6章 6 中部戦争前編①
「やってくれましたな・・・アシス殿」
俺は今、マドスの屋敷を訪ねている
屋敷の応接間に通され、シーラと二人でマドスと対峙・・・披露宴での余裕のある顔はなく、敵意剥き出しの顔がそこにはあった
「なんの事かな?マドス大臣」
「この期に及んでしらばっくれる必要はありますかな?どうせもう私の言葉など届きはしない」
肩を落とし目線をテーブルに向けながら話すその姿は、少し前のマドスとは比べ物にならないくらい小さく見える
有耶無耶になった披露宴の後、各将軍や大臣達は戦争に向けて本格的に準備を開始した。それに伴い出陣する者達が決定する。メディア領からは俺、フェン、それにイカロスとラトーナの三軍。レグシ領からはラクス、リオンの二軍。メディア領の総大将は俺でレグシ領の総大将はなんとソルトだ
レグシ領の太守としてカラホスがいるが、軍事面まで任せるには難しく、セーラは軍務総監としてガーレーンのソルトに白羽の矢を立てた。ソルトの父も現役を退いたとはいえまだまだ健在で、デニスとの決着が着くまでの間という形でソルトの代わりに太守に返り咲く
こうして戦争の準備を着々と進めるが、今までマドス派なんて言われて頂点に君臨していたマドスは蚊帳の外・・・それは小さくも見えるわな
「フウ・・・披露宴の件ではないのでしたら、本日は何の御用で?今更一つになった国を混ぜっ返す程気力はありませんので、釘を刺しに来たのなら無駄足ですぞ?」
「なーに、最近元気の無いマドス大臣の様子を見に来たのと一つお願いをしようと思って参りました」
「お願い?」
「ええ。我が陣営に政治に明るい者が少なく困っています。ですので、我が陣営にお力添えをして頂ければと思いまして」
「私に?アシス殿の陣営に加われと?」
「まさか!マドス大臣を加えるなど分をわきまえていない事は申しません。マドス大臣のお孫さん・・・彼を我が陣営に加えたいと考えております」
「孫を!?何が狙いだ?」
「言ったでしょ?政治に明るい者が必要だと」
孫と聞いて興奮して立ち上がるマドス。しかし、俺が冷静に返すと少しの間の後、またソファーに腰を落ち着かせる。どんだけ孫ラブなんだ
「わざわざ孫を指名する理由・・・それが知りたい。私を御したいのなら意味はないですぞ?もう何をする気力もない」
「勘違いされてるのでハッキリ申し上げますと、別にマドス大臣への抑止力としてお孫さんを加えたい訳ではありません。理由は二つ・・・一つは先程から申し上げています通りの理由。もう一つは・・・私とシーラ・・・共に彼を知っているから」
「孫を?アシス殿が?」
「マドス大臣は守護者の俺には興味あっても、傭兵時代の俺には興味無い様子で・・・傭兵時代に彼と共に行動した事もありますよ?」
その時、タイミングよく応接間のドアがノックされ、見知った顔が姿を現す。まあ、別に会いたくはなかったが・・・
「入ります。お爺様、お呼びで・・・あっ」
前もってマドスには孫を同席させてくれと頼んでいた。後から来ると言っていたがタイミング良いな。マドスに挨拶をしようとして、俺とシーラの存在に気付き表情を変える
「本当に・・・知り合いのようですな」
「共にガーレーンくんだりまで行った仲ですよ・・・なあ、マクトス」
かなり嫌そうな顔のマクトス・・・そりゃあそうか。前まではギルド職員と傭兵の関係・・・それが、今では一文官と守護者の関係になってるんだからやりにくいだろうな
しかし、マドスの孫がマクトスとは驚いた。なんでも色々な経験をさせる為の一環でギルド職員をやっていたらしい。通りで晩餐会に出てこれたはずだ
「お久しぶりです・・・アシス・・・様。シーラ様も相変わらずお美しい」
俺は途切れながら言うくせに、シーラにはスラスラ出てくるんだな・・・変わってないって言えば変わってないか
「マクトス・・・アシス殿はお前をアシス殿の陣営に迎えたいと仰ってる。私に異論はないが、お前としてはどうなのだ?」
「は・・・え?」
「俺の陣営に政治に明るい者が少なくてな。今いるタルタって男に内務を任せ、マクトス、お前には総務を任せたいと思ってる。俺の陣営の中だけどな」
