表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

第五章 後半

 夜中に下校するというのは、なかなか出来ない経験だ。

 真っ暗な中、大きな月と満天の星が、眩いほどに輝いている。

 悪くもない気分だ。

「やっほーい! もうすぐで――、黙人の家が見えてきまーす!」

 こいつらがいなければ。

「持ち家だっけ? 羨ましいわぁ。あたしなんて、保健室に寝泊まりしているのにぃ」

 あそこに住んでんのかよ。

「まだつかないの」

 一番小さいとも先輩が、疲れてしまったようだ。晴先輩の裾をぐいぐい引っ張っている。

「おんぶ……してほしい訳じゃない」

 両手で、しっかり晴先輩の学ランの裾を握っている。しかし彼も、大きなバッグを斜め掛けして、かなり重たそうだ。

「可愛く言っても駄目だよー」

 そういってしゃがみ、背中に流先輩がちょこんと乗る。

 結局か。

 大学生のお兄ちゃんと小学生の妹に見える。澄子と違って、動きに見た目がそぐうのがいい。

「あの家だよ!」

 澄子は、元気に走って行ってしまった。


「ただいまー、部活の仲間連れてきた―」

 玄関の扉を開け、手探りで電気のスイッチを入れる。その後から、澄子が飛び込んでくる。

「お邪魔しまーす!」

「お邪魔しないでくださーい」

 つい、心の声が出てしまった。

 とりあえず居間にみんなを通そうと、木の戸を引く。

 ソファに腰掛ける、セーラー服の女の子。みうちゃんだ。中学生のまま、見た目が変わっていない。おしとやかで、可愛い。

『お帰り、黙人君』

「ただいま! 今日も一日、みうちゃんに会いたくて仕方なかったよお」

 ぎゅーと抱きしめる。いい匂いがする。

 みうちゃんに夢中になっていて、すっかりみんなの事を忘れていた。皆が、居心地が悪そうにしている。

「ああそうだ、みんなを紹介するね。部長の澄子と、先輩の晴先輩にとも先輩。こちらが顧問の、湫先生だよ」

 みうちゃんには、どんな部活かは言わないでいよう。心配をかけてしまう。

「それでこの子が、みうちゃん。俺の彼女なんだ」

 誰かに見せた事なかったから、なんだか気恥ずかしい。

 「やあ、よろしく」「はじめましてぇ」「よろしくね」「よろしく」と、皆優しそうにしている。これなら、みうちゃんとも仲良くしてくれそうだ。

 パンパン! 湫先生が手を叩く。

「それじゃあ、パーティーの準備を始めましょうか」

「よーし、それじゃあ、僕がおいしい料理をご馳走しちゃうね!」

 張り切る晴先輩は、エプロンをつけ始める。

「先輩が作るんですか」

 以外という程でもないが、彼がやらなくとも、ここには女子が沢山いるのに。

「うん。こう見えても、料理部の部長だからね」

 兼部してるのか。いや、『殺人部』は部活動のうちに入らないのか。

「楽しみだなぁ。晴ちゃんの料理、すっごく美味しいんだ。ほっぺが蕩けちゃうよぉ」

 澄子はほっぺを抑えながら、その料理を思い出すようにもぐもぐした。

「いやあ、そう言ってもらえると、ますますやる気が出ちゃうなあ。――黙人くん、キッチン借りるね」

「ええ、どうぞ」

 許可を取ると晴先輩は、あの大きなバッグを引きずり、キッチンへと入って行った。

 急に、部屋の中が静まった。

「――――それじゃあ、行きますか」

 小声で、澄子が俺らに声をかける。

 行くってどこに、という当然の疑問を投げかける前に、ぞろぞろと移動し始めた。

 そうして、キッチンの戸の前に、縦に並んだ。

「……何してんの、あんたら」

 引き戸を細く開け、全員で中を覗いている。後ろから見ると、間抜けに見える。

「しーっ! 黙人も、見てみて」

 澄子が、後ろ手で手招きする。俺は結局、その開いている真ん中あたりから顔を出してみる。

 ――――息をのんだ。

 とてつもない光景がキッチンに広がっていたのだ――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