2人だけの空間
少し時間が経過して、早速訓練が始まった。
最初の訓練、それは恐らく先輩の実力を叩き込む訓練だ。
「よし、始めましょうか」
「はい!」
「頑張れー! スルズちゃーん!」
と、トール様だ…かなり声が大きいな。
と言うか、観客なんて1人もいないし
わざわざ大声で応援する必要は無いと思うんだが。
「お、お母さん…」
合同訓練という名目ではあるが、実際は実力差を教え込む訓練。
最初は私、メアリーとニール、スルズでの戦いになる。
恐らくだが戦乙女同士の連携、単純な実力の差を見せ付けるためだ。
しかし、背後にトール様が居るとなると、ちょっと不安だな。
「…エリス先輩、私、嬉しいです!」
「む?」
ニールは私だけを見ていた。
他に何も見ず、私だけを見ていた。
私以外の言葉なんて聞えていないかのようだ。
「また、エリス先輩とこうやって訓練出来る事が。
こうやって、またエリス先輩を目指して歩めることが」
「始め!」
訓練開始の合図…
「そしてまた…自分の身の程を知ることが出来ることが!」
訓練の合図と同時にニールは瞬間間合いを詰めてきた。
「ふ」
私はニールの木刀を片手で受け、流す。
「りゃ!」
私に流されても、ニールはすぐに体勢を立て直し、私の方に斬りかかってきた。
「ふん」
その攻撃を防ぎ、今度は力でニールの剣を弾く。
「あまり手加減はしないぞ?」
剣で弾くと同時に、ニールを蹴った。
「あぅ!」
ニールはギリギリで私の蹴りを防ぐ。
だが、勢いは殺せず、後方に吹き飛んだ。
だが、体勢は崩れず、立ったままで吹き飛んでいる。
「戦いは剣だけでする物ではない、実戦は訓練ではなく殺し合いだ。
殺し合いにルールはない、だから、いかなる手を使ってでも相手を屠れ。
過去、お前に稽古を付けたときに教えた言葉だ」
そして、私が師匠から教わった言葉でもある。
「…やっぱり先輩は強いです、私、あの後凄く頑張ったんですよ?
頑張って他の戦乙女が追いつけないほどに鍛えました。
先輩の隣で戦いたいから…でも、やっぱりまだまだ駄目。
だけど、なんだか楽しいです! 全力でぶつかっても倒せない相手!」
言葉を発しながら、ニールは間合いを詰めてきた。
今度はその攻撃をニールの剣を叩き、バランスを崩させて転かせた。
「だから!」
ニールは転げても、すぐに体勢を立て直して一気に間合いを詰めての
突きによる攻撃を仕掛けてくる。
「私、楽しいです!」
私はニールの突きを剣の腹で防いだ。
「…そうか」
ニールの手は震えている、力を込めている証拠なのだろう。
「りゃ!」
すぐに突きを横に逸らし、今度は斜めに切り上げてくる。
私は剣を戻し、ニールの腕を切り上げによる攻撃を仕掛けた。
「いっ!」
私の攻撃はニールの腕に当たり、ニールの剣は大きくズレた。
「…やっぱり、正面から戦っても勝てませんね」
「私はお前の先輩でお前の師匠だ。
ふふ、まだお前に負ける訳にはいかないんでな」
「本当に強いですよ、先輩はまだ殆ど身体を動かしてない。
だからせめて! 動かして見せます!」
「良いだろう、動けなくなる前に私を動かしてみろ!」
「はい! だりゃぁあ!」
ニールの攻撃は非常に単調だ、この攻撃のスタイルは
何処か私の戦い方と似ているように思える。
あくまで二刀を扱ったときの戦い方だ。
「りゃ!」
ニールの剣を防ぎ、流すようにずらしてニールの胴に一撃を入れる。
「うぐ! …まだ!」
だが、ニールは怯まずに攻撃を続けた。
私はすぐに胴に当てた剣を上げ、ニールの剣を上に上げ
その下を潜るように身体を低くした。
「う!」
「その場合、腹がお留守になるぞ?」
