国の帝国に対す悪感情はかえって高まるんじゃないでしょうか」
タイユフールは暗に暗殺ではこの戦争は解決できないと主張する。これはタイユフールの純粋な意見なのか、精神魔法に支配されてピジョン宰相に危害を加えないようにするために無意識に言わされたのか。
一見、正しい意見のように見えるタイユフールに対してレオナルドはあっさり否定する。
「いや、そうはならないだろう」
「どういうことですか?」
「ピジョンは聖王国一帯というかなり無茶な範囲で精神魔法をかけている。これほどの規模の精神魔法が解除されればつじつまを合わせるために術者へのそれまでの好意が、そのまま悪感情に変化するはずだ。この場合ピジョンは殺されても当然の大悪党だと思われる事になるだろう」
淡々と説明するレオナルド。
「それ?本当?そんな話聞いたことないけど」
レイミアは少し疑っているようだ。この意外とするどいお嬢様はレオナルドの言動に時々ハッタリの様な物があることに気付きつつあるのだ。元々人を見る目があるがマリーの影響も大きい。
だが、そんな疑いをシエナが否定する。
「レオナルド様が言う事は正しいと思います。何しろ魔法の知識に関してはレオナルド様はかなりのものです。何しろ王国の魔法学者にスカウトされていたくらいですからね」
シエナは冗談ともとれるような言い方をしているが実際にレオナルドの魔法の知識はそのくらいすごいものだ。
実はレオナルドはあまり物覚えがいい方ではないし、剣術と違って勉強は大嫌いなのだが(人が知らない知識を知っていれば人が言えない時に『イイ感じのセリフ』を言う事ができるはず!)との考えて必死に魔法の知識を詰め込んだものだ。
この白の聖騎士は『イイ感じのセリフ』を言うためならどんな苦労も厭わない。
「聖騎士として単独の任務を果たすために魔法の知識はあっても困らないものだ」
レオナルドはしれっとした顔でこんな事を言っているがもちろん『聖騎士の任務のため』ではなく『イイ感じのセリフ』ためなのだが、そんな理由であることを想像できる者などいるはずがなかった。