第一話 地球人勇者になる その2
「大丈夫だ。勇努にしか使えない冥王を倒せる武器がある。その為に君の身体も作り変えた」
「つ、作り変えた?」
神様何言ってるんだ。
「ああ、身体に異変はないか?」
ボクが失明した事を言ってるの?
「目が見えないです。けれどあなたの姿だけは映っています」
「それだ。作り変えた影響だろう。だがそれも一時的な事だ。それのこの空間には明かりがないから真っ暗なのだ気に病むことはない。これを見たまえ」
自称神は自分の足元から、姿見のようなものを取り出す。
そこに一人の少年が写っていた。
歳はボクより少し下だろうか。
短く切り揃えた緑の髪にエメラルドの瞳、肌は白く華奢な身体つきだが不思議と不健康そうには感じない。
可愛い。
素直な感想が口から出そうになった。何言おうとしてるんだ同じ男だぞ。
服は青い半袖のシャツに白い半ズボン。その上に茶色のマントを羽織り、白い靴を履いている。
「誰ですか?」
「君だ」
「キミっていうんですか?」
「何言ってるんだ勇努、君の新しい姿だよ」
「えぇっ!」
目を見開いてよく見ると、姿見の世界の少年も同じように目を見開いている。
自分の顔を触ると向こうも触り、指を指したら向こうは左手で同じ所を指してきた。
「「君はボクなの」」
ボクが喋ると、鏡の世界の少年の口が動く。どうやら間違いなく僕の身体は変えられてしまったようだ。
そういえば、この顔どこかで見たことあるような……?
「気に入ってもらえたかな。勇努の望む身体にしたつもりなのだが」
「ボクが望んだ身体……?」
「そうだ。『こんな姿ならみんなから好かれていただろうな』と君が心に思う姿を再現したのだ」
「そんなことまで分かるんですか?」
「自分が作り出した世界のことならなんでも分かる。何故なら俺は神だからだ」
段々と説得力が出てきた。本当に夢じゃなくてボクの目の前にいるのは神様のようだ。
「さて、今着ている服の説明をしておこう」
「服の説明ですか?」
自分の服を見てみるが、肌触りが良いくらいで別段変わったところは見受けられない。
「勇努が着ている服は《絶対守護の服》といって、どんな攻撃も通さない。例え炎に焼かれようが氷漬けにされようがだ」
改めて服を見ても、そんなすごい機能が付いているようには到底思えなかった。
「それと、羽織っているフライングマントは空を飛ぶことができ、その靴マッハブーツは短距離だが瞬間移動が可能だ」
「この指輪にも力があるのですか」
ボクは両手の人差し指に嵌められた拳の形の指輪を見せる。
「それはゴーリキーリング。勇努の力を何十倍にも高めてくれるぞ。それこそ家だって片手で持ち上げられるだろう」
空を飛べるマントに瞬間移動できる靴。凄い力持ちになれる指輪まであって、極め付けはどんな攻撃も通さない無敵になる服。
これはもはや……。
「チートですね」
「いかさまではないぞ。神から選ばれた勇者なのだから当然の力だ。むしろゲームやアニメの勇者は弱すぎると思うのだが?」
それは、強すぎたらつまらないからで……と言おうとしたけど、これは現実。ゲームみたいに死んでもやり直しがきく訳ではない。
じゃあこれで良いのか、と納得してしまう自分がいた。
「おっと、一番大事なものを渡すのを忘れていたな」
いつのまにか、神の両手に金と銀のブレスレットが姿を見せていた。
「これを両手に付けてみてくれ」
「これを?」
ボクはブレスレットを受け取りまず左腕に通す。
かなり大きくてサイズが合わないなと思ったら、それを読まれたかのようにブレスレットが小さくなりジャストフィットする。
右腕に通すと同じようにぴったりと収まった。
「ん、あれ……」
一度嵌ったブレスレットは驚く事に接着剤で固定されたかのように取れなくなってしまった。
「あの、これ動かないんですけど」
「それはもう取れない」
「えっ! 一生ですか?」
神は太い首を縦に動かす。
