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第一話 地球人勇者になる その5

  返答はなく、大量の魔物がまるで砂糖菓子を見つけて群がるアリの大群みたいに、大股で近づいてきた。


「忠告はしました。もう容赦はしない」


  ボクは取り巻きの魔物に隠れて姿の見えない四天王の元に|マッハブーツの能力を解放し()()()()()()()()

  醜悪で、悪臭を放つモンスターの隙間をくぐり抜けると……見つけた。

  ボクは見当違いの方を見ている四天王の後頭部に銃口を押し付ける。


 中央にいた四天王は可愛らしいフランス人形のような外見をしている。

  けれど全身は星の光を吸い尽くすかのように真っ黒だ。


「ボクは退いて下さいと言った筈です」

「ヒトの子供がわたくしに指図しないでくれませんこと!」


  アイドルのように可愛い声だけど、すごい上から目線。


  四天王はドレスから沢山の触手を取り出した。

 一本一本に大きな口があり、肉を易々と引きちぎれそうな大きな牙がびっしり生えている。

  少女のような外見とは裏腹に、体内にとんでもない化け物を飼っているみたい。


「けど、自分の立場がわかってない」


  ボクはトリガーを無造作に引いた。

 触手が動く前に、弾丸は四天王の後頭部に潜り込み内部で炸裂。

  頭を失った本体が斃れた事で、その触手(ペット)達も糸が切れたかのように力尽きていく。


 周りの魔物達は何もせずに逃げ帰っていった。


  ゼムリル王国に帰っても出迎えはなかった。

 むしろ、最初より距離をとってボクの事を怯えた瞳で見つめてくる。


  視線を感じてそちらを見ると、そそくさと家の影へ消えていく。


「ハァ〜〜」

 ボクはわざとらしく大きな溜息を吐いた。


  正直な話、この世界のことなんてどうでもいいや。と思ってしまう自分がいる。


  三つの種族の代表者がいる城に戻っても、誰一人から労いの言葉さえない。


  分かっていても、心が強い力で締め付けられるようだった。


  ボクはその痛みを顔に出さずに、次はどうするか尋ねる。

  四天王を三体倒しても、彼等は戦おうとは提案しない。

 むしろ四天王を倒した事で、その主が怒り狂って、ここを襲うのではと危惧していた。


  なんて情けない人達だろう。


  きっと表情にも現れたに違いない。だって自分の顔面の筋肉が動いたのに気づいたからだ。慌てて下を向いて隠す。


 ……バレてないよな?


  どうやら問題ないみたいので、ボクは改めて自分の考えを口に出した。


「貴方達はここに土竜のように篭っていてください。ボク一人で冥王を倒しに行きます」


 ボクが背を向けても、誰も何も言ってこない。

  只々槍の穂先のような視線を背中に感じるだけだった。


  ボクはたった一人で北の山脈に向かった。


  そこで待ち構えていた地上に這いつくばる魔物を飛び越え、空を飛んで邪魔する奴は撃ち落とす。

 噴煙一色に染まった空の下、ボクはそこで最後の四天王を退け、火口の中のマグマで出来た玉座に座った自らも炎を纏う冥王と対峙した。


 流石は冥王(ラスボス)と言ったところか。


  四天王とは一味も二味も違う。

  絶対守護の服を着ていても、命を落とすんじゃないかという場面は何度もあった。


 それでも、ボクの方が一枚上手だったみたい。

  放った弾丸が冥王の弱点――聞いてもいないのに何故か自分から教えてくれた――を撃ち貫く。


「覚えておけ勇者! 我は、我はまた必ず蘇るぞぉおおぉぉぉぉ!」


  唯一の急所を貫かれた冥王は、そんな捨て台詞を残して、煮えたぎる赤いマグマに呑み込まれていった。


「……戻ってこなくていいよ」

 

 ブレイブパワーを使い果たして鉛のように重くなった身体を引きずるようにして城に帰った。

  冥王を倒しても、三つの種族のリアクションはいつも通り……ではなかった。

  ヒューマン、エルフ、ドワーフ、老若男女問わずボクを笑顔で出迎えてきたのだ。

 

 これには面食らった。


  用意されていたのは、なけなしの食材で作ったであろう豪華な食事。

  ボクはそこで初めて、この世界に来てからまともな食事にありついたのだ。

  美味しくって嬉しくて、ボクは何も警戒せずに食べ続け、初めてワインも飲んだ。

  お腹いっぱいの心地よい苦しさの中で幸せな気分のまま。

  ボクは疲労と満腹と初めて摂取したアルコールで、深い深い眠りにつく。


  ()()()()()()()()()()()


 気づくと、ボクは知らないベッドで寝かされていた。

 藁のベッドの他には何も見当たらない。

  鎧戸を開けた窓には厚いガラスがはめ込まれ、一ミリも動こうとしない。

 その窓から見えるのは、雪に覆われた鋭い切っ先のような山頂。

  どうやら山の上の建物にいるようだ。

  部屋を出ようとして、天井にあるものに目を奪われた。

 蝋燭の照明が釣り下がっているのだが、今にも消えそうなほど弱々しい。

  更に長い間燃えていたのか蝋燭本体はほぼ残っていない。


  ここはどこ?


