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無気力系戦乙女  作者: オリオン
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隠していた過去

ふふ、久し振りの休暇だ、巨人領からの帰還だったからな。

しかし、やることが無いな。

とりあえず食事でも取るか。

だが、料理をするのは面倒だな…いつも通りで良いか。


「ん…」


今日も携帯食、これは楽で良いな。

ただ袋を開けて食べれば良いだけだからな。

料理を作るというのは面倒だ。

母に作る分の料理は何の面倒など感じなかったが。

自分の為に作る料理など、本当に面倒なだけだ。

ただ腹が膨れれば良いだけだからな。

それ以外に食事には必要性が無いだろう。

しかし、前の休日の時みたいにケーキを食べたい気もする。

…だけど、やっぱり私にはちょっと無理だろうな。


「エリス…え、エリス?」

「ん? んん、あら、メアリーか」

「…初めてあなたの部屋に来るけど…何も無いわね」

「あぁ、寝る場所さえあればそれだけで問題無いからな。

 しかし、この部屋は大きいな、何だか広すぎて落ち着かない」

「…それともう一つ良いかしら?」

「何だ?」

「なんで携帯食なのよ…それ不味いのに」

「食事など腹が膨れればそれで良いだろう?」

「あなた楽しみとか無いの!? 食事がそれって!」

「楽しみか…そうだな、ニールと話をしているときは楽しいぞ」

「そう、相当気に入ってるのね…じゃなくてよ! 

 あなたって確か料理出来るんでしょ!?」

「あぁ、母の料理を毎日作っていたからな」

「じゃあ、自分の分も作れば良いじゃない!」

「…? 自分の為に料理を作っても面倒なだけじゃ無いか」

「な! ま、マジで言ってる? いやうん、マジで言ってるのよね。

 そんな表情だもの、冗談で言ってるような表情には見えないもの!」


ふむ、やはり私の感覚は何処かズレているのかも知れない。


「…エリス、あなた本当に自分の事に興味無いのね」

「あぁ、そんな物に興味は無い」

「そんなんじゃ早死にするわよ…と言うか、絶対に生きてても楽しくないでしょ」

「まぁ、楽しくは無いな、いっそ死んだ方が楽なんじゃ無いかと思うことは何度か」

「重いわ!」

「だが、私は死なないぞ、すぐに再会しては母に呆れられてしまうからな」


やっぱり長く生きないと、母に合せる顔が無いからな。


「そう……ん!? ちょっと待ちなさい! 今! すぐに再会したら…母に呆れられるって」

「……い、いや、言い間違いだ!」


し、失敗した! 口が滑ってしまった!


