非情な事実
「ロキ様、お覚悟を」
「しかしなぁ、君の行動はたまに理解に苦しむよ。
この場で叫び声でも上げれば、僕は他の神々に捕まる。
だけど、君はそれをしようとはしない、賢明な君が」
「……えっと、名誉が欲しいからとか」
「ふふ、あはは! なんて今更だ、そんな物に興味は一切ないんだろ?」
…確かにロキ様が言うとおり、この場で大声を上げれば…
だが、どうしても私はロキ様の真意が知りたい。
ロキ様が拘束されてしまえば、それは聞けない。
「僕の予想だと、そうだなぁ、僕の真意でも探りたいとか、そんな感じかな?」
「……」
「図星だね、やっぱり君は分かりやすいよ、良いよ、色々と教えてあげよう。だが」
「く!」
ロキ様が一瞬で間合いを詰め、私に斬りかかってきた。
流石は神の剣、一撃はそれなりに重い。
だが、ロキ様の攻撃は…何処か軽い。
「僕の真意、理由というのかな、それは」
「ち!」
「さっきも言ったが気に入らないからだ」
ロキ様が再びこちらに間合いを詰めてきた。
ここで、もう一度攻撃を防ぎ。
「まぁ」
「な!」
私の間合いに入ったロキ様がマントで私の視界を隠す。
この場合、大体動くのは側面だというのが流れだ。
「君と戦いたいというのもあったのかも知れない。
と言っても、君は本気じゃ無いみたいだけどね。
1本だけだし」
「うぁ!」
な! マントを自分で斬って攻撃をしてきたか!
私の予想の裏をかかれた、だが、防ぐ事は出来た。
「君は強いからな」
「く!」
ロキ様の攻撃は軽く、すぐに私の側面に回っていた。
2重の罠か、戦い方が独特だ、相手の裏を突くような動きが多い。
「いやぁ、トールが相手なら、大体これでダメージは稼げるだろうね
あいつは非常に騙し合いというのが苦手だからね。
だから、僕とあいつは本当に相性が良いと言えるだろう」
「…ロキ様、何故この場でトール様の話題を?」
「比較対象には丁度良いだろう!」
「つ!」
何処に隠し持っていたのか、小型のナイフを取りだし、私へ攻撃をしてくる。
私は戦乙女の鎧に付いている盾で、その攻撃を流すと同時に腕を掴み
足を払って叩き付け、ナイフを奪い、ロキ様の首元に当てた。
「ったた、完全に不意打ちが出来たと思ったんだけどね。
なんて対処の速さだ、こりゃ負けだな」
「……答えてください、理由を全て」
「君は純粋過ぎる、相手をすぐに信じようとするね。
そして、自己犠牲も激しい気がするな」
「私は無気力な戦乙女、自己犠牲など」
「ちょっと違うなぁ、僕が言っている自己犠牲は君の責任だ。
命を犠牲にする自己犠牲じゃ無い、自分の選択を責める自己犠牲だ。
必死に努力しても母が助からなかったのは神々のせいではなく
強くなるのが遅すぎたから…とか、そんな感じかな?」
「か、神々は何も…ただ、治す手段が無かっただけで」
「本当に? 本当にそう思う?」
「…え?」
「はは、足が粉々になった経験、君にはあったよね?」
「……」
あの時か…あの時…確かに粉々になった。
「でも、君の足は完治してる」
「……」
「どう考えても、病を治すよりもそっちの方が困難だっただろうにね」
「あ、あれは怪我だったからで…病は治せないで…」
「バルトル」
「……」
「あいつは不死の身体を手に入れてる、病だってあいつには手を出せない」
「……ち、違う! それは!」
「実は出来たんじゃないかなぁ、オーディーンがその気になれば」
「……それは…それは…違って…」
「ふ」
「あ!」
しまった、ナイフを奪われて…立場が…逆転した。
「動揺しすぎたな、だから実力で劣っている筈の僕に君は敗れた」
「……殺すなら、殺してください…」
「はは、僕は君を殺すつもりは最初から無いさ、君もだろう?
