七人目の聖騎士
「思い返してみれば私のピジョンに対する批判を少なからず受け入れてくれたのは聖騎士たちだけでした。彼らは私同様に聖剣の加護があるからピジョンの精神魔法に逆らう事ができたのだと思います」
シエナが言う事は事実なのだがタイユフール達にとってはあくまで推測にすぎない。
むしろ自らに都合のいい解釈をしているところもあるので普通に考えたら懐疑的に受け止めらても仕方ないところだが、
「そうなるとピジョン宰相に対抗できるのは聖剣の所有者だけになりますね。聖剣を持たない私たちでは最悪の場合ピジョン宰相を守る側に回ってしまう可能性があります」
タイユフールは自分が精神魔法の影響を受けている事を前提に話ができている。
もちろんタイユフールには精神魔法を受けている自覚などないが、レオナルドへの信頼がその判断をさせていた。
「精神魔法ねえ・・・。さすがにそこまでの強制力はないんじゃないの」
同じように精神魔法にかけられている自覚がないレイミアは少し懐疑的だ。これが普通の反応だろう。
「レイミアが疑うのはもっともだと思うけど、僕はレオナルドさんの説が正しいと思う。ピジョン宰相への支持は不自然な形で保たれていると感じるんだよ」
「シンゴがそう言うならそうかもね」
シンゴに言われてあっさり手のひらをかえしている。
「今、聖王国には聖剣持ちは何人いるのですか」
レオナルドがシエナに確認する。
聖王国に伝わる聖剣は十本あるが、その全てに所有者がいるわけではない。聖剣に選ばれるだけの力量と各聖剣の『条件』(青の聖剣で言えば『勇猛果敢』など)を満たした者でなければ所有者になる事はできないからだ。
「そうですね・・・」シエナは聖剣の現状を説明する。
十本ある聖剣のうち現在持ち主がいるのは七本だ。
そのうち現在聖都に残っている聖王国側の聖剣持ちは金色の聖剣のシエナ、そして紫の聖剣を持つショウ・シース。
赤の聖剣、青の聖剣、緑の聖剣の持ち主は帝国領の要塞にいる。そして残りの2本の聖剣、白と黒は帝国側に渡っておりレオナルドとシンゴが所有してこの場にいる。
「ショウは残っているのですね」
「はい。王宮に一人は聖騎士を警備に残す事を取り決めてあったのでショウが残ることになったのです」
「そんな事が決められていたのですか」
レオナルドがいた頃はそんな取り決めはなかったので問い返す。
「あなたが帝国に捕えらえている間に決まったのです。緑の聖騎士ポッパーが王宮の警護に聖騎士を置くように進言したのです」
「ポッパーが・・・。何か考えがありそうですね」
レオナルドは意味ありげに口に手を当てる。その様子はポッパーの考えに心当たりがあるようにも見えるが、
(ポッパーかあ・・・。あいつは頭いいからいろいろ考えるもんなあ。きっと何かあるんだろうなあ。意味のない事をしないやつだもんな。だから、俺にはぜんっぜん想像つかないけどこう言っとけば間違いないだろう)
『機智奇策』の緑の聖剣を持つポッパーの名前が出たから(なんか考えあるだろーなあ)と反射的に答えているだけだ。そんな事も知らずにシエナはレオナルドの発言に賛同する。
「ええ。でも、そのポッパーもゴドフロアもクレディも聖都にはいません。彼らのうちの誰かが残っていてくれたら心強かったのですが」
聖騎士は聖剣の加護のおかげでピジョンの精神魔法の影響を受けないが、だからといって無条件にシエナの味方とも言えないのだ。
聖騎士たちは一枚岩ではなくて政治的にそれぞれの考え方があり、現に前の黒の聖剣の所有者であるラインハルトは他の聖騎士たちとは一定の距離を置いていてピジョンに従っていた。
逆に今シエナが名前を上げたポッパーたちはシエナ派として力を貸してくれていた。そして一人残っている紫の聖騎士ショウはというと、
「しかし、残っているのがショウだけですか。仲間に引き入れるかどうか・・・判断が難しいところですね」
紫の聖騎士ショウ。紫の聖剣『自由自在』の持ち主だ。ショウはピジョン宰相派とシエナ派の中立的な立ち位置にいると見られている。
ラインハルトのようにハッキリとしたピジョン派ではないショウだが、つかみどころのない性格をしておりほとんど誰とも会話をしないためその真意が読めない。
「彼の考えはわかりませんからね・・・。無理に仲間にしなくてもよいでしょう」
そう答えるシエナだったが、レオナルドが仲間に引き入れるのが難しいと言った理由が(・・・あいつ、無口だからなあ。無口な奴だと『イイ感じのセリフ』が言いにくいんだよなあ)と『イイ感じのセリフ』が言える言えないが基準になっているとは思いもよらないのだった。