「…もしかして、あなたが無気力になった理由って…お母さんが…死んじゃったから?」


…もう完全にバレてしまったか、出来れば隠しておきたかったが、仕方ないだろう。


「……ニールには黙っておいてくれ、あいつの事だ、きっと本気で心配する。

 あの子の笑顔を陰らせたくは無い」

「……詳しく教えてくれない? あなたの過去」

「そうすれば、黙っていてくれるか?」

「えぇ、約束するわ」


そうか、なら話してしまっても良いだろう。

1度でも良いから、誰かに話したいとも思っていたからな。


「……母は本当に病弱でな、私が小さな時からそんなんだった。

 母は本当に優しい人だった、早くに戦争で死んでしまった父の代わりに

 必死に私を育てようとしてくれていた。

 だが、無理が祟ったのか、母は私が物心が付いたときには動けなくなってた。

 だから、私は母の為に出来る事を必死に考えて…ある方法を閃いた。

 それが戦乙女になる事だった…そうすれば神々の力で母を救えるかもと。

 だから、私は必死に必死に訓練したんだ、毎日剣を振るって。

 その時間以外は全て母の看病に時間を費やした」

「…辛くは無かったの?」

「辛くは無かった、ただ焦りはあったな。

 だが、少なくとも今よりは生き生きしてたか。

 確かその頃だ、師匠に出会ったのは」


私の師匠、リリアス…私の大事な人。


「自分だけの訓練に限界を感じていた私は師匠に鍛えてくれると言われ

 それで強くなれるならと、私は師匠の申し出を受入れた。

 それから、バルハラ学園に入るまで、ひたすらに師匠に鍛えて貰ったんだ。

 その間、私は1度だって師匠には勝てなかったよ」

「…何年間くらい鍛えてたの?」

「師匠に出会ったのは確か私がバルハラ学園に入る10年以上前だ

 その間、私はずっと師匠に鍛えて貰ってた。

 師匠はスパルタでな、本当に容赦なかったよ。

 そのお陰で、私は妙に体力があるんだ」

「…どんな感じだったの?」

「魔物の群れに放り投げられたり、巨岩を持ち上げさせられたり。

 持ち上げたら持ち上げたで、それを背負ったまま階段を何度も登ったり。

 師匠との組み手でも何度か腕の骨が折れたぞ。

 師匠のホーリーリリースですぐに治ったけど、休む暇は無かったな。

 回復した直後に次の訓練なんていつもだった」

「…か、苛烈すぎない? でも、根は上げなかったのね」

「あぁ、バルキリーになって、母を助ける。

 私がどれだけ辛い目に遭おうとも

 母の為に何も出来ない方が私には辛かったんだ」

「…じゃあ、その師匠は?」

「私がバルハラ学園に入学する直前に姿を消したよ。

 私に自分が使い続けてた剣を授けてな」


私がいつも使ってる、師匠から貰った大事な剣。


「…この剣があなたの師匠が使っていた剣?」

「あぁ、確かファンファーレという名前だったはずだ。

 師匠がいつも大切そうにしていた剣だ。

 私との組み手の時にこの剣を抜いた所は見たことが無いがな」

「あなたにそんな剣を授けて、師匠は何処へ? 武器が無いんじゃ」

「師匠も私と同じで剣を2振り持っていたんだ。

 師匠が二刀で戦うところは殆ど見たこと無いがな」

「…そう、じゃあ、あなたが大事そうにしてる、その剣は?

 見た目、かなり使い古されてるように見えるけど」

「あぁ、こっちは…名前も何も無い、ただの安い剣だ」

「安い剣? でも、値の低い剣は殆ど簡単に壊れてしまう筈よ。

 ゴブリンとの戦闘、巨人との戦闘で使用して、折れてないなんて」

「大事に使っているからな、毎日手入れは怠ってない」

「…そんなに大事に使うって…そんなに思い入れがあるの?」

「あぁ…この剣は…母の形見なんだ」

「か、形見?」

「あぁ、母が使っていた訳では無いんだがな。

 母がバルキリーになると言う、私の為に買ってくれた大事な剣だ。

 母はずっと駄目だって言っていたが、私がずっと諦めなかったからな。

 母が折れて…貧乏な家庭だったが、母が剣を買ってくれたんだ。

 お金も無かったから、安い剣だ、それでも…私がバルキリーになると志

 ずっとずっと一緒に育ってきた私の相棒だった。

 師匠から何度かそのボロい剣を新調してやろうと申し出もあったが。

 私はそれを全て断ってた…母が買ってくれた、唯一道具だったからな。

 母はいつも我慢させてごめんねと言ってたよ…私も理解してた。

 父も居ない家庭、お金などあるはずが無い。

 だから、私はずっと我慢してた…だから、この剣を貰ったとき。

 私は申し訳ないという気持ちを僅かに抱いたが。

 それ以上に…嬉しかったんだ、だから、ずっと一緒に育ってきた。

 師匠は驚いてたよ、そんなボロい剣がここまで持つなんて、と。

 毎日手入れをしていたからだろう…母の思いを無下にはしたくなかったからな」


ずっと剣の手入れをしていた、1日だって剣の手入れを怠ったことは無い。

それは今でもそうだ。

何に対しても無気力な私だが、この手入れだけは毎日行なっている。

それだけ、この剣達は私にとっては大事な物だ。

母との思い出…師匠との思い出…今はその手に無いけれど。

この思い出だけは、ずっと私の心の中に残っている。


「……そう、羨ましいわ」

「お前は? 剣に思い入れは無いのか?」

「えぇ、私はただバルキリーなりたかっただけだからね。

 あなたみたいに確かな目的は無かったわ…

 それで…何でそんなあなたが」

「……3年の時だ、必死に鍛えてバルキリーになろうとした時。

 あと少しで目的が達成し、母を救うことが出来ると考え始め

 少しずつ楽しみになり始めてた時だ。

 今までの努力が報われ、母を救うことが出来ると考えていたときだ。

 ……母の訃報が届いた」

「……」

「今までの生きる目的を全て否定された気分だった。

 生きる理由も生きたいと思う理由も、目的も。

 今までの17年間…今までの苦労が全て否定された。

 何の意味も無くなった、だから」

「…そう、その時からあなたは…でも、あなたは1年の時から」

「あぁ、出来れば危険地帯には向いたくなかったからな。

 病床に伏している母を置いて、危険な場所には向かえなかった。

 今は面倒だから、と言うのが理由なのだがな」

「……」

「ただ…そんな私にも少しくらいは救いがあった。それがニールだ」


……私が手に入れた、僅かな生きる理由。


「私はあの子の成長が本当に気になるんだ。

 強く…逞しく…輝いて、生き生きしていて…

 その成長を見てみたいって思ってな」

「…もしかしたら、あなたの師匠もそんな感じだったんじゃ無いの?」

「ん?」

「あなたの成長が楽しみだったから、稽古を付けたって感じなんじゃ無いの?」

「……かも知れないな、なら、きっと今の私を見れば、師匠はがっかりするだろう」

「……だったら」

「悪いけど、それでも私は今のままだ」

「……」

「だがメアリー」

「何?」

「…ありがとう」

「……どういたしまして」


メアリーは少し驚いた表情を見せた後、僅かに微笑んでくれた。

何だか少しスッキリした気分だ…人に何かを話すというのも、悪くないな。

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