無事生存
…解毒薬のお陰で少々身体が楽になった。
あれだけ体調が悪かったのに、短期間で回復というのは流石だな。
これが神々の秘薬…うん、流石のひと言しか無いな。
「どう? ある程度は回復した?」
「はい、これなら動けそうです」
「そう、良かった」
「先輩! 良かったですぅ!」
「っと、おいおいニール、あまり抱きつくな」
「でも、わだじ、じんばいでぇ!」
「鼻水が凄いぞ? 折角の可愛らしい顔が台無しだぞ?」
「ほえ!? あ、ありがとうございます!」
「そのお礼はどっちに言ったのかしら、褒められたこと?
それとも鼻をかんで貰った事?」
「どっちもです」
本当に、ニールが怪我をしなくて良かった。
私が怪我をするのは全然問題無いが、ニールに怪我をさせるのは大変だ。
「まぁ、うん…でも、何だか子供っぽいわね、ニールちゃん」
「うぅ…」
「背も低いですしね」
「うぅ…大きくなりたいです」
もう無理だろうと心の中で思ったが、ニールを傷付けないように我慢しよう。
さて、それよりも今はメアリー達の事を心配しなくては。
「フレイヤ様、今回は本当にありがとうございます。
ですが、今すぐに私はメアリー達の捜索に向いたいのですが」
「駄目よ」
「しかし!」
「病み上がりが無茶しようとしないで、トール様もロキ様も行ったんだし大丈夫よ」
「ですが…万が一あったら」
「万が一は早々に起こらないのよ」
フレイヤ様に食い付いていると、入り口の方から声が聞え、その場に視線を向けた。
そこには無傷のトール様がメアリー達と一緒に帰ってきていた。
「トール様!」
「大丈夫よ、メアリーちゃんもスルズちゃんも無傷よ」
「よ、良かった…」
心の底から安堵した…こんな感覚は今まであまりなかったな。
「しかし、あの蛇は逃してしまったな」
「そうね…逃がしたわ…でも、なんであの蛇はすぐに逃げたのかしら。
私に恐れを成してって訳じゃ無いと思うのよね。
今まで何度かあったけど、向こうはこっちに来てたし」
トール様に恐れを成したわけでは無いと。
「まぁ、そんな事は今は良いじゃ無いか、無事だったという事実だけで」
「んー、まぁ、そうね」
少し気掛かりな点があるみたいだが、無事だと言う事が重要だな。
それはロキ様と同意見だ。
「ひとまずは一段落という事で良いのかしらね」
「そうね」
大きな仕事も終え、私達はロキ様とトール様に呼ばれた。
何故私達を呼んだのかはよく分からないが。
「えっと…トール様、何故我々を?」
「何でって、ほら、ご飯とかを食べたいでしょ?」
「いえ、ですがただの戦乙女である我々が神であるお二方と食事というのは」
「良いのよ、私はそう言う堅苦しいのは苦手だし。
それにほら、エリスちゃん達には何かと世話になってるしね。
特にエリスちゃんにはミョルニルを取り返す時も助けて貰ったし
やっぱり1度はハッキリとお礼をしないとね。
と言う訳で、ご飯よ! やっぱり交流の場と言えばご飯よね!」
「まぁ、否定はしないがな」
「で、ですが…」
「大丈夫よ! 私が大丈夫だって行ってるんだから大丈夫よ!」
「え、えっと、トール様がそこまで言うのであれば…」
「よーし! さぁ来なさい! すぐ来なさい! 食べるわよ!」
「は、はい」
私達はトール様に押し切られるような形で一緒に食事をする事になった。
バルハラの最も大きな食事処。
神々しか入れない、最も高額で最も優遇されている食事処か。
本来、戦乙女である我々では入れないほどの場所だが
トール様も同伴してくださっているため、入る事が出来た。
仮に入れても、私達の所持金ではとてもじゃないが料金は払えない。
「えっと、トール様…私達の所持金ではこの食事処の料金は」
「安心しなさい! 私が払うわ!」
「え!? し、しかし!」
「大丈夫よ! 最悪の場合ロキにも払って貰うから」
「おい! 勝手に決めるな! と、言いたいが、まぁ良いだろう。
だが、あくまで最悪の場合だけだからな。
金が足りるならお前が払えよ」
「勿論よ! 私が言い出したことなんだから!」
「えっと…」
「任せなさい!」
う、うーん、どうしてもトール様の勢いに押されてしまう。
「さて、えっと、酒樽を5樽、この肉を10kgで」
「待ってください! 多すぎでは!?」
「え? 何言ってるの? 大したことないわよ?」
「えぇ!?」
「さ、流石トール様…」
「お母さん、凄く沢山食べるから…」
「きょ、恐縮してしまいます…」
「えっと、次はこのステーキを20kgで」
…トール様が頼んだ料理がドンドン運ばれてくる。
ど、どうやったらこの山に近い料理を食べきれるんだ!?
