お隣奇譚
イライラする…
ライブハウスの壁にもたれかかっている少年はステージ上の演奏バンドを見ることなく一人イラついていた。
赤茶色の髪をもったその少年は目元が隠れるくらい前髪を伸ばしている。黒いパンツルックで黒いTシャツの上に青のジージャンを着ていた。見た目は中学生くらいで幼さの残る顔立ちをしている。
ステージでは皮のパンツをはいて上半身裸の細身の男がギターを弾きながらわめくように歌っていた。パンクロックを思わせる曲に客たちは興奮して手を振っていた。暴れまわるように人にぶつかり踊っている客もいた。後ろの方でビール片手にステージを見ていた二十代くらいの男が少年に気付き数秒間見つめるとまたステージに目をもどした。
「中坊がこんなとこ入り浸って補導されないのか?キル」
バンドの演奏が終ると男が少年に近づきククッと笑って声をかけた。キルと呼ばれた少年は男をジッと見ると
「あんたの付き添いで来てる弟ってことでヨロシク」
クスリとも笑わずそう答えた。
「ああ、そういう言い訳でいつも来てるんだな」
男は呆れるようにキルを見ている。
「ん?無理やり連れてこられたんだ。あんたに」
「はいはい、いいよそういうことで」
男はビールをグビグビ飲むと特に気にするようでもない。
「それにやっと中学は卒業だ。長かった」
「次は高校生か。まだまだ補導対象だな」
「高校?行くわけないじゃん」
「あ、もしかしてプロミュージシャン目指すのか?お前ギターやってんだっけ」
「ミュージシャン?目指すわけないじゃん」
「じゃ卒業したら何やんだよ。働くのか?」
「なにって…まだ卒業してないのにそんなこと…ん?あれ?」
キルは何かを思い出そうとして考え込んだ。
「なんだ?どうしたんだ?」
「卒業式っていつ?」
それを聞いて男はガハハと笑うと「俺が知るか」と言った。