逃走劇
ただでさえあの狼の誘導には苦労するだろうというのに
まさか…今度は巨大な蛇が私達の前に姿を見せるとはな。
きっと、この蛇はトール様が言っていた蛇だろう。
トール様が苦労するほどの蛇…それに、狼の挟み撃ちか。
「エリス先輩! これ、かなり不味いんじゃ!」
「あぁ…誘導所じゃ無くなったな」
どうする…誘導は不可能だが、この状態では生存もほぼ不可能だ。
単体でも苦労する相手が2体だからな、厄介すぎる。
狼の方も傷はほぼ完治しているようだし…だが、どちらにしてもだ。
「とにかく! 森を抜けるしか方法は無い!」
「でも…森を抜けるにはあの蛇を何とかしないと!」
「そこは私が何とかしよう…お前は走れ!」
「でも先輩…あの蛇は見るからに毒蛇です、1度でも噛まれれば!」
「あぁ…だが、2人で移動しても2人とも死ぬだけだろう。
なら、1人が惹きつけるのが正しいだろう? 実力的により可能性がある方が!」
私は二刀を取りだし、蛇に向って走り出した。
「エリス先輩!」
「走れ! 止まるな!」
蛇は私に気付き、瞬時に身体を後ろに引いて噛み付いてきた。
身体をバネのようにして噛み付く速度を上げたと言う事か。
やはりこの蛇にも知性がある…あの狼と同じか。
「ち!」
私はその噛み付き攻撃を剣で防ぐ。
口の中からドロドロとした禍々しい色の液体が漏れている。
これが毒か…なにやら臭いも強烈で、意識が朦朧とする。
軽く臭いを嗅いだだけでこれだ、噛まれては助かるまい。
「ぎ!」
蛇は再び身体を大きく引き、私に噛み付こうとしてきた。
「ふん!」
私は蛇の噛み付きを回避し、頬を削ぐように走り抜けた。
「ぎ!」
蛇は痛そうにのたうち回る。
私はその隙に蛇を背に走り続けた。
私の目的はただの惹きつけでちょっとした時間稼ぎでしか無い。
だから、首を落とす様な致命傷では無く、痛みを与えるこの手を考えた。
殺す事は出来ないだろうが、時間は十分稼げるだろう。
蛇自体はこれでなんとか…だが、問題は狼の方だ。
「む?」
あの狼はのたうち回っている蛇の方を見て、少しだけ動きを止めた。
なんだ? 普通なら興味を抱かないと思うが。
まぁ、あんな巨大な蛇がのたうち回っていればそっちに注目するのも
不思議では無いか。
なら、ある意味では良い時間稼ぎ二なっているかも知れない。
「ぐ!」
だが、狼は再びこちらを向き、私達の追撃を再開した。
「もう少し止まっていてくれれば良いのに」
「エリス先輩! 良かった、私、ゾッとしたんですよ!?」
森を抜けると、そこには先に行っていたニールが待っていた。
「ニール…」
「先輩? 少し顔色が…」
「あぁ…ちょっとな」
あの蛇の毒かも知れない…体内に直接毒を叩き込まれた訳ではない。
ただ臭いを嗅いだだけだと言うのに、少し意識が朦朧となる。
あぁ、これはあまり長時間時間を掛けては出来ないな。
まだ動ける間に、あの狼を撃破、あるいは誘導せねば。
「どうやら、あまり時間は無いみたいだ、意識がある間に
あの狼を例の場所に誘導する…」
「どう言う意味ですか!?」
「直接体内に入れられた訳では無い…少し臭いを嗅いでしまっただけ。
それでも、少し毒が回ってきているようでな、あまり時間は無いぞ」
「そんな!」
「直接毒を体内に入れられていたら、確実に死んでいたな」
「…でも、このまま意識を失ったりしたら」
「あぁ、あの狼に食われるだろう」
走りながら背後を見ると、狼も森から出て、こちらを追いかけているのが見えた。
もしも意識を失えば、あの狼に補食されるのは免れないだろう。
いや、捕食とは限らないが…どちらにせよ死ぬ事は変わりないだろう。
「急ぐぞ」
「はい!」
私達2人はそのまま走り続け、神々が待機しているという場の近くまで移動した。
流石に毒がそろそろ体中に回ってきたのか、真っ直ぐ走るのは厳しい。
それでも、転けてないだけましだ。
「せ、先輩…顔色がドンドン…」
「だ、大丈夫だ…」
「ホーリーリリースで回復をした方が!」
「時間が無いだろう? 回復をしている時間が、私達にあると?」
狼はもうすでにかなりの至近距離にまで移動してきていた。
やはり足は狼の方が上だというのは間違いない。
だが、この距離まで来れば…この場所まで来れば。
「まだ…まだ!」
「先輩!」
あと少しだ…あと少し…あと少しで私達の勝ちだ!
「がぁ!」
「狼が飛びかかってきました!」
「…もう、遅い!」
私はニールの腕を引っ張り、全力で正面に飛び込んだ。
辛うじて狼の射程から逃走することに成功した。
狼は私達がさっきまで立っていた地面に前足を乗せる。
「やれ!」
「が!」
同時に、周囲からいくつもの紐が飛び出し、あの狼を拘束した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「成功したようね…」
「え、えっと…フレイヤ様…これは?」
「グレイプニル、この狼、フェンリルを拘束するために用意した最高の拘束具」
「な…」
「それよりもエリス、かなり顔色が悪いけど…」
「あ、あぁ、えっと…毒…が」
うぅ…意識が…だが、よく頑張ったな、私。
「先輩!」
「ちょっと! エリス!?」
「え? 何どうしたの!? なんでエリスちゃん倒れてるの!?
怪我でもしたの!? でも、何処も怪我なんてして無くない!?」
「せ、先輩は大蛇の毒を食らったって行ってました!」
「大蛇!? 毒!? でも、噛み跡は何処にも!」
「臭いだけって…」
「嗅いだけで相手を毒にする程の猛毒…あいつね、でも、それは今は良い!
ただ嗅いだだけなら、まだ助かるわ!」
「はい、急いで!」
「それと、私はすぐに森に行くわ、あの蛇もいるでしょうし
この場に来たのはこの2人だけ、つまりスルズちゃんとメアリーちゃんは
まだ森の中に居るって事! それは不味いわ! 急いで行くわよ! ロキ!」
「なんで僕まで行かないと駄目なんだ?」
「目は多い方が良いでしょ!? 文句言わないで付いてきなさい!」
「はいはい、感情的な奴だ……」
……毒、か…助かれば…良いな。




