目立たない実力者
「それで、スルズ…
いや、トール様のお嬢様ならスルズ様と言った方が良いのか?」
「いえ、スルズで大丈夫です、私は新人ですし」
「では、スルズと呼ぼう、ニールと仲良くしてくれてありがとう」
「え? あ、え? あ、はい」
なんだ? 少しだけ動揺している様に見えるが。
「エリスがお礼を言ってくれるのに驚いたって事?」
「あ、はい…少し」
「私がお礼を言うのはおかしいか? 私がいない間
ニールと一緒にいてくれたのだろう? お礼を言うのは当たり前だろう」
「え? あ、はい、そうですね」
少しだけ呆気にとられているように見えるな。
「…ねぇ、ニール」
「何?」
「あなたの師匠は…いい人なの?」
「うん! 勿論だよ! エリス先輩は凄くいい人で!」
「でも、噂だと無愛想で世間離れしてて何を考えてるか分からなくて
無気力でやる気も無くて、お給料泥棒をしている戦乙女って」
「そんな噂になってるの!? そんな訳無いよ!」
「ふむ、大体あってる」
「あってるんですか!?」
「あぁ、私は誰かに愛想良く接することも出来ないし
世間の常識にも非常に疎い。
実際に無気力でやる気も無く、仕事も本気でやってないからな」
「それを私の前で言うのか? お前」
「あ…」
アルヴァト様がいることを忘れていた。
「と言うか、本気でやらずに巨人領から五体満足で生存してきたのか」
「巨人領から!?」
「巨人と相対したときは流石に本気で戦いました」
本気で倒すつもりは無かったが、本気でやらねば殺されていそうだったしな。
全力全開で戦ったわけでは無いが、ある程度本気は出した。
「巨人と相対して五体満足所か無傷…実力は間違いないな」
「巨人と戦ったって! お母さんもやってたけど…そんな芸当が出来るのは
神様レベルじゃ…なんでただの戦乙女なのにそんな!」
「エリス先輩は凄く強いんだ!」
「私は」
「巨人と戦って生き残る戦乙女…凄い!」
さっきまで私に対して疑いを持っていたスルズの視線が明らかに変わった。
さっきまでの表情とは打って変わって、尊敬の念を感じる様になった。
尊敬されるという感覚はニール以来だが…悪くない気分だ。
「ちょっとだけ武勇伝を聞いただけで態度を変えたわね。
まぁ、あんな噂を聞いてたのにいざ話してみると
圧倒的な武勇伝を示されたら、そりゃそうもなるわね」
「でも、なんでエリス先輩の噂がそんなに悪いのかな?」
「あぁ、それは今までエリスがしてきた武勇伝は全て神々が
行なったと言う事になっているからな」
「なんで!?」
「エリスの意思殆どよ、神々にもその方が都合が良いしね」
「ど、どういうことですか!? エリス先輩!」
「だって、目立つのは好みではないし、仕事が増えるのは嫌だ。
私はのんびりと部屋で眠っていたい」
「凄い実力があるのにそれを表に出さないなんて格好いい!」
え? いや、そこはなんて無気力なんだってくるのかと。
後、あの尊敬の念を感じる視線も曇るかなと思ったんだが
何故かむしろ増したように思える。
「この子って、意外と盲目的なタイプなのかしら」
「そんな気がするな」
「うーん」
「エリス先輩!」
「なんだ?」
「私に剣の稽古を!」
「…それはメアリーに頼め、お前の直属はメアリーだろ?」
「は、はい」
「何故かしら、私、目から汗が出てくるわ」
「す、すみませんメアリー先輩!」
「まぁ、冗談だけどね」
「冗談なんですか!?」
「そりゃそうよ、この程度で涙を流すわけ無いでしょ
まぁ、あなたの剣の稽古は私が付けてあげるわ。
正直、いきなりエリスと稽古って言うのはハードルが高いだろうし」
「は、はい」
「話は纏まったか?」
メアリー達の会話の後、アルヴァト様が2人の会話を制止するように声を出す。
「では、ひとまず1度合同稽古と行こうか」
「はい!」
ほぅ、最初は合同訓練か。
「因みに私達の稽古だが、今日は特別にトール様が来てくれる」
「お母さんが!?」
「あぁ、気まぐれだと本人はおっしゃっていたが」
それは違うだろうな、まず間違いなく自分の娘が来たからだろう。
「お、お母さんが来るなら、が、頑張らないと」
「稽古は今から30分後、それまでに休んでいろ」
「はい!」
私はニールと共にひとまず自分の部屋に移動した。
ニールもこれから寮で生活するのだろうな。
「ここがエリス先輩のお部屋…何もありませんね」
「あぁ」
「ここに2年間以上も?」
「あぁ」
「……駄目ですよ先輩! これじゃあ、ただ呼吸してるだけです!」
「しかし、最低限の施設はあるし、別にこれ以上を求める必要は」
「駄目ですよ! もっと色々と! そうしないと楽しくありませんよ!?」
「いや、楽しい楽しくないは正直どうでも」
「駄目です! ちゃんと楽しまないと!」
「いや、だが…」
「でも、大丈夫です! これから私もエリス先輩のお部屋で過すみたいですし
頑張ってお部屋を可愛くします!」
「何!? お前もこの部屋で過すのか!?」
「はい! 最初の間は共に過す上司の方と共に過すそうです」
「そうだったか?」
確かに最初の間は…一緒に住んでいたような気がするが…
うーん、ハッキリは覚えていないな。
「はい! なので最初の間は一緒に過します!
確か戦場ではお互いの信頼が重要だから
しばらくの間は共に過し、親睦を深めるようにとの事です」
「確かに戦場での信頼は重要だからな」
「なので、しばらくは共に過します!
だから、このお部屋の事は私にお任せください!
綺麗に飾り付けて華やかなお部屋にします!」
「あぁ…部屋の飾り付けなど興味が無いし、センスも無いだろうから頼もう」
「はい! お任せください!」
しばらくの間、ニールと同じ部屋で過すのか。
まぁ、それはそれで面白いだろう。
ニールと一緒にしばらく過すというのも面白そうだしな。




