表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/32

第一話 地球人 勇者になる その4

 ボクが倒した怪物は冥王に仕える四天王の一人だったらしい。


  名前は……忘れた。


  生き残った人に話を聞くと、ここから北のスネークバック山脈にある山のひとつが突然噴火し、その火口から現れたらしい。

 冥王はこの世界にいる全ての人に向けて宣戦布告。

  同時に四天王の三体が軍勢を率いて侵攻。

  大陸の東にあるドワーフの王国クロドスと、西のエルフが住む深い森アフロディは同時に征服された。

 中央に位置するゼムリル王国も攻撃されたが、国王自ら軍を率いてこれを迎え撃ち撃退に成功したそうだ。

 しかし代償も大きかった。国王を始め、将校は殆ど殉職し、兵士もまた大多数が命を落とす。

  生き残ったドワーフやエルフはゼムリル王国に避難し、三つの種族の力を合わせ王国を要塞化して立て籠もるが、再度の攻撃で易々と突破されてしまった時に、ボクはやって来たようだ。

 これからどうするか尋ねると、ゼムリル王国の赤毛の姫も、クロドス王国の身長二メートルを超える王子も、神樹アフロディに仕えるショートカットのエルフの長も口を揃えてこう答えた。


「「「このまま、王国に立て籠もる」」」


 ボクは耳を疑った。

  どんなゲームやアニメや物語でも、一人ぐらいは戦おうと唱える人物がいるものだ。


 けど、この世界の人々はたった数日の間に住んでるところを奪われ、大切な人の死を間近で見たことで、完全に戦意という矛を砕かれてしまったようだ。

 それと、みんながボクを見る目には共通した感情が見える。 


 あの最初に遭遇した怪物を見る時と同じ目をしていた。

  だからボクが口を開くたびにみんながビクリと大きく身体を震わせる。

 

あの屈強なドワーフまでもが、ハムスターのように怯えているのだ。

 

 失礼な話だけど滑稽な姿。とても冥王に勝てるとは思えなかった。

  

 冥王と戦おうというのはボク一人で、周りは嵐が過ぎ去るのを待とうとしている。

  ただの嵐ならそれで良いかもしれない。

   けれど、世界を覆う嵐は明確な意思を持っている。


  この世界の人を根絶やしにようとしているのだ。

  そして蘇らせて自分の兵隊としようとしている。それを伝えても彼等はセミの抜け殻のように動こうとはしない。


   膠着状態に陥って固まった会議の雰囲気を壊したのは、扉をぶち破る勢いで入って来た伝令だった。


「東と西から魔物の大群が迫っています!」


  伝令はそう言って崩れ落ちた。

 会議室はざわめく。二方向からの同時侵攻。


 それを聞いた三つの種族は同じ表情をしている。敗北という未来しか考えられないのだろう。

 エルフの長はこれから訪れる現実から目をそらすように首を振り、ドワーフの王子は目を瞑ったまま腕を組む。

  寝ているわけではない。その証拠に足を小刻みに揺すっていた。

 ヒューマンの姫はというと、両手を組んでそこに額を乗せて何かを呟いていた。


  小さくて聞き取りづらいが、どうやら神に祈りを捧げてるみたい。

  知らないんだろうな。神がやって来たらこの世界がどうなるかなんて。

  でもそれを伝える気は無い。聞いたらこの場にいる全員がどうなるか容易に想像できてしまう。


  ボクはこの濁った池に囚われた人を掬い上げるために口を開く。


「ボクが何とかします」


 それを聞いた三つの種族の代表は何を言ってるんだ? と口に出さなくても表情で問いかけてきたのが強く印象に残っていた。




 今ボクは空を飛んでいる。フライングマントを発動させて、ゼムリル王国の上空に浮かんでいるのだ。


 さて、どちらから叩こう。

 

 西と東からは、ほぼ同じ速度で王国に迫って来ているらしい。


 どちらから行っても同じ……。


  考えていたボクの緑の髪がたなびく。風が吹いて来たのだ。

  それは東から西へ。

  世界が侵略されているとは思えないほどの爽やかな風だった。


 そうだ。この風に乗って行こう。そうすれば速度も上がるはず。


  ボクは西へ向かうことにした。

  ゼムリル王国から数分の飛行で、エルフの森を征服した四天王の軍勢を見つける。

 地面を埋め尽くすほどの醜悪な魔物達の中央にひときわ大きな怪物がいた。


  それはヘドロのような汚泥で形作られた蛸だ。


 泥色の蛸は八本の足を器用に使いながら、器用に陸地を進んでいる。

  その大きさは二十メートルくらいだろうか。周りの魔物がとても小さく見えた。


  こいつらが来たらゼムリル王国は津波にさらわれるように消えてしまうだろうな。

  早く倒してしまおう。


  ボクは少し移動して蛸の怪物の真上で止まり、両手にガントブレイドを構える。

  金と銀の銃は独りでにボルトを後退させて発射準備を完了してくれた。


 便利な機能。


  二丁の銃口を蛸の胴体――頭だっけ?――に向けてトリガーを引き絞る。

  銃弾が発射され、マズルフラッシュが煌めく。


 どう見ても、大人より小さいボクが片手で銃を撃ったら反動で吹っ飛ぶ。

  けれど軽い反動を感じるだけ。身体は確実に変化しているんだなと実感する。


  ボクは引き金を何度も引きつづける。

 

一番最初に倒した四天王には一発しか撃ち込まなかったけど、今眼下にいる蛸はその何倍もの大きさだ。


  恐らく一撃で仕留めきれない。


  何度も小さな爆発が花火のように空に瞬く。下から見上げたら星が瞬きしているように見えたかもしれない。


  丁度二十発撃ったところで一際大きな爆発が轟き、大地が閃光と爆風に覆われて何も見えなくなる。

  蛸の姿を確認しようと射撃を中断し、煙が晴れるのを待った。

  視界がクリアになると同時に敵の姿も消えていることに気づく。


  逃げた? いやどうやら違うらしい。つい先程まで魔物の軍勢が歩いていた大地はまるで月のように多数のクレーターができていた。


 中でも中央に出来たクレーターはとても大きい。

  それを見て確信。蛸、つまり四天王の二人目を撃破。


  何故だろう。ゲームと違って、敵のボスを倒しても全然嬉しくなかった。


  二体目の四天王を倒したボクは、そのままゼムリル王国を飛び越えて東へ。

  王国を過ぎて一時間もしないうちに見つけた。クロドス王国を滅ぼした三体目の四天王とその軍勢。

  ボクはその集団の先頭に降り立つ。

 魔物達は足を止める。

  いきなり空から人間が降って来てとても驚いているようだ。


「ボクは勇者ユート。西にいた四天王は倒しました。このまま進むなら全員倒します」


  何でこんな行動をしたのかというと、つまらなかったからだ。

  四天王といっても、今まで戦った二人はボクから見てザコ以下だった。

  ゲームで言えば、ステータスMAXで最強装備の主人公が最初に遭遇するモンスターと戦っているようなものだ。

  それがどれぐらい退屈な事か、分かる人には分かると思う。


「このまま引き返すならボクは追いかけません」


 だから、恐れをなして逃げてくれればいいのに、そう思って話しかけてみた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