激戦前の息抜き
こちらは僅か4名、相手は何千、いや、何万の大隊だ。
このようなまるで集団自殺に向うような奇襲作戦。
私は絶対に嫌だ、だが、オーディーン様の命令は絶対。
更にはニールまで参加というあり得ない戦い。
「先輩」
「な、何だニール?」
「折角のご飯なんですから、楽しそうに食べてくださいよ」
「あ、あぁ」
私達2人は一応、祝勝会としてバルハラの軽食屋で食事を取っていた。
サンドイッチやおにぎりとまさに軽食という感じだ。
約束したからな、当然果たさねばならない。
だが、どうもこの後の奇襲作戦が気になって食事を楽しめない。
そんな私をよそにニールは楽しそうに食事を取っている。
美味しい美味しいと言い、ニコニコと笑いながら食事をするニール。
ニールにもあの奇襲作戦の話は行っているはずなのに、よく元気に振る舞えるな。
私はこの後の奇襲作戦が嫌でたまらないから、食事も楽しんで取れないというのに。
「先輩の私服、初めて見ました!」
「む?」
あぁ、そうか、ニールの前で私は私服を見せたことは無いな、
学園では常に制服、前もバルキリーの鎧を着ていたからな。
「そうか、初めてだったか」
「はい、何というか…ハッキリ言うと地味ですね、先輩らしいです」
「そうか?」
私の服は真っ白い白いシャツにハーフパンツだ。
スカートを履く事なんてまず無い。
スカートは動きにくいからな、やはり動きやすさが重要だ。
子供の頃から変わらぬ服装、6歳という年齢から
ずっと師匠に剣を教えて貰うために、このような服装だ。
だから、この服装が私の当たり前になっている。
「先輩、凄く美人さんなんですから、もっと可愛い服を着た方が良いですよ」
「私はこの服で構わない、服装など何でもよいからな
まぁ、そんな私でも可愛い、可愛くないは分かるぞ
ニール、お前の服はかなり可愛いな」
ニールの服は水色でノースリーブ、腹辺りはフリフリとした可愛い装飾がしてある。
下は水色の短いスカートで、小さい帽子を被っている。
このような服を可愛い服というのだろう。
私の適当な服とは大違いだな。
「えへへ、先輩と初めて外食するのでお洒落してきました」
「弁当は外食にはカウントしないのか?」
「確かに外食ですけど、やっぱりお弁当とは少し違うと思います」
「ほぅ、外で食うから外食なのかと私はずっと思っていたが
案外違うのだな、私には分からなかった」
「先輩、意外と世間に疎いところがありますよね
確かケーキを食べたこととか無いんですよね?」
「あぁ、そんな物は食べたことが無いな」
「じゃあ、店員さん!」
ニールが店員を呼び、何かを話した後。
私達の机の上に小さくて白くて、イチゴが乗っている
お菓子のような物が運ばれてきた。
「…これは?」
「はい、これがケーキです、ケーキの中でもショートケーキというケーキです」
「け、ケーキ…これがケーキか、よく話には聞いたが、実物は初めて見た」
「見たこともなかったんですね」
「あぁ、だが、聞いた話ではこう、丸くて大きくて、イチゴが乗っていると」
「あ、それはホールケーキです、沢山の人と別けて食べるときにはそれですね
誕生日とか、そういう家族で何かを祝うときに食べます」
「ふむ、誕生日か…誕生日にこんな物がでた事は無かったな」
「じゃあ、先輩の家が豪華な料理とかで祝ってたんですか?」
「いや、いつも通りの食事だ、母の誕生日の時には
奮発した料理を出す事はあるがな」
「先輩、料理上手ですからね! あのお弁当、凄く美味しかったです!」
「病弱な母の代わりに、よく料理をしてたからな、自然と料理も出来るようになる。
そう言えば、私の誕生日の時、母はいつも台所に立っていたな。
動くのもキツいのに、何故あんな事をしていたのだろうか」
「それはきっと、いえ、間違いなく先輩の誕生日を祝うためですよ
きっと、いっつも助けて貰ってる先輩のために先輩の誕生日の日は
自分が料理を作って、祝いたいと思ってたんだと思います」
「……そうか、誕生日を祝い事だと思ったことは、私は一度も無いのだがな」
誕生日など、ただ自分の年齢が1つ上がるだけだろう。
全く祝い事とは思えないな、年齢が増えることの何処に祝うことがあるのか。
「やっぱり先輩のお母さんは、先輩のこと大事にしてるんですね
先輩がお母さんを大事にするのと同じ、いや、きっとそれ以上に」
「そうだな…」
「あ、じゃあ、バルキリーになってからは誕生日のお料理を作って貰ったんですか?」
「あ、い、いや、やはり病弱の母だ、あまり台所には立てない