「アシス殿・・・それは・・・」
「誰の道も閉ざされない方法はこれしか浮かばない。これ以上を望むなら譲るつもりはないがな」
「・・・お心遣い感謝します・・・私は座して待つことにしましょう・・・後はアシス殿にお任せ致します」
「悪いようにはしません。ナキスと約束したのはみんなが笑顔になる国造りですから」
憑き物が取れたように微笑むマドスに俺は微笑み返す。さすがマドス・・・俺の意図を汲んでくれたようだ
「ねえ、シーラ様・・・どういう意味?」
いつの間にかシーラの近くにいるマクトス・・・油断ならねえ・・・
マドスの屋敷を出て、そのままシーラの要望により王城へ向かっている。マクトスは正式に俺の陣営に加わり、今後俺の屋敷に住むこととなった。メイドなは気をつけろと言っとかないと・・・
「マクトスさんは大丈夫なの?悪い人ではないと思うけど・・・」
「軟派な部分をなくせば大丈夫だろ?大臣の資質なんて俺にはわからん」
「委ねられたのに・・・大臣になれなかったら、化けてでるよ?」
「まだまだ生きそうだぞ?マドスは」
生霊も怖いから、セーラに頼んでおこう・・・多少のアホさ加減は目を瞑って総務大臣にしてくれってな
王城に着き、執務室に入るとセーラが書類と睨めっこ・・・その姿はナキスを彷彿とさせる
「よう、神嫁!働いてるか?」
「何よ?邪魔する気なら帰ってちょうだい。もう玉璽を握る手に力が入らないくらい書類に押印してるんだけど・・・誰かさんのせいで!」
「代わりに押してやろうか?」
「それはプロポーズ?」
「神の嫁を奪う訳にはいかんだろ?」
「このっ・・・」
手にしていた玉璽を投げようとするが思いとどまり、睨みつける。俺のせい・・・って言われても・・・確かに神作戦は俺が考えたし、そのせいで軍に入りたがる人が急増したらしい。それにマドスの影響が少なくなり、今まで独断でやってきた事もセーラに回ってくるようになった。いい事じゃないか
「確かにシュミネも雑用ばかりじゃなくて、真っ当な仕事が回って来てるわ。他の大臣達も私に伺いを立てる事が多くなった・・」
「良かったじゃないか」
「良くないわよ!何よ?あの茶番は!守護神?ディア?聞いてて倒れそうになったわよ・・・あんなの子供の考えた寸劇じゃない!」
「えっ?でもみんな信じてくれ・・・」
「た訳ないでしょ?あそこにいる全員・・・何かしらの言い訳が欲しかったのよ。一つになる言い訳が!だから、あんな茶番でも乗ってくれたの!もうギリギリよ・・・ギリッギリ!」
シーラもセーラの言葉に頷いている・・・まさか、そうなのか!?
「信じてたら知りたくなるでしょ?普通・・・それがあれからディアのディの字も出てこないわよ・・・まあ、あの力には私も驚いたけど」
あの力・・・会場内に上から力をかけたり、レンカと俺を吹き飛ばしたアレか・・・
「アレは・・・俺がやってた」
「え?」
「白装束の仮面の正体は知ってるだろ?」
「え、ええ。前にアシスを語って私の護衛に付いた・・・確かボカート・・・」
「ああ。そのボカートは今後シーラの護衛役になるから鍛えてはいるんだが、さすがにあそこまでは出来ない。だから、ボカートが手を上げたり、平伏せって言ったタイミングで俺がやってた」
「・・・レンカと自分への攻撃も?」
「もちろん。レンカには事前に打ち合わせしていた・・・初撃が力加減失敗して強くやり過ぎて後で怒られたが・・・自分への攻撃も力に方向性を持たせてワザと受けてた・・・意外に効くと分かったのは嬉しい発見だよ」
「・・・呆れた。よく気付かれないわね。それともみんな気付いてたの?」
「事前に知らされてない限りは気付くのは相当の手練くらい・・・メディアの将軍でもリオンとフェンくらいだな。大臣なんかじゃ自分が何をされてるかすら分からんよ。・・・ところでシーラ、セーラに用があったんじゃ?」
ネタばらしも大方済んで、本来の目的を思い出す。シーラからセーラに用事・・・シーラだけなら結構頻繁にセーラに会いに行っているみたいだから、俺も含めての用事って事かな?
