表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

第十四章

 床に叩きつけられ呻く澄子ちゃんに、薬物中毒の少女はとどめを刺す。

 彼女が踏みつけられると、めきゃ、という鈍い音がした。

 何度も、何度も執拗に踏みつけている。もう僕らの負けであることは明らかなのに。

 それでも尚、いつもと変わらない、楽しそうな顔の澄子ちゃん。まだ何も、終わっちゃいないという顔をしている。

「うぅ………、黙人――――」

 澄子ちゃんの口から、彼の名前がこぼれた。今この場で澄子ちゃんは、黙人君に助けを求めている。

 無理だよ、それは……。僕らが、黙人くんに散々迷惑かけたから。怖い思いも、痛い思いもさせてしまった。だから彼は、『殺人部』から去ってしまった。それなのに、助けに来るわけ、無いじゃないか――――。

 教室内は、地獄絵図と化していた。少女は、次々と僕らにとどめを刺していく。そのたびに、「死ね」だの「お前らの所為で……」だのと言いながら。

 黙人くん……

 自分はなんてひどい奴なんだ。そう、今頃になって思う。

 この高校に編入してから、人を、食べ物としか思っていなかった。友達もいない。『殺人部』の皆のことだって、皆が強すぎるから、食べるに食べれないだけだ。時々、美味しそうだなぁとよだれを垂らしたりした。

 こんなんだから、人に気をかけてやれない。

 黙人君は、とても他人思いの子だった。それなのに僕は、彼に優しさをほんの少しもかけてやれなかった。いや、優しさなんてもの、持ち合わせていないのかもしれない。

 人を食べ物としか見れない。これが、どんなに惨い事だろうか。本能で生きている。人間が持っているはずの、感情がない。


 僕は外界と隔絶された、過疎の山村で生まれた。その村で一番い権力を持っている屋敷の、一人息子が僕だった。

 ある時をきっかけに、僕は屋敷の外へ出るのを禁じられた。そのころから食卓に彩りのある野菜は出なくなり、肉料理ばかりとなった。

「母上、お外が静かです」

 その時、気づくべきだったのだ。

 しばらく経ち、剣術の稽古をつけてくれていた父を、見かけなくなっていた。

「母上、父上はどこです?」

 夕食時の会話だ。母上は困った顔で、「どこに行ってしまったんでしょうねぇ」というだけだった。

 次の日の朝、片手を失った母が、最後の朝食を出してくれた。

すべてを知ってしまった。

「晴、村を出なさい。高校に通いなさい」

 その朝食を、泣きながら食べた。母上の味がした。

 それからの事。何年振りかに、屋敷の外へ出た。村には、人っ子一人いなかった。


 僕は故郷の人間を、一人残らず食い尽くした、化け物だ。


 ああ、万事休すな――――

 がらっ!

 開け放たれた扉の向こう、拳を握りしめた、黙人君が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