だが、母の誕生日にはとびっきりのごちそうを用意したぞ。
バルキリーになって、金も沢山手に入る様になったから奮発したんだ」
「わぁ! 先輩の奮発したお料理! きっと凄く美味しいんだろうなぁ!」
……やはり言えない、母はもうこの世に居ないなんて事、言えるわけも無い。
それも、この様な楽しい席で言えるはずが無い。
「でも、ケーキは食べなかったんですね」
「あ、あぁ、興味も無かったからな」
「お母さんのお誕生日には?」
「ケーキは甘いと聞いた、甘い物は体によくないからな」
「あ、確かにそうですね、食べ過ぎると太っちゃいますし」
「あぁ、だから、今日は初めてケーキを食べる」
「うふふ、きっとほっぺたが落ちるくらいに美味しいですよ」
…よし、人生初のケーキだ、ニールや同期達の話から考えて
ケーキはかなり甘いという、甘い物は食べることが無いからな。
初めての挑戦というのは何重もの意味を持っている。
よし…食べるぞ。
「あ、エリス」
「ん? め、メアリー?」
私がケーキに手を付けようとすると、メアリーがこの店にやって来た。
メアリーの服装は白色のワンピースに花の模様があり
上に肌色のコートを軽く羽織っている。
「へぇ、あなたもここに来るのね」
「いや、私は今日、初めてここに来た」
「ふーん、で、ニールちゃんと一緒ね」
「あ、はい、えっと、あの時はどうもありがとうございました!」
「いえいえ、負傷したバルキリーを助けるのは当然よ
それに、その負傷したバルキリーがエリスなら余計にね」
「え? メアリー先輩とエリス先輩、仲が良いんですか?」
「いいや」
「まぁ、そうね、ただこれから仲良くしたいと思ってるわ
学園にいる間はろくに会話も出来なかったからね、あ、相席良いかしら?」
「あ、それはエリス先輩に」
「…まぁ、構わないぞ」
「ありがとうね」
そう言うと、メアリーは私の隣の席に座る。
まぁ、後輩でありニールの隣よりは、同期である私の隣に座る方が自然だが
正直、隣にニール以外の誰かが座るというのは慣れないな、今回が初めてだ。
「で、何? 今からケーキを食べようとしてるの?」
「はい、エリス先輩、ケーキを食べたこと無いらしいので」
「え!? 無いの!?」
「あぁ、だから、これから食べる」
「へぇ、じゃあ、どんな反応をするか楽しみね」
何故か注目されている…うーむ、何だかやりづらいが食べるか。
「あ-」
「お、行くのね!」
「…む…んん!」
こ、これが甘い! まるで口の中がとろけるような優しさ!
そして、このふわふわとした食感が優しさを倍増させる!
イチゴの程よい酸味も、この甘さをより引き立てる!
ふわふわとした食感にこの優しい味。
これが甘い! これがケーキか! 他のバルキリーが美味しいというのもうなずける!
「どうですか!? 美味しいですよね!」
「どう? 美味しいでしょ、ケーキ」
「あ、あぁ、とても美味しいぞ」
「あら? 表情が殆ど変わらないわね、あまり美味しくなかった?」
「いえ、これは美味しかったんだと思いますよ」
「え? 表情変わってないのに?」
「私は何となく分かるんです、そうですよね? 先輩」
「あぁ、とても美味しかったぞ、ケーキ、甘いというのは優しさなのだな」
「ん、んー? まぁ、そうかも知れないけど…甘いを優しいと感じる?」
「違うのか?」
「多分似てると思いますよ、優しいと甘いは、ほら、よく優しい人を甘いと言いますし」
「まぁ、言うけど…ちょっと違うような気もするわ」
「ふむ、違うのか」
「何というか、私達の感覚では甘いは甘いだから」
「そうなのか?」
「そうですね、甘いは甘いですかね、それ以外に考えることはあまりありません」
「あれかしら、甘いが当たり前と感じてるから、特に気に考えもしないのかしらね
でも、エリスは今日、初めてケーキを食べたわけだから、感想が優しいとなったのかも」
「ふーむ、難しいな、甘い」
「そうね」
甘いが当たり前なのか、甘いを食べたことが無いから私はあんな事を考えたのか。
やはり新しい事は表現が難しいと言う事がよく分かった。
「じゃあ、あれね、エリスが初めてケーキを食べたわけだし
ここからは女子トークとしゃれ込みましょうか、3人も居るし」
「はい! そうですね!」
「じょ、女子トーク? 女同士で話す事だろう? 何故そんな名称が」
「まぁまぁ、ほら、やりましょう?」
「ん? ただの会話とは違うのか?」
「まぁ、そうね」
ただの会話以外の会話などあるのか!? 私が分からないことが多すぎるぞ。