「うん・・・用事と言うか・・・セーラに知っておいて欲しい事があるの・・・ここではなくナキス王子の部屋で」
「兄様の?確かあなたは以前お兄様の部屋を見たいと・・・その時の事が関係してるの?」
「ええ。全てはナキス王子の部屋で話す」
シーラの表情を見る限り軽い話ではなさそうだ。セーラは頷き、三人でナキスの部屋へと向かった。突然の主の死で部屋は当時のままにされていた。まるで主がいずれ戻ってくるかのように静かに・・・
シーラは部屋に入ると迷うことなく本棚に。そして、何冊か本を取り出すと奥の方から封筒を取り出した。それを無言でセーラに渡し、受け取ったセーラは封筒を確認し、誰も開けてない事を確認すると封を開け中に入った手紙を取り出す
そのままセーラは手紙を読み始め、読み終えた後息を大きく吐き出した
「今更・・・って思う気持ちとモヤモヤが解消されたって気持ち半々ね」
セーラは顔をシーラに向けたまま、手紙を俺に差し出した。俺はそれを受け取ると手紙に目を通す・・・それはナキスからセーラに宛てた手紙
『セーラへ
この手紙はもし僕に何かあった時、セーラの目に止まる事を思って書いている
直接言えれば、この手紙は破棄する予定だし、読んでるって事は僕は死んだかな?
そして、それは志半ばで死んだことを意味する
そして、セーラに全てを委ねることを意味する
すまない、不甲斐ない兄で
この手紙を書いたのは、今現在は話せない内容だから
話せばセーラの心に陰を落とすと考えたから
心して聞いて欲しい
出来れば恨まないで欲しい
我らの母、セーナ母上の話だ
結論から書こう
母上に非はない
母上は命令に従い、当時の近衛隊長と関係を持った
もちろんその命令を出したのは────父上だ
僕が産まれてから父上と母上の間に子が恵まれなかった
周囲は王位継承権を持つ子が一人ではと口々に言う
そのプレッシャーからか次第に焦り始めた父上はこう考えた
母上が悪いと
母上が子を産めない体になったと考えた父上は暴走する
手当り次第に他の女性と関係を持ち始め、母上を蔑ろにし始めた
それでも子に恵まれない時点で父上が自らを疑えば済んだのだが────父上は暴挙に出る
それが母上に他の男性と関係を持たせること
その結果、子が出来なければ、やはり自分は悪くない、悪いのは母上だと立証する為に
しかし、皮肉にもすぐ母上は妊娠する────その子こそセーラ、君だよ
父上は表面上第二子の妊娠に喜び、裏で言い表せない程の憎悪の念を母上と君の父上に向けていた
そして、子が────セーラが産まれた直後に────
父上はその後急激に老化────君の知るロキニスの姿となる
それは良心の呵責に苛まれたか、自らの体の不調に絶望したか
懺悔するように僕に話た後、涙する父上を見て前者であると感じた
母上を────大好きだった母上を殺した罪は重い
だが、僕は思う
父上だけの責任ではないと
体の不調
周囲からのプレッシャー
父上の変化に気付けなかった僕
母上を守れなかった僕
人は弱い
それはロウ家であっても例外ではない
父上を許せとは言わない
恨むなら父上が亡くなった時、もしくは父上より先に僕が死んでしまった時にしかこの事を伝えられない僕を恨んで欲しい
この手紙を読んでいる時、父上が存命されているなら、父上を支えてくれとは言わない────生を全うさせてあげて欲しい
もちろんこれは僕の勝手な願い
聞き入れる必要はない
それでも誰かに────信用出来る誰かと共有し、その誰かに相談して欲しい
その誰かが君を想ってくれ、その上で出した答えなら、父上は甘んじて受ける事だろう
僕は願う
この手紙を読んでいるセーラの傍らに、信頼出来る者がいることを
その信頼出来る者が、セーラを想ってくれている事を
セーラ────君を見る度に思い出す
優しかった母上の笑顔を
その笑顔を守れなかった僕は、今度は全力で守りたいと思う
この手紙をセーラが読んでいる時点で、僕はまた守れなかったのだろう
だが、僕に出来ないのなら、託せる誰かに君を託す
無責任かも知れない、それでも僕の命が消え去った後も、セーラの笑顔を守りたいから
