生き残る為の戦い
流石にこの数を2人で捌ききるのは面倒極まりないな。
あの時の妨害が無ければ殲滅も出来ただろうが
やはり少しだけ邪魔が入ると威力が激減してしまうな。
だが、勝てないことは無い、まだ行けるはずだ。
「ニール、行くぞ」
「先輩…ごめんなさい、私が守り切れなかったから」
「過ぎたことを悔やむな、今は眼前の問題を解決することに尽力しろ」
「でも、きっと私がちゃんと先輩を守りきっていれば、ゴブリンの群れも…」
「あの中で動かない私を1人で守りきるのは至難の業だろう。
普通なら、あの中で私が生きてるのが奇跡のような物だ
だから、自分を責めるな、お前はよくやった、お前が居なければ
ここまで数も減らせていないさ、私は感謝してる」
「……ありがとうございます」
「さて、反省会は後だ、問題を片付けた後じゃないと、反省は大した意味が無い」
「…はい!」
相手は4000、こちらは2人、それに2人ともボロボロだ。
ニールは体力の限界も近く、私は負傷、だが、やるしか無いだろう。
ふ、1人ならもうすでに撤退して、のんびりとしていることだろうな。
人間が死のうが、どうなろうが、私には関係ないと考えて。
だが、ニールの手前、そんな姿を見せるわけにはいかない。
勝算は限りなく薄いが、やるだけのことはやってやろう。
「いくぞ、ニール、どうせ逃げろと言っても逃げないのだろうしな」
「逃げませんよ、私は絶対に先輩を置いて逃げません。
何なら、あの世までだってお供します」
「それはごめんだな、付いてくるなら、何処かの国の軽食屋までにしてくれ」
「それはあの世のお供よりも遠い道のりですね」
「まさか、とても短距離だ!」
「いけ! いけぇ!」
来るか、ゴブリン共…私はこれから近くの軽食屋で
ニールと食事をする予定がある、ここで死ぬわけにはいかない。
何でも無い平穏のために、私は死ねない!
「行くぞ!」
「はい!」
たった2人で4000以上の軍隊に突撃する、無謀にも程があるな。
生き残るには1人で2000以上のゴブリンを葬らないと行けない訳か。
それも、負傷したり、疲労した体で…本当に無茶苦茶だ。
だが、生き残る為なら、2000でも10000でも倒してやろう。
私は基本的に無気力だが、生き残る為の抗いは全力で行なう!
「ふん! そこ!」
「盾で弾いて、剣で倒す!」
「…ふふ」
どうもニールを見ていると、自分の昔を思い出す。
あの時は必死だった、バルキリーになって、母を治すと必死に鍛えた物だ。
母の看病をしている時間以外は、全て剣の訓練に励んでいた。
勉強も捨て、ただひたすらに剣と母のみを見て生きていた。
…今は、そうだな、ニールを見て生きていく。
いや、もしかしたらニールに過去の自分を重ねてるのかも知れない。
そうだとすれば、私が見ているのは昔の私か。
だったら、私はあの時の師匠の様な生き方をせねばならないか。
言葉では無く、生き方で示し、背中で語る。そんな師匠の様な生き方を!
「はぁ!」
複数の相手を仕留めるときには素早く一瞬で剣先を使い相手を斬り裂け。
剣の中心なら確実に仕留める事が出来るが、威力が僅かだが弱くなり
次の攻撃へ移るまでの間に時間が掛かる。
弱い相手を薙ぎ倒すなら、剣先で倒すのが1番だ。
師匠から教わった、弱い相手を複数相手取るときの戦い方。
今のこの型の基板も師匠から教わった、それを更に自分で改良し
自分が扱いやすい型としたのがこの型。
殆どは私のオリジナルだが、基板となる材料は師匠から教わった。
完全オリジナルという訳ではないが、殆ど私のオリジナル。
「ここ!」
ゴブリンの血しぶきが飛び散る。
だが、血などはすぐに乾き、その場には無かったように消え失せる。
私の鎧に返り血が付くこともあるが、その血はすぐに消える。
だが、私が流している血は地面に落ちても消えない。
これはきっと、私が人間である証拠。
神に近いバルキリーとなっても、私は人間。
まだ動ける状況だとはいえ、このまま出血が続けば最悪もあり得る。
だが、逃げるわけにはいかない、ニールが戦うというなら、私が逃げるわけには行かない。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
そろそろ息切れしてきた、本来ならまだ平然として動ける筈。
何せ、この程度の長期訓練なら幼少期に何度もしたからだ。
長いときは5時間休む事無く剣を振るい、師匠と打ち合った事もある。
それなのに息切れをとは…やはり背中の出血とアースブレイクで力をかなり使ったからか。
「はぁ、はぁ…せ、先輩、大丈夫ですか?」
「あぁ…問題無い」
何人斬り倒したかは殆ど覚えていないが、恐らく1000は仕留めたはず。
ニールがどれ程仕留めたかは分からないが、もう、数もあまり多くないはずだ。
あくまで最初と比べたら、だがな…最初の10000と比べれば残り3000は大した事は無い。
もう7割は倒していると言う事だ、このまま戦い続ければ殲滅も可能だろう。
…だが、長期戦になりすぎている、背中の出血が止まってない状況で1時間以上とは。
「い、行ケ! 行ケ! そろそろ、そろそろ限界の筈なんダ!」
「そ、そう言って、もう1時間以上経ツ!」
「きっと、そろそ、ヒ!」
「喋ってる場合か!」
……く、僅か4時間程度の戦闘で…ここまで疲労するか。
2年間ろくに訓練をしてなかったせいか?
