長期戦の疲労
本当、数だけが脅威だというのに、そろそろその数も減ってきたな。
残りの数は恐らく100程、何の問題も無く殲滅が出来る。
ゴブリン達の動揺もかなり激しくなり始めている。
しかし、そろそろニールの体力は限界らしい。
無理も無い、もうすでに2時間ほどは戦っているのだから。
ホーリーリリースを使えばもっと楽に殲滅も出来ただろうが
多用したくないからな、本来のバルキリーはこのホーリーリリース
あまり多用できないらしいからな。
ニールもその例に漏れておらず、何度もホーリーリリースを使用し
そろそろこれ以上の使用は出来ないと言う状況みたいだ。
だが、残り100ならホーリーリリースを使わずとも撃破が可能だ。
本当、この後どうしようか、1000を越える大群と
神々には伝わったのに、それを2人で撃破となってしまうと
私の評価が上がってしまう、面倒な戦地に赴くことになってしまうかもしれん。
「はぁ、はぁ、はぁ…え、エリス先輩…だ、大丈夫ですか?」
「お前の方が心配だな」
「は、はは、エリス先輩は…本当に凄いですね…はぁ、ふぅ
私よりも沢山戦ってるのに…息切れ1つしてませんし…」
「これでもプロとして2年間は仕事に従事してたんだ、当然だろう」
と言っても、その2年間は特に仕事など無かったが。
これほどの戦闘も初めてした、だが、不思議と息切れ1つしない。
超長期戦など初めてしたが、案外体力という物があるらしい。
「は、はは、流石…エリス先輩…はぁ、はぁ」
「お、おい、相手も限界みたいだぞ!」
「片方だけじゃ無いカ! もう1人は表情1つ変わってなイ!」
「強がってるだけじゃ無いのカ? 本当は限界なんジャ!」
「そ、そうだな、あいつは息切れしてる方よりも長く戦ってル!
限界が来ないなんてあり得なイ!」
…やはり息切れするのが普通なのだろうな、現にニールも限界だ。
「でも、俺達ももう少なイ! 逃げた方が!」
「ここまで来たラ、1人でも道連れにするんダ! 全員、息切れしてる方を狙エ!
もう1人の方は限界かも分からないガ、息切れしてる方は間違いなく限界ダ!
最悪でも負傷させるんダ! 時間を稼げば勝てル!」
やはり悪知恵が働くな、ニールを道連れにしようとしているのか。
だが、それは私が許さない、意地でもニールは守り抜く。
しかし、最後の言葉は何だ? 時間を稼げば勝てるだと?
この少数、時間を稼ごうとも勝算などないはず…
いや、待てよ、確かゴブリンは数が多い種族と聞く。
もしも援軍を呼ばれたりしていれば、不味い。
考えてみればそうだ、2つの種族が手を組んでの攻め!
それをただの群れでなせる物か? それに、今までは襲撃が少なかった。
そう、ゴブリンの襲撃報告など聞いていない…まさか、まさか!
く、もしそうなら…神々は巨人に意識を向けすぎていた!
「くぅ…」
「…ニール、最悪の可能性が見えた」
「え?」
「援軍があるかもしれん」
「え!?」
それも相当な規模…辺境の地だから調査が行き渡ってなかったのか!
「やはり神々へ報告したのは正解だったかも知れない」
「どういうことですか!? え、援軍!? そんな馬鹿な!」
「おい! 来たゾ! 勝っタ!」
「く、早いな」
再び大きな足音が響き渡り、砂埃が舞い上がる。
ゴブリン達が姿を見せた森の奥から現われた
無数のゴブリンの群れ…個々は脅威ではないが、あの数は不味い!
特にニールはもうすでに限界だ…私はまだ戦えるが、あの数相手は流石にキツいだろう。
「はぁ、はぁ…そ、そんな…」
ニールは戦意を消失してしまい、手から剣を落とし、その場に膝をついた。
ここまで絶望的な状況を見てしまえば、そうなるのも仕方ないか。
「…ニール! 何をしてる! 剣を握れ!」
「でも…先輩…私達はもう無理です…勝てませんよ…あんな数…」
「馬鹿か! お前も戦乙女だろう! 戦意を失うな!
いかなる時も希望を見ろ! 最後まで生き残る術を考えろ!
