狼を追って
狼の痕跡を探すが、狼なんて何匹も居る。
この多数ある痕跡の中からあの狼の痕跡を見付けるのは難しいな。
しらみつぶしに探す、と言っても時間が掛かってしまう。
危険な狼だというのは間違いないのに発見に時間が掛かるのは頂けない。
「あの狼、見付かりませんね」
「あぁ、見た目は他の狼と同じだから見分けが難しい。
遭遇した狼を全て排除、と言うのは流石に可哀想だし面倒だ。
なんとかあの狼を見つけ出す方法を見つけねば」
「…そうですね、神様達が必死に探すくらいですし、きっと危険な狼でしょうし」
「あぁ」
だが、しばらく捜索をしても、その狼を発見することは出来なかった。
結局捜査は一時的に断念…やはりあの時逃したのは大きかったか。
だが、捜索が中断されて1年の時間が経った後、その狼が発見された。
狼は僅か1年でかなり背が大きくなっており、異常な成長性を見せていた。
「これがあの時の狼…1年前ですよね」
「あぁ、お前が戦乙女になってあまり経ってない頃だったな」
1年の月日が経っても、私はあまり変わらなかった。
依頼の内容も苛烈にはなっておらず、ずっとただの魔物退治だった。
1年間はニールとずっと一緒に行動をして居たからな。
人手も足りていたし、1年間ずっと新人扱いが出来た。
師匠を捜索する話は1年も経っても捜索の指示は無かった。
やはり相当危険みたいだな。
「ニール、スルズ、中々に成長出来たようだな」
アルヴァト様が私達の前に姿を見せた。
私達を召集したわけだし、姿を見せないと言う事は無いだろうがな。
しかし、わざわざ私達全員を招集とは、一体何事だろう。
「今回、君達を召集した理由だが…特別な指示がくだったからだ」
「特別な指示…ですか?」
「あぁ、今回の指示だが、我々は神々から成長したあの狼の撃破を任せられた」
「なん!」
「あ、あの狼はかなり危険では!?」
「あぁ、だがどうやら神々では手を出せないようでな。
そこで私達が呼ばれた」
「……」
「私達の役目はあの狼の誘導だそうだ。
目的はあの狼を拘束する事、その策が神々にはあるそうで
神々が準備しているという場所にあの狼を誘導する」
あんな狼を拘束出来るのだろうか。
確かに小さいときのあの狼ならまだしも
聞いた話では今はかなり巨大化していると…
私達ならいざ知らず、ニールやスルズ達にはまだ厳しいのではないか?
「誘導方法だが、どうやら成長してからと言う物
かなり好戦的らしくてな。
特に戦乙女に対しては過剰なほどに反応するとか。
だから、私達の役目は囮、惹きつけ役と言った所か」
「つまり、その狼の攻撃を捌きながら撤退し
神々が策を弄しているという場に誘導すると」
「そうなるな」
完全な惹きつけ役だな…だが、やるしか無いか。
「しかし、何故拘束という面倒な手を取るのですか? 排除で良いのでは」
「アスガルドの土地を血で穢さないためらしい」
「…そんなどうでも良い理由で」
「意外と重要なんだ、そう言った理由は」
「…はぁ」
「まぁ、私も細かい所は聞かされてはいないがな。
だが、やれと言われればやるしか無いだろう。
さて、問題は何処にその狼が待機しているか、だが」
アルヴァト様は私達の前に大きな地図を広げた。
「主にこの森で出没するらしい。
だから、ここを2人一組で重点的に捜索するんだ」
「2人一組は危険では?」
「確かにそうだが、範囲が広いからな、手分けが早い。
本来なら4人での捜索が一番なのだが。
2人は1年経ったとは言え、まだまだ新人…流石に危険すぎる。
だから、今回は2人一組でお互いの資格をカバーしながら捜索しろ」
「はい!」
「新人達は元気が良いな、お前達は?」
「やれと言われればやりますとも」
「少々気は乗りませんが…やるしか無いのならば」
「本来、エリスの様な返しならば怒るべきなのだろうが
まぁ、お前はそう言うキャラだからな、今更だろう」
変なキャラ設定が付いてしまっている気がする。
いや、確かに事実なのだが…うーむ。
「では、行動を開始しろ」
「はい!」
私達は目的の森の中に潜入し、狼の捜索を開始した。
やはり森と言うだけあって、かなり視界が悪いな、周囲も薄暗いせいで余計に。
確かにこれなら2人一組でお互いの死角をカバーするのは良いだろう。
だが、相手は巨大な狼、死角をカバーし合う必要も無く
目標が接近してくれば足音や物音で分かるだろうが。
「エリス先輩、何だか恐いですね」
「この程度で恐れてどうする」
「だって…お、お化けが出て来そうですし」
「お化けだと? お前は本当に子供だな。
冷静に考えてみろ、今、私達が捜索しているのは巨大な狼だ。
それに、私達戦乙女に過剰反応し、攻撃を仕掛けてくる狼。
どちらかと言えば幽霊の方が可愛いだろう?」
「た、確かにそうですね」
見えもしない存在よりも、確実に存在しててこちらに害をなす存在の方が厄介だ。
生半可な実力では抵抗することも出来ず敗北するような相手。
神々も動くとは相当な存在なのだろう。
そんな存在を捜索しているのにいるかも分からない幽霊に怯えるとはな。
「む?」
なんだ? 草木を踏むような音が聞えた。
「今の音って…」
「ニール、警戒しろ、お互いでお互いの背中をカバーだ。
何か異変があれば叫べ…分かったな」
「はい……」
物音は少しずつ近づいてきている……ゆっくりと足音も大きくなる。
「先輩!」
「…あぁ、遭遇してしまったか」
どうやら、接触したのは私達の方だったようだな。
狼はこちらの存在に気付いた瞬間目を見開き、明らかな敵意を向け
周囲の木をなぎ倒しながらこちらに接近してきた。
ただの狼の速度では無い!
「油断するなよ、ニール!」
「はい!」
誘導が出来るか怪しいな、これは。