そして、低い体勢でニールの腹部を殴った。
「はふ!」
「あまりやり過ぎると大怪我をさせてしまいかねないからな。
まぁ、命のやり取りをする為の訓練だ、怪我は覚悟しろ」
「わ、分かってます…大丈夫ですよ」
あまり強くやり過ぎると大怪我をさせる。
だから、可能な限り手加減をして立ち回る。
私は訓練で大怪我をするのはなれているが、ニールには早いだろう。
ふ、師匠との訓練で何度死に掛けたか…あの訓練はまだニールには早いな。
「絶対に…先輩を動かします!」
ニールが一気に接近し、私へ攻撃を何度も仕掛けてくる。
私はその攻撃を流したり、崩したりと防衛を主にする。
だが、そろそろ終りにしよう。
「うりゃぁあ!」
「これで終りにしよう」
ずっと防御からの攻撃をしていた私だが
最後は最後らしく、こっちから攻撃を仕掛けて終りにしようか。
「…まだ、まだぁあ!」
「お?」
ニールは私の攻撃を流した…ふ、今までの私の戦い方を真似たか。
だが、その流しによる攻撃の避け方くらいはよく分かってる。
「良い判断だ、この場面でカウンターを狙うのもまた面白い」
私は流される瞬間に剣を停止して、ニールの腹を蹴る。
「あぐ!」
「だが、もしも失敗したらどうするかを考えていない。
一か八かの賭けに出るなら、失敗したときどうするかを考えておくべきだった。
最低でも1つ、その場合の対策を練っておいた方が良かったな。
即席で3つ4つは難しいだろうが、最低1つは考えてたほうが良かったな。
成功すること前提での攻撃では失敗したとき、どうしようもないだろう?」
「……うぅ」
「だが、強くなったな、ニール…最初の時と比べて本当に。
でも、私の真似をするだけでは私は越えられない。
それも前、お前に言ったことだったな」
そして、私が自分自身で経験したことだった。
「お前はもっと強くなれる、そして、お前がもっと強くなる為に
私も強くなってやろう、だから、まだめげるなよ」
「…めげてなんていませんよ…私は何度もこうやって先輩に負けて
それでも何度も先輩を追いかけるために立ち上がったんですから。
だから、絶対に追いついて見せます…先輩の背中を護れるように。
私の永遠の憧れを…護る為にも」
「期待してるよ、ニール」
だが、私なんかを護る価値はきっと無いんだろうがな。
「……あぁ、そうか、そう言えばメアリー達も訓練してたか」
「忘れてたわけ?」
「あぁ、メアリー、負けてなかったんだな」
「うぅ……」
メアリーの前では倒れているスルズの姿があった。
あまり怪我はしていない…ニールと比べればな。
「本当、ニールの根性凄まじいわね。
あれだけ手ひどくやられてもずっと動いてたんだから。
スルズは5発くらいで倒れたわよ」
「ニールの根性が異常なだけで、スルズは正常だ。
いや、むしろ普通よりも根性は据わってると思うぞ」
「えぇ、普通は2,3発で動けなくなるからね」
「…スルズちゃん、頑張ったね、でも、諦めないで!」
「お、お母さん…うぅ」
「エリスちゃん、ニールちゃん、2人は本当に強いね
…オーディーン様にもこの事、教えておくから!
きっと色々と名誉が貰えると!」
「待ってくださいトール様! 私、そう言うのいらないです!
なので、報告するならニールだけで!」
「まぁまぁ、謙遜しないでって、じゃあ頑張ってね!」
「あ!」
……しまった! ニールとの戦いが楽しすぎて忘れていた!
うぅ、ま、まただ…また失敗してしまった…
「…ねぇ、あなたって結構ドジっ娘」
「ん? ドジっ娘とはなんだ?」
「あ、いや、何でも無いわ」
うー…何だか失敗が多いな…はぁ、どうしよう。




