残酷すぎる真実
「…お母さん……あ」
……夢、やっぱり見てしまったか、あの夢。
初めてあの夢を見た…母が死んだ時の夢を。
今まで、そんな夢は見なかった、きっと思い出したくなかったからだ。
だから、今まであの夢を見たことが無かった。
だけど、今日は何故かあの夢を見てしまった。
何故だろう…私にも分からない。
「…おはよう、エリスちゃん」
「ヘル…様」
「…朝一番でこんな事を言うのは可哀想だけど、悲報よ」
「ひ、悲報?」
「えぇ、バルドルの件だけど、蘇生は無しになった」
「え!? な、何故ですか!?」
「1人だけ涙を流さなかったの、だから、駄目」
「そんな!」
「そして、それはあなたはもう戻って良いと言うことよ」
……だが、それはさほど悲報でも無かった。
私の中での目標はただ師匠の救出だけだった。
別にバルドル様が助かろうと、助かるまいと、どうでも良かった。
「そうですか、では…」
「……でもね、あなたが良いなら、このままここにいても良いのよ?」
「は?」
「ほんの短い間だったけどね、私はあなたが気に入ったのよ」
「…いえ、私は」
「そうよね、あなたにも、家族、は、居るものね」
「……私に、もう家族など居ませんよ」
「…だったら、良い案があるぞ」
「え!? ろ、ロキ様!?」
何故、ロキ様がここに!? 何故、どうやって! なんで!?
「な、何故…」
「お前を迎えに来てね、神達の指示さ」
「え?」
「で、丁度お前らの話を聞いて、良い案を提出しようとしていって事さ」
「良い案?」
「…エリス、ここが何処か…覚えている?」
「……まさか!」
「ここは死者の国さ」
「じゃあ!」
「あぁ、それに、お前には伝えないとって思っていたからね」
「ですが…それはヘル様の許可が無いと」
「私は良いわよ、短い間だったけど楽しかったしね。
これがお礼になるかは分からないけどね」
「会いたいです!」
お母さん…お母さんに会える…夢のような話だ。
「エリス」
「はい」
「死者が保管されている空間は現実世界とは大きく流れが違うんだ
向こうの1分は現実世界の1日、あまり長いこと居ると
戻ったら別世界だったという事になりかねないか気を付けるんだ」
「はい!」
1分でも、2分でも良い…私はお母さんに会いたい。
お母さんに会って、色々と謝ったり、話したいことがある。
戦乙女になった事、頑張って仕事をこなしている事。
気に入った後輩が出来た事、気兼ねなく話せる同僚が出来た事。
「さぁ、この先よ、死者が保管されている世界は」
「……」
大きな真っ黒い扉、この先にお母さんが居る。
「この扉を開けることが出来るのはヘルだけなんだ」
「そうなんですか?」
「えぇ、私は死者の管理を任せられているから」
ヘル様はゆっくりとその真っ黒い扉を開いた。
重い石が地面を抉る音が聞え、鈍く周囲に響き渡る。
「うわ! さ、寒い!」
「さぁ、行こうか」
「ろ、ロキ様…随分と寒いですけど…これはどう言う…」
「……知らなくても良い事は必ずある物だ。
実は君には結構辛い現実になるんだけどさ」
「え…」
「でも、知っておいた方が良いだろう、付いてきなよ」
「……」
ロキ様の後に付いていく、凍えてしまいそうな寒さだ。
それでも、付いていくしか無い。
肌を暖めながら、私達はゆっくりと奥へ進む。
「えっと、はい、あなたにはこれをあげるわ」
「え? あ、暖かい」
ヘル様が私に紅いマントを纏わせてくれた。
かなり暖かい…さっきまで凍えそうだったのが嘘みたいだ。
「…ヘル様、ここは」
「ここは死者が保管されている世界。
ひと言で言えば…そうね、分かりやすく言っちゃうと、地獄よ」
「な、なんで地獄に…私のお母さんが…お母さんは何も!」
「そうだよ、君のお母さんは何も悪い事はしていない。
でもね、戦えないってだけで、この世界じゃ罪なのさ」
「はぁ!?」
「それも地獄に落ちるほどの大罪。
強くないという事は、ただそれだけで罪だ
強くなることが出来なかっただけで、この世界はそいつを敗北者とする」
…強くないだけで…? お母さんは確かに戦えない。
病弱で、病を患って…でも、お母さんは強かった。
そんな辛い状態でも、私を…私の為に必死になってくれた大事なお母さんだった。
辛くても辛いとは言わないで、私に心配を掛けないために我慢して…
私の為に怒ってくれた、私の為に…ずっと。
「さぁ、これが君のお母さんだ」
「……なん」
ロキ様が案内してくれた場所にいたのは…確かにお母さんだった。
お母さんは顔を真っ青にしたまま、凍っていた。
完全に凍っていた、これじゃあ、手も…足も動かない。
「なんで、なんでお母さんがこんな事に! なんで!
