巨人を欺け
…スリュム、その怪力は相当な物だという噂を聞く。
トール様にも匹敵する可能性があるほどの怪力巨人。
危険を絵に描いたような巨人だろう。
その巨人の結婚式、フレイヤ様に変装してでる事になろうとはな。
この場は挙式、花嫁が刃を持っていてはあまりにも不自然だろう。
なので、刀はトール様に預けて丸腰だ。
正体がバレ、瞬時に攻撃なんて物を受けてしまえば防ぎようがない。
そもそも、挙式だからな、スリュム以外にも巨人は多い。
ミョルニルさえ手に入れば…トール様のお力で状況は打破できるだろうがな。
「では、花嫁ご入場!」
「……」
私の目の前にあった大きな扉がゆっくりと開く。
左にはトール様…右にはロキ様が変装して付いてきてくれては居る。
だが…お2人の力でも巨人を打破するのは困難だろう。
「おぉ! そなたがフレイヤか! なんと美しい!」
「よ、よろしくお願いしますわ」
うぅ…口調もフレイヤ様に合せろとは言われたが、やはり抵抗が…
そもそも、フレイヤ様の口調を聞く事は何度もあるが
あのお方は私に対して敬語等使わないぞ。
だから、敬語のフレイヤ様の口調なんて分からない。
とりあえず、高貴な人が喋るような口調で対応してみよう。
「さぁさぁ、こっちに」
「ありがとうございます」
私はスリュムの案内に従い、奥の席へと移動した。
目の前には食欲をそそるような大量の食事が用意してあった。
だが、私は緊張から、その食事が美味しい物には見えない。
そもそも、望まぬ相手と共に食事というのは些か抵抗がある。
「さぁ、今日は盛大に騒ごうぞ!
しかし、なんと美しきことか!」
スリュムが私のベールを上げ、私の顔をマジマジと見ている。
頭も撫でてくるし、首筋もなぞってくる、正直ゾッとする。
なんという気持ち悪さ…だが、抵抗は出来まい。
「ふふ、お前のような可愛らしい神が我が妻となるとは。
俺は本当に幸せ者だな。
お前も本当に幸福だろう? この俺がお前の夫だぞ?」
「は、はい…そ、そうですね」
「そう嫌そうな顔をするな、最初は抵抗があるだろうが
何、すぐにこの俺に惚れる、俺の偉大さが分かるさ」
「さ、さようですか…」
偉大さだと? 本当に偉大な存在なら、こんな姑息な手を使い
嫁を得ようなどとは考えないだろう。
そもそも、本当に偉大な尊大だというなら
私をフレイヤ様だと勘違いするんじゃない。
フレイヤ様の事を知りもしないのに嫁にしようなどと、なんと愚かな。
「スリュム殿、交換条件である」
私に対し、そんな行動をしているスリュムに痺れを切らしたのか
ロキ様がミョルニルの話を持ち出した。
「あぁ、そうだな、ミョルニルだな、よし、運ばせよう」
スリュムはあっさりとその話を了承する。
しかし、巨人というのは心理戦が苦手なのかも知れないな。
普通はミョルにルを後日渡す、と言うのが無難だろうに。
それに、随分と義理堅いな普通は渡さないだろう?
優位性はこっちにあるんだし、それを利用すれば良いのに
あっさりと渡そうとするのか、目的さえ達成できればそれで良いんだな。
普通はミョルニルが帰ってきたら、トール様がフレイヤ様を奪還するために
こっちに来る可能性を考えるだろうに…
だがまぁ、こ、これでミョルニルが到着すれば…
「もう我慢できない!」
「な!」
そんな時、トール様が食事に飛びつき、ガツガツと食事を始めた。
と、トール様? 正直、侍女が挙式の食事に食い付くのは違和感が。
「な、なんだこの女!」
「え、えっと、し、失礼します、こ、このお方は、えっと、私の恩人でして。
非常に食欲旺盛なんですよ、な、なので、この無礼もお許しください!」
「な、あ、あぁ…まぁ、我が妻がそう言うならば…」
な、なんとか誤魔化せた! 巨人が意外と馬鹿で助かったぞ!
と言うか、トール様も馬鹿だろう、なんでこの大事な場面で!?
正体がバレてしまえば、自分だって危機が及ぶような状況だぞ!?
それなのに食欲の方が勝るって、どうなってるんだ!
「美味い美味い!」
ガツガツと食事を取っているトール様。
だが、辛うじてミョルニルが挙式会場に到着した。
だが同時に、トール様の顔を隠していたマスクが外れる。
「お前はトール! 何故!」
「え? トール? だ、誰の事かしら~」
「お前だお前! 貴様! 何故ここに! フレイヤと俺の挙式を邪魔しようってのか!
だが、フレイヤは俺の物だ! ミョルニルがないお前など敵じゃない!」
「ヤバいわ! なんでバレたのロキ!」
「お前のせいだろうが! 折角エリスが誤魔化したのに!」
「エリス!? ロキ!? こいつはフレイヤじゃないのか!?
それに、お前はロキだな!」
「ヤバ! 口滑った!」
「だが良い、フレイヤじゃなかろうが、この女子は美しい、我が嫁とする!」
「ち」
スリュムが私を捕まえようと手を伸ばしてきた。
私はすぐにトール様に渡していた二刀の剣を奪い、剣を抜き去る。
「私はお前が夫など御免被るな!」
「な!」
スリュムの腕を叩き落とす、までには行かなかったが
あの巨人の腕を何カ所も斬り裂くことは出来た。
そのままスリュムの腕に乗り、首を斬ることも出来た。
「うぐ!」
だが、浅い! やはり巨人の首を叩き落とすのは困難だと言う事か。
…仕方ない、こうなれば私は手を変えるしかないか。
「この女!」
「悪いが貴様が夫、等と言うのは虫唾が走るんでな」
…時間は稼ごう、この花嫁衣装では非常に動きにくいが…やるしか無いだろう。