何なら、逃げても良い、私はお前を責めないし止めない。
だが、生き残る事を諦めることは許さない!」
「……私は」
「怖いなら逃げろ、お前は学園生だ、私はお前を止めない
勝ち目がない戦いなら、逃げるのも正しい判断だからな。
だが、私は逃げない、面倒事など嫌いだが
やると決めたことを放棄はしない、国は守る、私がそう決めたんだ」
「…先…輩…」
「もしもお前が戦う事を選ぶなら、私を希望にすれば良い
もしくは、これから来る援軍を希望にするか
だが、何か1つ、希望は持っていろ、絶望的な状況の時
希望があれば、その希望にすがって戦えるからな」
何に対しても希望を持っていないと最後は動けなくなる。
だが、希望など持たない方が良いときもあるかも知れないな。
希望を持てば持つほど、最悪の場合の絶望が深く、深くなる。
最初から希望を全て捨てていれば、深い絶望など無いかも知れない。
当然だと諦めることが出来るからな…だが、希望なき者は戦えない。
ニールと出会って、それを理解する事が出来た。
希望を完全に失った中で、私はニールに希望を抱いた。
もし、ニールがいなければ、私はバルキリーでは無い。
最後の試験、あれも完全にあしらっていただろう。
戦う理由も戦う希望も無いなら、そうなるだろう。
だが、ニールと出会って、私は彼女に希望を抱いた。
私がバルキリーになる理由、適当な平穏を謳歌するためというのもあるが
やはりニールの成長が楽しみだったからでもある。
バルキリーじゃ無くなれば、ニールの成長を見守る事が出来ないからな。
「……先輩、ごめんなさい、そして、ありがとうございます!」
ニールは決意を固めたようで、地に落とした剣を握りしめ、立ち上がった。
「そうですよね、私には先輩がいるし、援軍の希望もあります!
数が多いからって、諦めてたら何も出来ませんよね!」
「逃げても良いんだぞ?」
「大丈夫です! 私、戦います!」
……ふふ、やはり良いな、ニールはすぐに強くなる。
諦めてもすぐに立ち上がる姿は好きだ、やはりニールは守らなくては。
戦う理由の無かった私に生まれた、戦う理由、生きる理由。
可愛い妹分を守って、その成長を見届ける。
なにやら、親になった気分だ、悪くないな、親心というのも。
「へへ! 弱ってる方を倒セ! あいつはもう限界ダ!」
「まとめて倒しちまえば良いゼ! 俺達の勝ちは間違いない!」
「そうだナ! まだ本隊も健在! 王だって元気だ! この世界は俺達の物だ!」
「まだゴブリンの大軍がいるのか、これは骨が折れそうだな」
「はい、でも、大丈夫ですよね!」
「勿論だ!」
だが、このままでは数に押されるのは間違いない、だったら。
もうその後の事を考えてる暇は無いだろう、勝たねばならない!
「ニール、少しの間時間を稼げるか?」
「はい! でも、何を?」
「少し数を減らす」
「はい! 先輩を信じます!」
素直だな、私の事を一切疑ってない、嬉しい。
だったら、私はその信用に答えねばならないだろう。
私は剣を地面に突き刺し、精神を集中させる。
…大規模なホーリーリリース、長くこの場に力が残るが
これをしなくては勝利することは難しくなる。
後の事など考える必要など無い、今は生き残る事のみを考えれば良い!
さっさと死んで、母に会ってしまうのは親不孝だからな。
長く生きねばならないんだ、後の事はどうでも良い!
「…すぅ…はぁ…」
私は両目を瞑り、自分の手に持っている剣に精神を集中させる。
周囲からはゴブリン共の耳障りな言葉。
そして、その言葉の間に、ニールが必死に頑張ってるかけ声が聞こえる。
大丈夫だ、私はただ手元に集中すれば良いのだから。
「…ぐ!」
せ、背中に激痛…まさか、む、無理も無い…数が、数だ。
「先輩!」
「へへ、目なんか瞑ってルからだ、このまま殺して」
「この!」
「ぐが!」
「先輩! 背中から血が!」
「……ふぅ、行くぞ!」
私は激痛を押し殺し、最大まで溜めた力を剣に注いだ。
「アースブレイク!」
この技は大地に向けて全力でエネルギーを放出する魔法
一気に放出するため、その発動までに体中の力を制限する時間が必要になる。
その制限が完了したとき、同時にエネルギーを操り、一気に剣を通し
大地に力を放出する大規模魔法。
この時、技名を叫べばそれだけ破壊力が上昇する。
技名を叫べば、更に力強い攻撃が出来るからだ。
制御するエネルギーを放出する速度も上昇するからな。
「何だ、地面が、がぁああ!」
私のアースブレイクならかなりの大規模へ攻撃が出来る。
「う、嘘だロ…半分以上が吹き飛んダ! 5000も!」
「…やはりタイミングがずれて規模が足らなくなったか」
どうやら、さっきの攻撃を受けたせいで範囲がかなり狭まった様だ。
やはり精神を統一してる間に攻撃を受けるとぶれてしまうか…
同時にエネルギーを放出することで威力が増す技だからな。
「す、凄い…」
「…はぁ、はぁ…はぁ、よし…5000か」
私は剣を引き抜き、ゴブリン達へ向けて構えた。
「で、でも、先輩…背中から沢山血が…それにこの技の後は!」
「大丈夫だ…まだ動けるさ」
動きは少々鈍るだろうが、動く事は出来る。
援軍もまだなら、時間を稼がなくてはな。
「う、うぐ、うぐグ! だが、奴は背中を刺さレた!
勝てるはずだ! まだ4000も居るんだ! 一気に行けば勝てル!」
…これからが本番になりそうだな、早く援軍が来てくれれば良いが。




