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第十三章

 松葉杖をつく音が、深夜の校内に木霊する。

 退部して一週間、長い期間だった。嫌いになったわけでもない彼女らと離れてしまうのは、苦痛だった。けれど、それが彼女らのためだ。俺が関わると、ろくなことにならない。何人もの人が、俺のもとから去って行ってしまったのだ。いや、この世から去って行ってしまった。

 それなのに今日『殺人部』のもとへ来たのは、みうちゃんの言葉のおかげだ。説明しに来たのだ。あの時は、ほとんど辞めるとしか言わずに、飛び出してきてしまった。きちんと説明するべきだと、みうちゃんが言ってくれたんだ。

「ありがとう、みうちゃん」

 スクールバッグに、声をかける。ずっしりとしたバッグを、少しだけ開ける。

「狭くない?」

『大丈夫よ、黙人君』

 今日はあまりにも寂しかったので、みうちゃんも連れてきてしまった。

 みうちゃんは小柄なだから、俺がいつも持ち歩いているスクールバッグにすっぽり収まってしまった。

 学ランにスクールバッグという格好であれば、怪しまれることもない。普段着で歩いていて万一職質でも受けたら、人生が終わる。


 みうちゃんが俺の家の同居人になってすぐ、ある同級生が訪ねてきた。髪が身近く、活発な印象を与える少年。

「よう、黙人!」

「何か用? 太郎」

 目の前の少年は、幼馴染みの親友、太郎だ。この頃色々あった俺に、普段と変わりなく話しかけてくれた、いいやつだった。

「ちょっと上がるぜ」

「は? いや、勝手に入ってくんなって!」

 俺の制止も虚しく、ずかずかと部屋に上がっていく太郎。その間終始無言で、色んな部屋の戸を開け放っていく。そしてとうとう、リビングの戸に手をかけた。

「だめだっ、開けるなぁ!」

 開け放たれた扉の先。ソファに座る、みうちゃんがいた。驚いたように、こちらを振り向く。しかしすぐに「あら、太郎君」と、笑いかけた。俺ら三人は、幼稚園から一緒の幼馴染だった。

「なんだよ、これ」

 一瞬立ち止まったが、すぐにみうちゃんに駆け寄って行く。

「なんで、何でこんな姿に……」

 しばらくみうちゃんを一方的に抱きしめている。みうちゃんが困った顔をしていたので、引きはがそうと近寄った。すると、太郎がキッとこちらを向いた。顔を真っ赤にしていた。

「……おい、黙人。なんで、何でこんなことをした? どうして、こういう事になってしまったんだ」

 責めるような眼でこちらを見てくる。参ったなぁ。

 みうちゃんを匿っているのがばれてしまった。彼女は家に帰らなければならなくなってしまう。いやだなあ。みうちゃんと、離れたくないなぁ。

 そもそもどうしてここにみうちゃんがいるのを知っていたのだろう。確かに最近、みうちゃんとばかりいることが多くなってはいたが……。

 ああ、もしかして。

「悪かった、太郎――お前だけ、仲間外れにして」

 水を差しだす。興奮していた太郎君は、それを覚ますように、一気に飲み干した。

「ぐっ! ……っ、………かはっ」

 散々もんどり打った結果、血を吐いた。動かなくなった。

「君も、今日からうちの居候だ」

 そうして俺は、今日も親友たちと、幸せに暮らしている。


 殺人部に遭いに来たはずの僕らは、校内をうろついていた。

「どこ行っちゃったんだろうね、みんな」

 保健室へ行ったら、鍵がかかっていたのだ。しかし外靴は下駄箱に入ってたため、校内に居るのは確かだ。片っ端から探していくしか方法は無い。

 全ての階を見たが、結局、教室棟には誰もいなかった。

特別棟に居るのだろうか。あっちまで行くのは嫌だなぁ。特別棟は木造でいろんなところが腐ってるから、松葉杖をついた状態では落下しかねない。

「行くしかないか」

 みうちゃんと決めたことだ。好きなことの約束くらい、守れないでどうする。もう俺には、この子たちしかいないんだ。

 何度も腐った床に足を突っ込みながら、一階を歩く。ここにはいないようだ。

二階の階段は、二人分の体重では床が抜けそうだ。なんとか二階にたどり着いた時、振り返ると俺らが通ったところに、新たな穴が開いていた。こりゃ、降りるときどうしよう。

 そんなこんな考えながら歩いていると、耳が微かな音をキャッチした。

 人の声だ。低くて、憎悪に満ちたような声。

「あっちだ」

 奥の教室の扉から、薄らと光が漏れだしている。

 なるべく音をたてないように、ゆっくり忍び寄る。

 こつ、パタ、こつ、パタ。

 扉の前まで来て、隙間から覗く。

 悲鳴をあげそうになった。

 みんなが、殺人部のみんなが、倒れていた。

 その教室の中心。異形ともいえる、少女の姿があった。

 あらぬ方向を見ている眼球、おかしな方に関節を曲げながら。手足や顔や首、あらゆるところから、赤黒い血管が浮き出ている。

「お前らみたいなノがいるカラ……、シネ……、死ネェエエエエ!」

 もう動いていない彼女らを、何度も、何度も執拗に踏みつける。

 戸の隙間から、目を離す。

 助けに行くべきか。

いや、そんな必要ないだろう。俺が行ってなんになる? 人のためになったことなんてあったか? あの人たちの事だ、死んではいないだろう。俺が助けに行ったら、本当に死んでしまうかもしれない。

 俺が存在するだけで、何の因果関係もなく、勝手に不幸にしてしまう。これは、自分ではどうしようもない事なんだ!

 教室に背を向ける。

 かつん、パタ、かつん、パタ。

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