軽い意思
「師匠…どうして」
私は目前の事実を受入れる事が出来なかった。
厳しかったが、優しかった師匠が…何故こんな事になった?
「ふ、お前は知らなくて良い事だ」
「師匠!」
「なぁ、エリス…ヘルへイムで命を落とした物はどうなるんだろうな。
ここは冥界、死者の国だ、死者の国で生者が死ねばどうなるか…」
「何を…」
「試してみたいだろう?」
「な!」
師匠が一瞬で間合いを詰め、剣を振り私を斬った。
辛うじて後方に下がり、その攻撃から距離を取った私だったが
あまりにも師匠が早く、私はその刃を僅かに受けた。
「良い反射神経だ、あの瞬間に後方に下がるとは」
「師匠…うぅ……」
そんな…僅かに擦っただけなのに、力が抜ける。
「だが、完全に回避が出来なかったのは失敗だったな。
我が剣、レクイエムの刃を受けてしまったのだから」
「レクイエム…? いや、師匠の剣は確か…フリューゲルでは」
「あぁ、その剣も私は持って居る、だが、お前を斬ったのはこの剣だ。
レクイエム、力を封じる最強の剣」
「…なん」
「お前を斬り、私のレクイエムはお前から力を奪った。
戦乙女の力、ホーリーリリース、その力を奪ったと言う事だ」
あぁ、だから妙に力が抜けたのか…なんと言う剣…
「その対象は生者だけでは無く」
「ち!」
また攻撃を…後方に下がろうにもやはり下がっても意味は無いだろう。
師匠は後方に下がろうと、すぐに踏み込んで私を斬ってくるだろう。
「ぐぅ!」
「ファンファーレか、懐かしい剣だな」
私は急いでファンファーレを抜き、師匠の剣を防ぐ。
「どうだ? その剣の真の力は目覚めたか?
身体が勝手に動くような感覚や、身体の底から力が溢れるような
そんな感覚を感じたことはあったか?」
「…それは、ありましたけど…」
「ふ、それだけの実力はあったと言う事か…ファンファーレは
持ち主と認めた場合、持ち主の力を向上させたり
身体を勝手に動かし、防ぎ、避け、攻撃を仕掛ける剣。
一応言っておくが、本人の限界以上の力は発揮できないし
本人が経験したことが無い様な激しい攻撃に対しては対処が出来ない。
お前の場合は、私から散々な攻撃を受けていたから殆どの攻撃に対処出来るだろう」
そうか、たまに身体が引っ張られたり、勝手に動いたりしたのはファンファーレの…
「まさに勝利の音色だ」
「それが、名の由来と?」
「そうなるだろうな、だが、その勝利の音色はもはや響かない。
私のレクイエムは斬った相手の力を奪う剣。
それは、剣も例外ではない、もはやファンファーレはその力を失う。
所詮一時的だとは言え、致命的だろう?」
「それは…確かに、でも…」
「まだ希望を持っているのか? 私が本気でお前を殺さないと」
「ぐ!」
剣を瞬時に引き、私に再び攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃を避けるために僅かに下がったが
師匠はすぐに距離を詰め、もう1本剣、フリューゲルで私に攻撃を仕掛けた。
ファンファーレで防いでも、次の攻撃でやられる、私も二刀で立ち回るしかない!
「ほぅ…母から譲り受けたという剣か、なんの力も得ない剣。
そこまでの実力を持ってなお、その役にも立たない剣を振るうか」
「この剣は母より譲受けた母の形見…貶すことは師匠と言えど!」
「な!」
「許さない!」
師匠を押し返し、僅かに後方に下がり構える。
今の師匠は師匠ではない、何があったかは分からないが
今の師匠に何を言っても通用しないのは分かった。
だから、私は師匠を倒してでも、バルハラに連れ戻すしかない!
勝てるかは分からない、私は今まで、1度だって師匠に買ったことは無い。
だが、ここで負ければ師匠は救われず、私も命を落とすだろう。
それだけは嫌だ、それだけは絶対に…師匠は…せめて師匠だけは救う!
「…やはり力を付けたか」
「師匠、今まで1度だってあなたには勝てなかった…
でも、今回は負けない、私はあなたを倒してでも連れ帰る!
何故優しかったあなたが、そんな事を言うのかも分からない。
ヘルへイムで何があったのかも、私は知らない。
だけど、私はあなたを連れ戻すという目的の為だけにあなたと戦う!」
「自分勝手な奴だ、わがままなど言わなかったお前がな」
「自分勝手にもなりますよ、自分勝手な師匠の背を見て、私は育ったのですから」
師匠を取り戻す為なら…なんだってする!
「行きます!」
「師である私を越えることなど出来ない!」
私と師匠は同時に走り出し、剣を打ち付け合った。
甲高い金属音が暗闇に響き渡った。
「く!」
私の方が力で勝ったのか、師匠は僅かに後方に退く。
まだだ、ここで距離を取るのは得策ではない。
このまま追撃を仕掛け、一気に勝負を着ける!
「ぐぅ!」
師匠の剣には…昔に打ち合った時とは違い、力強さが無かった。
確かに力はあの時よりも強力だというのは間違いない。
一撃一撃が重いのは確かだった。
でも、今はただそれだけだった。
昔の剣は、その一撃一撃に強い意思のような物を感じていた。
戦ってる時も楽しそうに笑いながら、強く、強く…
一撃一撃が段々重くなっていった筈なのに。
「この!」
今の師匠の剣は、打ち合えば打ち合うほどに軽くなる。
攻撃に鋭さも無く、むしろ鈍っているように感じた。
「ぐぁ!」
師匠の剣を打ち上げ、すぐに師匠を斬り付けた。
私の剣は師匠に届き、ダメージを与えているのは分かった。
「……師匠、弱く…なりましたね」
昔の師匠と比べると…なんと弱い剣。
「何…お前!」
「軽い!」
「ぐ!」
師匠の剣を受け止めた直後に胴を再び斬った。
しかし、不思議なことだ、さっき斬った師匠の傷。
その傷痕に僅かな光が見えたように感じた。
「…この力は…」
「師匠…私は絶対に!」
「侮るな!」
師匠の剣を受け、何度も同じ様に斬り裂いた。
致命傷にはならなかったが、それでも十分ダメージにはなるはず。
そして、師匠の傷痕に残った僅かな光は少しずつ強くなっていく。
一太刀、一太刀と入れて行けば入れて行くほどにその光りは強くなる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「師匠…もう止めましょう…今のあなたでは私は倒せない」
「…ふ、ふふ、くくく…あぁ、そうかもな!」
「ぐ!」
お、重い!
「くぅ…」
「全く皮肉な物だ、全てをなげうって力を得たというのに」
「うぐ!」
「昔の方が強いなんて…結局、捨てきってない方が強かったなんてな」
「あぅ!」
う…そんな…さっきとは違う…さっきとは全く違う重さ!
少しずつ…昔の師匠の剣に戻ってきている!?