 王国であてがわれた自分の部屋ではないし、窓から見えた山並みはとても日本とは思えない。

 部屋を出ると、黒い石で作られた階段を見つけて降りる。

  廊下は冷んやりとした空気に包まれていて、同じく黒い石の壁を手で触ると氷のように冷たい。

  ボクがいたのは最上階のようで、下へ続く階段しかない。

  降りていくと、大きな浴場が見えてくる。

 一度に十人以上が入れそうで、まるで銭湯みたいな広さだ。

 お湯は張ってないが、別にお風呂に入る気は無いので、階段で更に下へ。

  最下層はリビングとキッチン。

  リビングには小さな黒い石のテーブルと四つの椅子。

 奥は台所になっており、その隣には沢山の食べ物が貯蔵された保存庫がある。

  流しには蛇口らしきものは見当たらない。どこかの井戸から水を汲んでこないといけなそうだ。


 とりあえず喉が渇いた。吸い込んだ空気も貼りつくくらいだ。

  井戸は、外にあるのだろうか?


  取り敢えずキッチンを後にして、一際大きな扉へ向かう。


 両開きの扉は人二人分は通れそうだ。


  隙間から微かな風を感じる。ここが玄関かな?

  ボクは開けようとドアノブを動かすが、開かない。

 鍵でも閉めてあるのかと思ったが、外側から鍵が掛けてあるなんてあり得ない。


  これじゃ、まるで閉じ込められてるみたいじゃないか。


  そんな最悪の考えが頭によぎったボクが、唾を飲み込むと、初めて首の違和感に気づく。


  何だ? 何か巻きついているぞ。


  蛇では無い。柔らかくもなく、金属のような硬さだからだ。


 首輪? まるで冥王との戦いで見た()()と同じもの?

  何故ボクの首に?


  手で何度引っ張っても外れる気配はない。


  取り敢えず首輪を外す手段を見つけるのと、今の状況を理解するためにボクは建物中を駆けずり回った。

  どの窓もガッチリと閉じられていて開く気配すらない。

  いや開ける機能がもともと無いみたいだ。

  勿論、首輪を外す鍵のような者も見つからなかった。

 寒い廊下を走り回って汗だくになった頃、一通の手紙を自分が寝ていた部屋の床で見つける。

  どうやら机の上に置いてあったのが落ちたようだ。

  それを手にとって読む。

  この世界の言葉は身体を作り変えられた時に理解できるようになっていた。


  だから文字も同じように読んで理解することができる。


  読んでいくうちに、火山の噴火のような怒りと、土砂降りの雨のような悲しみが同時に襲ってきて、全身が地震のように小刻みに震えるのを止められない。


 手紙の内容はこうだ。


  突然この世界にやって来たボクに、この世界の人々は恐れていた。

  更に自分達が手も足も出せなかった四天王と冥王まで倒してしまった事で、恐れが彼らをある行動に駆り立てたようだ。

 彼らは冥王を倒したボクを油断させて眠らせると、この首輪を付けた。


  首輪はボクのブレイブパワーを封じ込める役割があるらしい。


 ガントブレイドで首輪を破壊しようとしたら、金と銀のブレスレットが醜く錆びついている。


  もちろん、銃に姿を変える事は出来なかった。


  フライングマントもマッハブーツも使えず、窓をゴーリキーリングで叩き割ろうとしても、力は発動せず、唯手を痛めただけ。


  手紙にはこう続いていた。


  『冥王を倒し、この世界を救ってくれた事には感謝する。 だが、君の力は我々にとって脅威以外のなにものでもない』


  何だよこれ!


  ボクは世界を救ったのに、助けた人達によって、幽閉されてしまったのだ。

  込み上げてくるのは怒り。


  全部壊してやろうと思った。この世界の人間を残らず全て。


 ボクは何度も扉を殴り、窓に体当たりをし続けた。それでも結果は変わらない。

  外に出ることなどできず全身の痛みに顔をしかめた。

 何年もここに閉じ込められているうちに、復讐してやろうという考えは霧の如く霧散した。


  何もしたくなくなったんだ。


  フライングマントを脱ぎ、マッハブーツを蹴り捨て、ゴーリキーリングを指から外して窓に投げつけてやった。


 絶対守護の服も脱ごうかと思ったが、思い留まる。


  服さえ着なくなったらボクはもう人間を辞めたも同然だ。

  そんなのは惨めすぎる。


  何もしない日々は続く。食事も、入浴も、生理現象さえもだ。


  ありがたい事に飲まず食わずでも死なない身体だったが、それすらも拷問のように感じる日々。

 そしてどれぐらい時が経ったのだろう。


  氷のように固まったボク、いやボクの心に温かな春の日差しのような()()()がやって来たのは。


「初めまして私の名前はリィべ。私の事は()()()()()って呼んでね。ユーちゃん」

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