新しい生活
ニールが部屋にやって来て、私の生活はかなり変わった。
普段、食事なんて満足に食べなかった私だが。
ニールと当番制にして食事を用意するようになったから
ドンドン色々な料理をこなすようになった。
そして、食事が妙に美味しいと感じた。
ずっと携帯食で過してきたが、料理というのも…悪くないな。
殺風景だった部屋も少しずつだが家具も増え始め
殆ど衣服など用意していなかったが、ニールのお勧めというのを
着てみたりして、何だか楽しく感じた。
「先輩! 今日はこのチョコレートを食べましょう!」
「ニール、おやつの時間には早いぞ?」
「大丈夫です!」
「…太るぞ?」
「は! だ、だだ、だ、大丈夫です! た、食べたら運動すれば!」
「運動してないじゃないか」
「うぅ!」
ニールは意外と食いしん坊で、良くチョコレートやクッキーを食べている。
私にも食べて欲しいと渡され、食べたりもする。
本当に甘いというのは幸せだ。
だが、あまり食べ過ぎると身体に悪いからな。
たまに食べ過ぎるニールを制止したりもする。
何だか…世話の焼ける妹が出来た様な感覚だ。
私に懐いてもくれるし、本当に可愛い妹だ。
「あはは、ご、ごめんなさい、先輩」
「お前には長生きして貰わないと困るからな、ちゃんと健康的に過せ」
「はい」
戦乙女としての仕事も、最近はあまり無いという感じだ。
正確にはあるんだが、危険な仕事はあまり回ってこない。
理由は簡単だろう、今は新人が居るからな。
そんな危険な依頼を行なえば新人の安否がな。
だから、今、回ってくる依頼は精々魔物退治だ、本当にありがたい。
私はあの後、依頼として魔物退治をした。
大した魔物ではないため、ニール1人で容易に撃破が出来た。
「よしっと、先輩、今回の依頼はこれでお終いですか?」
「あぁ、良くやったな、ニール」
「えへへ、ありがとうございます!」
「…もう魔物を仕留めたのか」
「ロキ様」
…ロキ様は新人の様子を見たいと言い、わざわざ付いてきた。
…しかし、何故神が戦乙女の新人に興味を抱くのか。
少しだけ疑問には思った…だが、断るわけにもいかないしな。
「なる程、中々良い筋だね、戦乙女とは思えない程に」
「ニールはただそこら辺の雑魚を狩っただけですよ?
その程度でそこまで褒められるのは…新人を増長させかねません」
「真面目だね、君らしいよ、本当に君らしい」
「……」
「そう睨まないでくれって、褒めてるだけだから」
「はぁ、ありがとうございます」
「でもまぁ、真面目って言うのは辛いだろうけど」
「は?」
「何でも無いよ、まぁ、今回はこれで帰らせて貰うよ」
「では、共に」
「いや、1人で良い」
「え? あ、はい、分かりました」
ロキ様はそんな事を言い、私たちの前から姿を消した。
ロキ様…一体何の為に付いてきたんだ? あのお方は謎が多い。
悪戯を良くする神様だというのは聞くが…うーむ、謎だ。
「な、なんだったんでしょうか…」
「分からん」
あの方の狙いはイマイチ分からないな。
悪戯をよくすると言う情報以外、私は知らないしな。
「まぁ良いか、ひとまずは帰還だな」
「はい!」
うん、ただニールの様子を見ているだけで金が貰えるとはな。
中々に楽だが…少し、申し訳ない気持ちもあるな。
「先輩!」
「なんだ?」
「私、初めてお給料を貰いました!」
「あぁ、そうだろうな、学園ではお金は貰えないし」
「はい! なので先輩! 何か奢らせてください!」
「…家族に使えば良いんじゃ無いか?」
「いえ、お母さんやお父さんなんかに」
「……ニール」
「え? あ、はい」
「家族というのはな、当たり前の様に近くに居るから
普段はそんなに大事には感じないかも知れない。
だがな、ニール…本当に大事な物というのは当たり前の中にあるんだ」
「……」
「当たり前が当たり前じゃ無くなったとき、初めてその尊さに気付くだろう。
だが、それじゃ遅いんだ…なくした後に気付いても何も出来ないからな」
「先輩…」
「ニール、家族は大事にしろよ? 後悔しないように…いや、違うな。
結局お前は後悔する。
例え両親のために尽くしても絶対にお前は後悔する。
後悔の重みはきっと同じだ、でもな、それでも親を大事にしていれば
少しくらいは親の為になったかも、なんて思えるだろう。
それが救いになる、だから、お前の為にも家族は大事にしろ」
「は、はい…すみません、先輩…先輩の気持ちを考えず。
先輩も初めてのお給料はお母様の為に使ったんですよね?」
「え? あ、あぁ、当然だ、大事なお母さんだからな」
「ありがとうございます、このお給料、お父さんとお母さんの為に使います!」
「あぁ、それで良い…きっとお前のご両親も喜ぶだろう。
今までの恩に報いれる訳ではないが、ちょっとしたお礼にはなるだろう」
「はい!」
ニールは楽しそうに家に帰る準備を始めた。
一応、バルハラから出るにはフレイヤ様の許可が必要らしい。
私はフレイヤ様の元に移動して、ニールがバルハラから出るための許可を貰いに来た。
ニールはまだ身支度をしているだろう。
「ふんふん、ニールちゃんの外出許可ね」
「はい、ニールは今、身支度をしています」
「ふふ、初任給、凄く喜んでたわね、あの子」
「はい、最初は私の為に使おうとしたみたいですが
色々と話して、家族の為に使おうと思った見たいです」
「……そう、きっとあなたには辛かったでしょう?」
「いえ、あの子が喜んでる姿を見た時の喜びの方が上です。
それに、いつまでもウジウジしていたら、母に怒られてしまいますから」
「…強いのね」
「いえ、私は強くありませんよ」
本当に私が強ければ…今でも母の事を後悔する、なんて事は無いはずだろう。
後悔など無意味だと…心の中では理解しているのに。
それでも私はずっと、自分のせいで母が死んだと後悔している。
結局、私の努力は母の為にならなかったと、意味は無かったと。
……私は弱い、それは分かる。
「まぁ、折角の記念日ですし、あまり暗い顔をするのもよくありませんね」
「…そうね、えっと、外出許可よね、はいこれ」
「ありがとうございます」
許可証を貰った…これをニールに渡そう。
「…ねぇ、エリス」
「はい」
「私の前では暗い顔をしても良いわよ?
たまには誰かに素直になりなさい、我慢しても辛いだけよ?
誰にも素直になる事が出来ないのは孤独でしょうしね。
辛いときは泣いても良いし、嬉しいときは笑っても良いわ。
まぁ、勤務中には流石に駄目だけど、こう言うときくらいはね」
「…ありがとうございます」
でも、きっと私はそんなに素直になる事は出来ないだろう。
フレイヤ様の優しい言葉も心に響かない。
私は本当に無気力で無関心で…なんとも無意味な存在だろう。
でも、そんな無意味な存在である私でも。
「許可証だ、これを持っていけ」
「あ! あ、ありがとうございます!
すみません、本当は自分でしないといけないのに」
「気にするな、お前が喜んでくれるなら私も嬉しい」
「ありがとうございます!」
ニールの笑顔を見ているこの間は…何よりも幸せを感じる。