だが、訓練など正直面倒だしな。
「はぁ、えい…あ!」
「ニール!」
「うぅ」
不味い! ニールが転けた! まさか私の地で滑ったか!
「今ダ! ヤレ!」
「あぁ!」
「ニール!」
私はニールに襲いかかろうとしたゴブリンを3匹倒したが体が上手く動かない。
「死ねぇ!」
「がふ…」
…う、く…しまった…一撃、腹に受けた。
……情けない、情けない…ゴブリン程度に!
「このぉ!」
「ギ!」
「せ、先輩!」
「はぁ、はぁ…うぅ」
体がもう限界か…この重傷に更に追い打ち…不味いぞ。
「やったゾ! これで勝てル!」
「もう一方はまだ動けるんだゾ!」
「あいつは弱イ! あの銀青が居なければ勝てル!」
「そうだナ! 行くゾ!」
……舐められた物だな…この程度の傷で私が動けないとでも?
「ふ、舐めるなよ、この程度の怪我で…私が動けないとでも!?」
「なん、がぁ!」
「…はぁ、それにだ…お前らはニールを…侮りすぎだ」
「先輩…」
「やれ!」
「…だりゃぁ!」
「な!」
飛びかかってきたゴブリンの群れをニールが全てはじき飛ばす。
「…先輩は、先輩は死なせない! 私が、私が守る!」
「1人デ何が出来ル! 死ネ!」
「先輩と何処かの国でご飯を食べるために! 私は先輩を守る!」
「ガ!」
「何ダ! さっきと違うゾ!」
「私は!」
ニールがゴブリンをことごとく斬り倒していく。
それでこそニールだ、やはりお前は…強い。
「うおぉおお!」
「うぅ、き、気迫がさっきまでと…違うゾ」
「先輩には指1本! 触れさせない!」
「な、何だ! あいつらハ!」
ニールがゴブリンを倒していると、ゴブリン達の表情が変わる。
少しだけ背後を見てみると、そこには何人ものバルキリー。
「あ、新手ダ!」
「き、来た!」
「う、うわぁあ!」
「あ!」
ニールが背後を見ている隙に、1匹のゴブリンがニールに飛びかかる。
「く!」
「ナに!」
「先輩!」
私は急いでニールを後ろに引っ張り、左手の盾でゴブリンの剣を防いだ。
「よそ見を…するからだ」
「ガあ!」
盾で剣を弾き、すぐに腹に刺さった短剣を抜き、短剣でゴブリンにトドメをさす。
「ま、不味いゾ!」
「救援に来た! 前線の兵士は!」
「こ、ここです! 急いで!」
「あれは、エリス? まさかゴブリンの群れを足止めしていたのがあいつらだったのか」
「あれ! 1000とかの量じゃありませんよ!」
「何だ、あの量は…これほどの数のゴブリンが徒党を組んで!」
「急げ! 早くエリスとあの学園生を助けだせ!」
…やっと、やっと来たか、バルキリーの増援。
もう少し早く来てくれても良かったんじゃないか?
「おい、大丈夫か!」
「わ、私は…でも、先輩が! エリス先輩が!」
「え、エリス…お前、その負傷は」
「ぜ、全部…わ、私のせいです! 私が!」
「いや、あの数のゴブリンを2人で止めたんだ、自信を持て。
しかし、一体何匹のゴブリンが居たんだ?
人間から聞いたところ、救援を呼んでくれと頼まれたのは3時間以上前
その国の神殿から報告を受けて、私達がすぐに編成されて送り出された
更に、最短の国からこの場所までの移動時間は1時間以上…
単純に考えると、4時間もお前達は戦ってたことに」
「私は3時間程度です…エリス先輩は5時間くらい」
「5時間も!? 一体、どれだけの数が!」
「ゴブリン10000です」
「10000!?」
「後、500程トロールが居ましたが、もう殲滅は終わりました」
「……う、嘘では無いんだな」
「はい! 嘘は吐いてません! と、と言うか! そんな話よりも
早くエリス先輩を! 酷い怪我なんです! お腹と背中を刺されて!」
「あ、あぁ、急いで手当てしよう」
次に私が目を覚ましたのは、何処かのベットの上だった。
そして、目の前には確か同期のバルキリー、主席だったか。
名前は覚えてない、覚えようともしなかったからだ。
「目を覚ましたか、エリス」
「……」
「私の名前、忘れた? まぁ、誰とも話をしようとしなかったからね
じゃあ、改めて自己紹介としましょうか、私はメアリーよ、メアリー・スー」
「…エリス・ビスキック」
「あなたのフルネームは久し振りに聞いたわね、エリス」
「…ありがとう、助けてくれて」
「エリス、私はあなたの活躍をニールから聞いた。
地面が抉れてたのもあなたの力だったらしいわね
あれほどのエネルギーを放出できるとは知らなかったわ」
「……」
「何故、今までその力を隠してた? あれほどの数を相手取れるほどの実力なら
最後の卒業試験、主席で通るのも容易だったでしょうに」
「…ニールの勘違いだ」
……何でこんな事に…力がバレてしまうと面倒だぞ…うぅ。




