巨人からの逃走劇
あいつらはまだこちらを追いかけてきているのか。
ち、図体の割には動きが素早いな。
いや、背が高いから移動速度が速いのかもな。
「不味いわよ、このままだと追いつかれる!」
「メアリー、もう少し速く走れないのか? 追いつかれると面倒だぞ」
「なんであなたはそんなに足が速いのよ!」
「早く走るコツくらい、師匠から教わっているからな」
「それを私に教えなさい! 今すぐ!」
「いや、正直教わっただけで実戦できる行動では無いと思うが。
まぁ良い、そうだな、走る時に飛ぶように脚力を強くしろ。
体勢は可能な限り低くして、タイミングを合わせて全身を」
「やっぱり無理! そんなのすぐに出来るわけ無いわ!」
「そうだろうな、私もコツを掴むのにかなり時間が掛かったからな。
それとこの走り方は体力の消耗が激しくなるから体も慣らさないと駄目だぞ」
「くぅ! あなた本当に色々と凄いわよね!」
「師匠に恵まれただけだ」
「流石最強の戦乙女を師に持つだけはあるわ」
しかし、このままだと追いつかれるのは時間の問題だろう。
巨人達もフル装備、戦闘をするつもりなのは間違いないだろう。
私達2人だけであの数の巨人を相手にするのは不利だ。
かといって、このまま逃げ切るのも困難だろう。
この場合はどうした方が良いだろうか。
こちらから仕掛ける? しかし、それは戦闘を避けられない。
じゃあ、メアリーを見捨てて全力で逃げるか?
なんて、そんな真似は出来ないか。
仕方ない、このままだと時間の問題だ
行動は速いほうが良いだろう…
「仕方ない、メアリー」
「何よ!」
「私があいつらを少しだけ惹きつけよう」
「はぁ!? 戦闘が嫌いだって言ってるあなたが!?」
「面倒事が嫌いなんだ、このままだと逃げ切れないだろう?
かといって、お前を見捨てたりしたら神々からお咎めを受けるだろう?
だったら、面倒事を最小限に納めることが出来る手を選ぶ。
それがこれだ、少しだけ時間を稼ぐから、お前は逃げていろ」
「冗談じゃ無いわ! あなたが戦うって言うなら私も!」
「私は戦うつもりは無い、少し時間を稼ぐだけだ、ほら行け
少しでも進んでいろよ? その方が私はすぐに撤退できる」
「危険よ!」
「私の事が心配ならひたすらに前だけ見て逃げていろ。
それがお前に出来る最善の行動だ。
お前が一定の距離さえ取ってくれれば、私は逃げ出す事が出来るのだから」
「……く! 戦乙女として情けないわ!」
ふぅ、何とか行ってくれたか…しかし、何体居るんだろうな。
単体でも面倒くさそうな奴らがここまで揃っているとは。
「片割れの為に時間稼ぎか、殊勝だな戦乙女」
「面倒事は嫌いなんだ、これが1番楽だと判断しただけ」
「ふ、1番楽な選択に行き着くのは死だけだぞ?
だが、他の手段もあるという事を教えよう」
「ん? 他に何かあるのか?」
「あぁ、その剣を捨て、この私の妻となるのだ
お前の美貌は素晴らしい、是非我が妻に欲しい物だ」
「…くだらないな、誰が貴様なんぞの妻などになるか。
さっきも言ったが、私は面倒事が嫌いなんだ。
お前の妻になるのは、本当に面倒そうだ」
「くく、そうか、だが貴様に選択肢は無い。
どちらにせよお前は我々に敗北する。
その後、私はお前を強制的に妻とする
ただ怪我をするか否かの違いしか無いのだ
たかだか戦乙女如きが我々から逃げられるはずが無いからな」
「…やれやれ、強制というのは好ましくないな。
やはり一生のつがいは自分で選びたい物だ」
「ふ、弱者に選択肢など無い!」
「…なら、強者なら良いんだな?」
私は偉い巨人の攻撃を直に受けた。
なる程、流石は巨人…かなりの怪力だ…
「ほぅ、私の攻撃を防ぐか、ただの戦乙女と思っていたが、少しは出来るみたいだな」
「……やはり巨人と言うだけあって、かなりの怪力だな」
「このフルングルをただの巨人と同じには考えない方が良いぞ」
「……その様だ、少し甘く見ていたよ」
不思議と力が湧いてくる…何故力が湧いてくるかは分からないが。
今の私ならこの攻撃を振り払うことは出来る!
「何!」
「はぁ!」
「く!」
ち、足を僅かに斬った程度ではやはりダメージは与えられないか。
「なる程、中々の動きだ、だ…何!」
私はすぐに巨人が左手に持つ槍に乗っかり、首筋を攻撃する。
「ぐ!」
「やはり浅いか、背が高いと少々立ち回りにくいな」
「貴様!」
巨人は私に向って槍を突き立てようと仕掛けてくる。
「直線の攻撃というのは避けやすく」
私はその攻撃を空中で体勢を立て直すと同時に回避し、槍に再び乗っかった。
「反撃にも転じやすい物だ」
「なん!」
そして、最初と同じ様に槍を踏み台にして、巨人の首を裂く。
しかし、やはりデカいな、刃が根元まで届かない。
だが、時間稼ぎは十分だろう。
「ば、馬鹿な!」
「悪いがここまでだ、これ以上は少しだけしんどい」
私はすぐに巨人の肩を踏み台にして、他の巨人達の囲いを跳び越える。
「逃げたぞ! 追いかけろ!」
「フルングル様! 大丈夫ですか!?」
「……待て、あいつはもう追うな」
「な!」
「あの速さ…我々では追いつけない」
「た、ただの戦乙女が…ここまでの実力を持っているなんて…」
「あぁ、更にあいつは加減をしていた…まさかこの私に手心を掛けようとは。
奴は本当にアースガルズの戦乙女なのか? 疑問だ…
そこに完全に身を置いているなら、我々巨人に加減はしないと思うが」
「……とにかく戻りましょう、傷の手当てを」
「…もしや、私を倒して称えられることが面倒などと考えているのか?」
「まさか、名誉を欲さない存在など」
「…そうだな」
ふぅ、何とか逃げ切れた感じだな。
しかし流石は巨人だな、あそこまでとは。
命を奪わずに立ち回り続けていれば、私の方が負けていただろう。
あいつの首を取ったりしたら、称えられるかも知れないからな。
やっぱり加減をしないと…しかし、奇妙な感覚に陥ったな。
何故いきなり力が湧いたのだろうか…分からん。
「はぁ、はぁ! え、エリス!」
「あぁ、メアリーか、無事に逃げ果せたようで安心したよ」
「それはこっちのセリフよ! よ、良く生き残ったわね」
「私は面倒事は嫌いだが、死ぬのはごめんだからな。
生き残る算段が無ければ、囮にはならないさ」
「そう…」
「で、もしやと思うが…神々には伝えてないよな?」
「大丈夫よ、あなたの事だしそんな事したら怒られそうだもの」
「そうか、理解してくれて助かるよ」
何とか巨人領から生き残る事が出来たな。
これだから死地というのは苦手だ。