この手紙をセーラ以外が読んでいる者がいるのなら
その者がセーラの笑顔を守る者と信じて────
ナキス・ロウ』
読み終えた俺にいつの間にか近くにいたセーラが寄りかかる。それを受け止めると、セーラは上を見上げ視線を合わせる
「少し・・・少しだけ寄りかかって良いかな?」
「・・・いくらでも」
セーラは母を恨んでいたのだろうか?不貞を働いた王妃の子供・・・父にも愛されず、実の父と母はいない・・・そんな中で王女として過ごしてきたセーラの心中は計り知れない。唯一の心の拠り所であった兄を突然失い、女王になるも周囲は認めない・・・その中で彼女は何を感じていたのだろうか
一人の少女に戻り、声を押し殺して泣く彼女を抱きしめ、その辛さの一部でも感じ受ける事が出来ないかと考える
「良かった・・・この手紙にアシスって名前が入っていたら、私は身を引かなきゃいけなかったかもね」
ひとしきり泣いたセーラに近付き、そんな事を言うシーラ。まるでセーラを挑発するように
「・・・私を支えれるのは、アシスしかいないわ。黙って身を引くのが普通じゃないかしら?」
負けじとセーラも涙を拭い、立ち上がるとシーラと鼻を突合す
「譲られるなんてプライトが許さないでしょ?譲る気もないけど」
「って言うか、あなたは何故この手紙の存在を知ってるの?私やジェイス、アシスすら知らなかったのに」
うんうん、それは俺も疑問に思った。まあ、ナキスが誘導したのだろうけど・・・
「さっきも言ったでしょ?アシスの名前が書いてあったら身を引くしかないって。だから、そういう手紙がないか探してたら偶然見つけたの」
「封筒は切られてなかったわ。どうやってアシスの名前が書かれてないか分かるのよ」
「封筒の所にロウ歴が書いてあるでしょ?それがアシスと会う前の年だったから開けずに渡したわけ。アシスと出会った後だったら容赦なく開けてた」
「それでお兄様の部屋を荒らしたの?」
「荒らしたなんて・・・家探しと言って欲しい」
「どっちも同じよ、この女狐」
「あら、神嫁様がそんな言葉を使うなんて」
「・・・この手紙には託せる誰かに私を託すと書いてあるわ。お兄様がアシス以外の誰に託すと言うの?」
「私・・・とか?」
「・・・私にその気はないわ」
「私もない。でも、書いてあるでしょ?あなたの笑顔を守る者って。異性だけが対象じゃない」
「あなたがどうやって私の笑顔を守るのよ?」
「そうね・・・愚痴くらい聞いてあげる・・・友として」
「とんだ友がいたもんね・・・人の男をさらっておいて」
「あなたの男じゃない・・・私の男よ。元から・・・」
しばらく睨み合う二人。やがてどちらからともなく声を出して笑い合う。まるで俺とナキスが笑い合った時のように
「・・・しばらく貸しとくわ。後で返してね」
「借りた覚えがないから、返す義理はない」
また言い合いを始めるのかと思いきや、二人は見つめ合い、同時に微笑むとナキスの部屋を後にした。何故か置いていかれた俺は懐かしいナキスの部屋を見渡して・・・
「女って・・・訳が分からんな」
当然返事は返ってこない独り言。それでも何故か聞こえたような気がした
『そうだな』
って────
軍が大挙する。レグシ領から四万、メディア領から三万五千。示し合わせた日時に合わせてデニスへと出陣
デニス軍の半分程の兵力で勝たねばならない無謀とも取れる進軍に誰もが余裕を持てはしなかった。しかし、披露宴での出来事が、予想に反して兵士に勇気を与えていた
メディアには神がついている
それが支えとなり進軍の足を少しばかり軽くしていた
「三軍ともに遅れはありません!前方の方はいかがでしょうか?」
「グリム達からは定期連絡のみだな。どうやら国境付近までは行軍だけで済みそうだ」
デニス国に潜入している者からファラス軍撤退の報せを受けたのは数日前。それでも慌てることなく予定通り出陣出来たのは、不気味なまでに動きを見せないデニス軍のお陰か
一部の報せでキャメルスロウより出兵した事を耳にしたが、どうやら国境から出ては来ないらしい。待ち構えて撃退するつもりか?