無理だろ! とてもじゃないが、私は食べられないぞ!
と言うか! この料理の山の100分の1すら食べられる気がしない!
多すぎる! 多すぎるぞ! いくら何でも多すぎる!
「さぁ、まずはお酒よ! 飲みなさい!」
「い、いえ、しかし…」
「遠慮はいらないわ!」
「ま、待ってくださいトール様! 私はお酒を飲んだことが無く!」
「大丈夫よ! 飲みなさーい!」
「ま、ぶぐぐぅ!」
うぅ、苦い! 苦いぞ! 凄く苦い! 苦すぎる!
な、なんでこんな苦い物を沢山飲めるんだ!? 無理!
「…え、エリス、だ、大丈夫?」
「う、うぅ…苦い…」
「さぁ! ニールちゃんも!」
「ま、待ってください、私はまだお酒を飲める歳では!」
「半神が何言ってんのよ!」
「待ってくだ、むぐ!」
「お、お母さん! 無理して飲ましたら大変だよ!
と言うか、お母さん何も飲んでないのに酔ってるの!?」
「何言ってんのよ、私は平常よ! 今から飲むの!」
トール様は注文した酒樽5つを圧倒いう間に飲みきった。
更に、注文した食事のほぼ全てを1人で食べきってしまう。
更に注文を続け、今度は酒樽が10も運ばれてきた。
「さぁ! 飲むわ食べるわ!」
「…トール、いつも思うんだが、お前は奢ると言っておきながら
殆ど自分の分ばかり食べるよな」
「ははは! 奢る方も奢られる方も楽しんでなんぼよ!」
「楽しんでるのだろうか」
「せんぱーい、もっと飲みましょーよー」
「よせニール、冷静になれ」
「エリス! もっと食べてもっと飲むのよぉ!」
「待て! 無理矢理飲ますな、むぐぐぅ!」
「あ、あはは…エリス先輩、大変そうですね…私はリンゴジュースです」
「スルズちゃんも飲みなさいよ!」
「いや、待ってお母さん、私はお酒って飲める年齢じゃ…」
「半分神様になってるのよ? 年齢とか関係ないわ!」
「いやでも!」
「飲みなさーい!」
「あ、待って、お母さ、むぐぅう!」
まぁ、幼いときからお酒を飲んでる人もいたしな。
と言うか、子供がお酒を飲んではいけないというルールは人間界だけか。
神界では別に構わないことなのだろう。
「うへぇ…うぅ、ニールちゃん! 私にも飲ませて!」
「いーよー」
「……」
大丈夫なんだろうか、お酒というのは。
「所でエリスちゃん!」
「はい、なんでしょう」
「あなた、私の次に飲んでるはずなのに、随分と余裕そうよね!」
「え? そ、そうでしょうか?」
「もしかして、お酒強い?」
「えっと…初めて飲んだので分かりませんけど」
「ふふふ、なら、私と飲み比べよ!」
「え!?」
「止めておけ、エリス…こいつと飲み比べは自殺行為だ」
「何よ! 大丈夫だって! なんか私と飲み比べ張り合える相手っていないし
ちょっとやってみたいんだって、きっと楽しめるわ!」
「し、しかし、私はお酒という物は苦手で」
「大丈夫! なれるわ!」
「う、うぅ…」
の、飲み比べか…だ、出来れば断りたいが…だが、相手はトール様。
申し出を断るというのは失礼にあたいする…受けるしか無いのか。
覚悟を決めるしか無いか。