君も最初から本気で僕を捕えるつもりはなかったな。
だから、君は本来最も得意とする二刀を使わず。
1本だけで僕と戦った、違うかな?」
「……」
「本当に君は素直じゃないくせに嘘が下手だな。
それでは長生きが出来ないぞ? 大好きな長生きが」
「……私は、最初から…」
「はは、それともうひとつ、君達の役目にエンヘリャルの指揮があるよね?」
「…はい」
「そのエンヘリャルは戦争で死んだ勇敢な兵士を集めているんだ。
もしかしたら、戦争で死んだという君の父親がいるかもね」
「な!」
「まぁ、それは良いとして、オーディーンはラグナロクを防ぐために兵を集めてるんだ
それは聞いてないかな? まぁ、大戦争だ、その時のために兵を集めてる」
そんな話し…聞いたことが無い…聞いたことは1度も。
「だけど、神々なんて早々増えないし、戦える戦力もあまり居ない。
でも、兵を増やそうと必死になってるんだ、だから、戦乙女だ。
本来は人から戦乙女にはなれなかった筈なのに、今はなれる。
その結果、君は戦乙女になったんだ。
オーディーンは戦力を増やすために敷居を低くして戦乙女を多く量産した。
質の低い戦乙女を…その結果、巨人領に移動したりして何人も死んだなぁ
覚えてるかな? 君の同期があの短期間で3人死んだの。
あれは質の低い戦乙女を無理矢理巨人領に向わせた結果だ」
……でも、あれは巨人と不意に戦闘になってしまったからで。
「青ざめて行っているね? ドンドン、ドンドン、ゆっくりと。
そう、ここまで言えば…分かるんじゃ無いかな? 僕が言いたいことが。
僕が何を言いたいのか、何を伝えたいのか、何故君にそんな話をしているのか。
…さて、だめ押しだ、エンヘリャルは戦争で死んだ勇敢な兵士達の事だ」
「や、止めろ…止めて…」
「分かってるんだろう? 君のお父さんは」
「止めろぉ!」
違う…そんなはずはない…そんなの…それは違う! 違う!
「あはは…丸腰相手にまさかまた窮地に立たされる事になるなんてね」
「違う…それは…違う筈で…」
「…事実だ、オーディーンは、君が信じている神々の長は…
人を道具にしか見ちゃ居ない」
「違う!」
「君のお父さんが死んだという戦争は…全て」
「止めろ! 止めて…止めて…ください」
「オーディーンの差し金だ」
「……違う…それは…」
「エリス! なんの騒ぎ!?」
「バレちゃったか、まぁいいや、それじゃあ、僕はここで失礼させて貰うね
まぁ、どっちを信じるか、誰を信じるかは君が選んでも良いんじゃ無いかな?
神々の長を信じるか、神や人の面汚しである、この僕を信じるか。
その選択をする権利くらいは、君にはある。
ま、真実を選ぶ権利は君には無いし、僕にも無いんだけどね」
……戦争を…オーディーン様が起した……でも、それはきっと…
それしか選択が無かったからだ…それしか、選択肢がないから。
「まぁ、あいつはどうせ自分の大事な物しか見てないのかも知れないけどね。
自分の息子を自分勝手に不死にするくらいだ、それで辛い思いをしたり
その幸福を妬む物が居るはずなのに、それを度外視して
自分の息子を不死にし、幸せを与えようとする。
最大の戦争が起こるかも知れないのに、そんな事に時間を潰して
大事な息子が怪我をしては駄目だと剣の稽古さえも付けないような、そんな奴だ。
わざわざ不死の力を与えたのに、戦わせようとしない奴だ」
「それは…」
「ま、どうせ僕の戯れ言だ、聞き流せば良いよ、それじゃーね
君が良いなら、何も言わないで欲しい、じゃ、またな」
ロキ様が私の前から遠ざかっていく。
今、手元にある剣を握り…ロキ様を追えば…捕まえることが出来るかも知れない。
いや、捕まえることが出来る…私の足なら…私の力なら…
だが、剣が重い…足が重い…体中が…重い。
動けない…動きたくない…私は……‥
「エリス! ちょっとエリス! どうしたのよ!
目に生気が一切ないけど! 怪我でもした!?」
「…フレイヤ様……私は…大…丈夫です」
「何強がってるのよ、全く」
「……‥いえ、大丈夫です…大丈夫ですから」
「…そ、そう…それでえっと…誰がバルドル様を殺したか…分かったの?」
「……‥分かりませんでした」
「そう、早く黒幕を探さないと…盲目であるホッド様がバルドル様に
攻撃を当てる事は出来ないだろうし…
誰に声を掛けられたかを聞いても、老婆としか答えないし…
盲目だし仕方ないとは言え…とにかく黒幕を探すわ。
でも、あなたはしばらく休んでなさい…何だか辛そうだし」
「……申し訳ありません」
…何故私は…ロキ様の事を…フレイヤ様に伝えなかったのだろうか。
何故私は…フレイヤ様に嘘を付いてしまったのだろう。
……分からない、私には…分からない。




