不思議な待遇
「さ、お部屋へどうぞ」
「は、はい」
ただただ暗かった冥界だったが、この部屋だけは暖かい明かりが灯っていた。
怨霊達が姿を見せる様子もない。
「それにしても、酷い怪我ね、リリアスと戦ったからかしら」
「は、はい…」
「手当をしてあげましょう、こっちにおいで」
「……」
なんだ? 人質の扱いにしては、随分と甘いじゃないか。
「どうしたの? 警戒してる? 大丈夫よ。
私はあなたに何かするつもりは無いわよ?
もしもあなたの命を奪おう、なんて思ってたら
最初に殺してるわ」
た、確かに敵対しているというなら、あの時…殺されていただろう。
敵意が無いと言うのは…恐らく間違ってはいないはずだ。
「さぁ、来なさい、手当をしてあげるわ」
ヘルは正座をし、私にこっちに来いと言わんばかりに
自分の膝を叩いている…な、なんなんだ…
「…て、手当くらいは自分でも…」
「遠慮しなくて良いのよ? ほら」
……う、うーん、このまま断り続けるのも悪いか。
しかし、取引相手の膝に乗るというのは恐縮だ。
私はヘルの近くに移動して、目の前で正座した。
「あら? 膝に乗らないの?」
「さ、流石に…取引相手の膝に乗るというのは…」
「遠慮しないの」
「わ!」
ひ、膝の上に乗せられてしまった。
「それじゃあ、手当をするわね」
「こ、この体勢では手当は難しいのでは!?」
「大丈夫よ」
ヘルはなれたような手つきで、手当をしてくれた。
さっきまで痛かったが、少しだけ痛みが引いたように感じた。
「はい、手当完了」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、今度は膝の上に寝転がって」
「な、何故!?」
「耳掃除をしてあげるわ」
「いえ! 良いです! それ位自分で出来ま!」
「良いから」
うぅ…ま、また強引に。
「はい」
「あふぅ…」
うぅ、へ、変な気分になってしまう…ちょっと何だかムズムズする。
誰かに耳掃除をして貰ったことは…あ、1度だけあった。
母がまだ動けたときに、1度だけ…
「うん、綺麗になったわ」
「あ、ありがとうございます…」
「それじゃあ、次はご飯かしらね」
「大丈夫です、それは自分で」
「何言ってるのよ、あなたはくつろいでなさい」
「え? で、でも」
「良いから、疲れてるでしょ? 長旅だったでしょうしね」
「は、はぁ…」
料理…誰かに料理を作って貰えるなんて…
私は今まで母とニールの料理しか食べたことがないからな。
何だか新鮮だ…でも、何故この人はここまで私に…
「ふん、ふんふーん」
「えっと…何故、私に」
「んー? それはほら、私は1人暮らしだからね
お客さんが来て嬉しいのよ」
「さ、左様ですか」
お、お客さんか…私は人質では無かったのだろうか。
あの言葉は何かの方便か?
「お客さんというのは」
「あぁ、確かにあなたにはあなたは人質だと伝えたっけ。
でも、実際は寂しかったからなのよね。
冥界って怨霊ばかりだし、リリアスも口数少ないしね。
だから、話をする相手が欲しかったから」
「そうなのですか?」
「えぇ、私って意外と寂しがり屋なのよ?」
「は、はぁ…」
話し相手が欲しかったから私を人質として引き留めたと…
私も話をするのは得意では無いのだが。
「はい、料理が出来たわ」
「あ、ありがとうございます」
料理の雰囲気は私達が普段食べている料理と同じだった。
私は少しだけ警戒しながら、その料理を口に運ぶ。
「どう?」
「お、美味しいです」
「表情が固いわね、もっと緩めても良いのよ?」
「え、えっと、私は感情を出すのは得意ではなく」
「ふーん、でもまぁ、美味しいみたいで安心したわ。
あなたの口に合うかちょっと心配だったのよ」
そんな心配をしてくれていたのか。
「さて、それじゃあ、今日はもう寝る? ベットも用意してあるわよ?」
「あ、え、えっと…そ、そうですね」
終始圧倒されてしまっている、何故ここまで優遇してくれるのか分からない。
何が狙いなのかも分からない、なんでここまでしてくれるのかも分からない。
分からない事ばかりで終始頭の中は混乱している。
私はこう言ったやり取りは得意ではないし、相手の狙いを見抜くのも不得意だ。
何故ここまで? 何故私に優しくする? 私は侵入者なのに。
私はただの戦乙女だというのに。
「……分からない」
暖かくふかふかのベット…こんなベットは初めてだった。
私の部屋にあるベットはここまでふかふかではないし
ここまで暖かくはない。
いつも静かだったけど…最近はニールの寝息が聞えていた。
何故だろうな、普段聞いているニールの寝息
それが聞えないと言うだけで、何故かソワソワしてしまう。
「……」
酷いイメージしかなかった冥界だったが
今日1日だけで、そのイメージは全て崩壊した。
暖かくて、食事は美味しく、冥界の女王も親身になってくれる。
意外と明るい性格だったというのは予想外だった。
今日は良い日になったかも知れない、師匠も救えたんだから。
しばらくは冥界で過すことになるが…きっと、大丈夫だろう。
「寝るか」
冥界で眠ったらどうなるのだろうか、少し恐いが寝るしかない。
まぁ、少なくとも良い夢などは見れそうに無いが…
いや、私はそもそも夢など見ないかな。
だが、もしかしたら、今日は久々に夢を見られるかも知れない。
それが悪夢だとしても、まぁ、新鮮な経験になるかもな。