「それは冥王に唯一対抗できる武器だからな。勇努以外の人間には使えないようにした。名前は《ガントブレイド》という」
「一生取れない……」
神の口から出たその言葉は、まるで至近距離で鐘を叩かれたように頭の中で反響している。
そんなボクに、神は武器の説明を続けていた。
「二つのブレスレットは形を変えることができ、勇努が想像した武器に形を変えることができるのだ」
「ボクが想像した武器に変わる」
それを聞いたら、少しパニックが治まってくる。
自分が想像した武器になるなんて、とても心ときめく言葉だったからだ。
「何にでもなるんですか!」
ボクは鼻息荒く問い詰める。
「うむ。小さいものから大きなものまで自由に姿を変えることができるぞ」
「じゃ、じゃあ」
頭の中で思い浮かべたのはボクの大好きなヒーローの使ってた武器だ。
すると、ブレスレットをつけている所がむず痒くなる。
見ると、金と銀のブレスレットが、まるでスライムのように動きボクの腕から手に移動していく。
「うひゃっ」
金属が液体となって皮膚の上を移動するたびに、くすぐったくて思わず変な声が出てしまった。
その間もスライムと化したブレスレットは形を変え、ボクの両手に思い描いた形通りに収まった。
それは銃だ。アメリカを舞台にしたギャラクティカマンのスピンオフ《ギャラクティガンマン》が愛用するオートマチックの二丁拳銃ギャラクシーガンそっくりだ。
小さなボクの手にもピッタリな大きさで、グリップも掌に吸い付くみたいに収まった。
先細りのバレルに、後端にあるライフルのようなボルト。全長は長くてスリムな双子の銃だ。
左手は金、右手は銀で原作より派手だけど、これはこれでファンタジーの銃という感じがしてカッコいい。
「これを使うにはある呪文があってな……」
え、それを口に出して唱えるなんて、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
「その嬉しそうな顔を見る限り、ガントブレイドを、世界を救う相棒として認めてもらえたようだな」
「はい……じゃなくて、ボクが世界を救うことなんてできるのですか?」
危ない危ない。これじゃおもちゃをもらって機嫌が良くなった子供と同じだよ。
「何故だ。冥王を律する力を持っているのに、なぜ躊躇う」
「だって、ボクみたいな一般人に世界を救うなんて、怖くてできっこないですよ!」
「怖がる必要はない。神器はお前を護り、すべての敵を滅する力だ」
「それはそうかもしれないけど……」
神の方が正論すぎて、だんだんと言い返せなくなってしまう。
そしてトドメの一撃がボクの胸に突き刺さる。
「いいか。勇努が冥王を倒さなければ世界は征服され、いずれ君の住む世界にも侵攻するだろう」
「日本にも来る……」
まるで怪獣映画のように、高層ビルが破壊され、逃げ惑う人々が炎に呑まれ、その中には母さんの姿が……。
力が抜け落ちる身体をなんとか膝で支える。
「最悪の想像をしてしまったようだな。顔が真っ青だぞ」
「……ボクが倒さないと、冥王は地球に行くんですね」
「そうだ。逆らう者を殺し、生き残ったものは奴隷にし、殺したものも蘇らせて奴隷にする」
「冥王が来たら、生き延びても未来はない?」
「あるのは、冥王の駒として生きていく日々だけだ」
「そんな奴を何故のさばらせておくんですか? 貴方は神なんでしょ。貴方が冥王を倒しに行けばいいんじゃないですか」
「それは無理だ。俺は世界を作った神、降り立った途端、その世界は力に耐え切れずに消滅してしまう。それに神が直接世界を救うゲームなんてあったか?」
ボクには思い浮かばない。神が出てきたとしても、よくて手伝うくらいだったと思う。
「じゃあ、ボクがやらないと駄目だと」
「そうだ」
神は、大きな手でボクを立たせた。
「俺は適当に選んだわけではない。君の中にある正義感と神器を扱える力を持っているからこそ選んだのだ」