お母さんは何も悪い事はしてない! してないのに!
なんで…なんでこんな事に…なんで…」
「これは全部オーディーンの差し金だ。
戦えなければ地獄に落とす、そうすれば人間は強くなる為に努力をするだろう。
戦う事を正義だと考えるだろう、必死に戦えば神々に出会うこともでき
そこで共に戦う事もできると。
だから、人間の世界は戦いは続く、ずっとね。
それは楽園であるバルハラに赴くためにだと
戦う事を正当化する都合の良い言い訳にもなるからね。
それでも戦わない、戦えない人間は容赦なくここに突き落とすのさ」
「なんで…そんな…戦う事が正しいなんて…戦う事だけが正しいなんて事…」
「オーディーン、あいつは君達人間の事なんて、道具としか思って無いのさ」
「……そんな」
こんな現実を…私に、信じろというのか。
優しかったお母さんが…そんな理不尽な理由で…苦しみ続けている。
オーディーン様の自分勝手な行動のせいで…お母さんが苦しんでる。
「…オーディーンは本当に酷い奴だよな。
戦争を起して、君のお父さんを殺して、同じくここに落とし苦しめ
更に病弱で戦う事が出来なかった君のお母さんをこうやって理不尽苦しめる」
「……なんで」
「さぁね、僕にも分からない、でも、本当に自分勝手だとは思う。
だってさ、人間達にはそうやってこんな理不尽な事を押し付ける。
それなのに自分の息子、バルドルだけは特別扱いだ。
不死の身体にしてさ」
「それに、死んだらこんな身体に生まれたからってこの地に落とした
私に泣きすがってね、しかも、自分は来ない…本当に虫唾が走るわ」
「あげく、失敗したら失敗したで自分勝手にキレて、理不尽をする。
本当に僕もあいつだけは好きにはなれない、あんな奴が主神だなんてね」
…そうだ、自分の息子が死んだら、権力を行使してでも蘇らせようとする。
それなのに、私達人間にはこんな仕打ちをする。
オーディーン様は…いや、オーディーンは…あいつは、あいつは!
「あいつは…許せない…」
「君もそう思うかい?」
「はい」
「なら、良い案がある」
「良い案…ですか?」
「あぁそうだ、僕もあいつは嫌いだ、だから…戦争を始めよう」
「戦争?」
「あぁ、あいつが大好きな戦争であいつを殺すのさ」
「…でも、そんな事」
「あいつは君に散々なことをしたんだよ?
本来助ける事も出来た君のお母さんを見殺しにして
君のお父さんも自分勝手に起した戦争で殺したんだ。
なら、あいつにもそれ相応の報いを与えないと駄目だと思わない?
今まで散々自分勝手に周りを巻き込み、殺し、騙した。
それなのに、自分は蚊帳の外だ、全ての元凶でありながら
あいつは誰からも怨まれない、誰もあいつがそんな原因だと知らないからだ。
あいつはただ自分だけは傷付かず、周りを傷付ける。
何も知らない弱者を踏み台にし、自分の為だけに利用してるのさ」
「……私は、どうすれば良いでしょうか」
「協力してくれる…と、言う事で良いのかな?」
「はい、ただ…あいつを殺すのは私に」
「あぁ、最初からそのつもりさ」
許せない…あいつだけは許せない、理不尽に自分勝手に私達を利用して!
私の家族を…私の家族を殺した、あいつは…私が殺す!
「それじゃあ行こうか、エリス…君達家族を滅茶苦茶にした
あの屑に復讐をするために」
「はい、必ず殺します」
…あいつは、私が必ず殺す。




