越えるべき背中
速く重たい攻撃、身体が一撃一撃を防ぐ度に悲鳴を上げる。
だが…大した怪我もせず、優勢だった時と違って、今は楽しい!
越えようとした大きな背中、その大きな背中と再び相見えて
大きな壁にひたすらに噛み付く…その時、牙は折れ、ただ痛いだけなのに。
それなのに、その壁に挑む事が素晴らしく楽しい!
「うおおぉお!」
「ふ、はぁ!」
…あぁ、分かった! 師匠を倒す手立てが!
師匠の剣はレクイエムとフリューゲル!
師匠はその二刀を使い、私へ攻撃を仕掛けてきている。
そして、その二刀の内、フリューゲルは非常に重い!
どんな剣かは分からないが、確実にレクイエムよりも強力だ。
つまり、師匠と打ち合うときはフリューゲルではなくレクイエムを狙う!
「そら!」
師匠のフリューゲルは防がない、避ける事を重視して。
「そこだ!」
「く!」
レクイエムをひたすらに狙う!
回避は基本1度しか出来ないからな、私が避けるのはフリューゲルだけ。
今まで、どっちの攻撃が先でも回避しようとしていたが
これからはレクイエムの攻撃は防ぎ、フリューゲルのみ避け続ける!
「一気に仕掛ける!」
「お前の師はそう易々とは敗れん!」
レクイエムの攻撃は防ぐ!
「はぁ!」
「ふん!」
く! フリューゲルとぶつかった!
「ちぃ…」
「はぁ!」
フリューゲル…それは避けて、追撃!
「ふむ」
攻撃は防がれたが、確かに少しずつだが追い込んでいる気がする。
「これはどうだ?」
またフリューゲル、その攻撃は流し、
フリューゲルの背を擦らし師匠を攻撃する。
師匠は当然、レクイエムでその攻撃を防ぎ後方に下がった。
「…なる程、あぁ、そうか、フリューゲルの一撃を避けているな」
「……」
流石にバレた、相手は師匠だ、隠し通すことは不可能だろう。
「流石だな、エリス、素晴らしい判断だ。
ご褒美にこのフリューゲルの効果を教えてやる」
「……」
フリューゲルの一撃は最初の暴走していたときと今では雲泥の差だ。
そこに何があるのか、私は少しだけ興味があった。
「この私の相棒、フリューゲル…この剣は思いを伝える剣」
「え?」
「強い意思を持てば持つほど、フリューゲルの一撃は重さを増す。
暴走していたときの私と、今の私のフリューゲルによる一撃が違ったのはそこだ。
暴走していた私には強い意思はなかった…だが今は。
今の私はお前にだけは負けないという、強い意思が宿っている。
成長したお前と相見え、その姿を見て嬉しいと言うのもあるかな。
だからこそ、私はお前にだけは負けられない…師として!
そして、これ以上先には行かせたくないからだ!」
「…ど、どう言うことですか、師匠! この先に行かせたく無いって」
「知らなくて良い事だ」
「……」
気になる、その先に何があるのか。
師匠が私を必死に足止めする理由。
「だがまぁ、そんな意思よりも、お前に負ける訳にはいかないという
師としてのプライドの方が重いがな」
「……意思の強さなら負けません、あなたを越えると言う意思!」
「ふ、越えてみろ! 師の背は巨大だぞ?」
「知ってますよ…だからこそ、越えたい!」
ファンファーレを鞘に戻し、母から譲りゆけた剣を構える。
「…ほぅ」
この一撃で決める! これ以上の長期戦はあまりにも不利だ。
何カ所も師匠の剣を受けた、師匠も何度も私の剣を受けた。
お互いにかなりフラフラしている状態だ。
このままではお互いに力尽き、2人とも悪霊に飲まれかねない。
だから、私は師匠を倒した後でも運ぶだけの力を残さないと駄目だ。
当然、長期戦は避けなくてはならない…だから、ここで決める!
「一撃で勝負を決めるつもりか?」
「はい、これ以上はお互いに限界です。
これでは、仮に勝てたとしてもお互いに共倒れ」
「だから、ここで勝負を決める…と?」
「はい」
「…良いだろう」
お互いに一刀だけ構える…師匠はフリューゲルだ。
「……しかしエリス、その剣、ずっと名がないのは締まりが無いだろう?」
「え?」
「もはやその剣は特殊な力を持っている。
何度も打ち合う度に感じていた、軽い違和感。
今、分かったぞ、お前の剣は斬り付けた相手の弱点となる剣だ」
「そんな…この剣は無銘の」
「お前の思いに触れ、力が目覚めたのかも知れないな。
私のレクイエムさえも無効化する剣。
恐らくだが、私を救ったのもその剣だ」
「そ、そうなんですか?」
「あぁ、一撃を受ければ受けるほどに感じた優しい感覚。
それが、あの時の私には弱点だったのだろう」
師匠の傷痕に残っていた淡い光りは…そう言う事だったのか。
「今は焼けるような感覚だがな」
「…この剣に、そんな力が」
「私の予想では打ち合えば打ち合うほどに効果は増加する。
本当に素晴らしい剣だ、だから、名が必要だと思う」
「……ならば、この剣はフルルート、そう呼びます」
「何故?」
「全ての道を切り開く剣、だから、フルルート」
「…そうか、良い名だ」
全てを切り開いて欲しいという願い。
その願いから、私はこの剣にそう名付ける。
「では、終わらせよう、この一撃で!」
「はい! 決着を着けさせて貰います、師匠!」
お互いに剣を構えたまま、ゆっくりと間合いを詰めた。
「伝えよ! フリューゲル!」
「繋げ! フルルート!」
一瞬だった…お互いに何が起こったのかも理解できないほどの一瞬。
私はその一瞬は自分の感覚ですら分からないほどだった。
「……ぐぅ」
痛い…とても痛い…でも、私はこの程度では負けない!
「……ふ、強くなったな、エリス…私の…自慢の愛弟子だよ、お前は」
師匠の鎧が砕けるような音、私はすぐに師匠の方を向いた。
師匠はゆっくりと地面に倒れた。
「師匠…私の…勝ち…見たいですね」
「そうみたい…だな」
私に敗れたというのに、師匠はとても幸せそうに笑っていた。