「国境での戦闘となると厄介ですね。壁は強固・・・壊せる術がありません」
「壊せないとは思わないが、壊すのにもたついてると降ってくるのは雨ではなくて矢だろうな」
ベースドが懸念している国境の壁。俺も見た事があるから分かるが、アレは現状の破城槌では壊すのは厳しい。そうなると当然狙うのは門になるのだが、相手もそれは分かっているだろうから罠が待ち構えていると思った方がいいな
「三軍分かれて攻めますか?敵の分散を狙ってなら迂回してでも分かれた方が・・・」
「いや、ただでさえこちらの兵力の方が少ない。分散させるのは相手の思う壷・・・1番怖いのが各個撃破だからな」
相手の兵力は10万以上・・・分散させて取り囲まれては目も当てられない。分かれるにしてもあまり離れると救援が難しくなる
「過保護が過ぎる・・・二軍は勝手に行動させればいい」
「そう言うなシーラ。ジジイが何とか手綱を握ってくれるさ」
二軍はイカロスとラトーナ軍。やはりと言うかなんと言うか出発前に一悶着あった。まずは総大将が俺になった事に文句を言い、自分らを分けない事に対しても文句を言っていた。フェンにはレンカが付くし、妥当と思うのだがな
そして、シーラがぷりぷりしてるのは、俺に対して色々言ったのもあるし、セーラに対しても陰でコソコソ言ってるのを耳にしたからだ。友が悪く言われ、だいぶご機嫌ななめ・・・
「直接耳にしたら・・・狩る」
と、呟いております
しかし、あの二人もデュラスが懐柔?されてからの焦りは半端ない。このままだと戦争に勝利しても居場所がないとボヤいていたらしい。戦争に悪い影響を及ぼさなければいいが
順調に行軍を続け、あっという間に国境に辿り着く。逐次連絡は入っていたが、まさかこうなるとは予想もしていなかった
「南側に配置されてない?」
それは国境に辿り着く数日前・・・先行してるグリム達からの連絡だった。キャメルスロウを出たデニス軍は西側の国境付近に配置され、南側には一軍どころか一兵も配置されていないとの連絡
さすがに国境素通りは出来ないと踏んでいたが、まさかの南側放棄に逆に戸惑いが生じる
「招き入れて撃退するって事か」
「それでデニス側にどんな利があるのでしょう?あれだけの壁を活用しない利点が思い浮かびません」
「国境望むなら壁を以上の有効的な罠が仕掛けてあるか・・・何か裏があるか・・・」
俺とベースドとシーラが頭を悩ませて考えるが、相手の意図を汲むことは出来ず、そのまま進軍し国境の門まで辿り着いてしまった訳だ
全軍停止し、罠の有無を確認する為に俺だけ門に近付くと黙って門を開けるデニスの門兵・・・これは少し不気味過ぎる・・・時間稼ぎもしないとは
隠れてる者が居ないか確認するも特に伏兵なども居らず、俺が手を上げると全軍が門を通れるように列を為して通過・・・あっさりとデニス国への侵入を終えてしまった
「考えても仕方ないのかも知れないが・・・何を考えてんだ?」
「西側では戦闘開始したようです。西側に回りますか?」
「それはダメ・・・西に向かってる最中にデニス軍がフレーロウに向けて進軍を開始したら、今度こそフレーロウが落ちてしまう・・・この軍が抜かれるのは、敗北に近いわ」
「・・・シーラの言う通りフレーロウに残してる兵も多くない。ガーレーンの兵もほとんどレグシ領に回してるし・・・やはりキャメルスロウを目指して進軍するしかないか」
真っ直ぐ向かえばデニス軍が東門から迂回してフレーロウを目指しても対処出来る。西門に向かってしまうと後手後手になるやもしれん・・・やはりここは直進・・・キャメルスロウを目指すべきだな
「全軍に告げろ!このままキャメルスロウを目指し直進!我らでキャメルスロウを落とす!敵地である事を忘れるな!索敵を展開・・・デニス国民にも充分注意を向けろ!」
「はっ!」
進軍の速度は極端に下がるが、それは仕方ない。グリム達からも定期連絡のみしかなく、こちらに向かってくる軍がいないとなると・・・下手したらキャメルスロウまで戦闘がないことも考えられるか・・・
「あのデニスが籠城?まさか・・・な」
窮地に立たされた訳でもなくて、籠城を選択するとは考えにくいが・・・ええい、悩んでも仕方ないって決めただろ!無傷でキャメルスロウまで行けるかも知れないんだ。ここは幸運と思って気持ちを切り替えよう・・・そう幸運なんだ・・・
────
「メディア軍南側、南門通過敵の数は凡そ三万、西側は国境にて戦闘開始!敵の数凡そ四万」
「敵将は?」
「南側、確認出来た将は『鬼神』アシス、イカロス、ラトーナです。三軍に分かれてる模様。恐らくその三将が指揮するものと思われます。西側、『大剣』ラクス以下不明。二軍に分かれてる模様」
「主攻は西か・・・にしても、我が軍の半数でよく攻めてこようと思うものだ・・・タイミング的にはどうだ?まだ早いか?」
「東側を迂回するのでタイミングとしては頃合かと」
「ふむ・・・ならば解き放て。後・・・東側の阿吽僧が呼応する様子はあるか?」
「阿家と吽家の関係を考えますとそれはないかと。見張りからも接触した様子はないと」
「そうか・・・統一したらと考えていたが、メディアを喰らったタイミングでも良いかも知れんな。久しぶりに姉上にも会いたいしな」
「ザマット陛下・・・そうなれば各地の吽家が黙ってないかと」
「力を持たぬ生臭坊主に何が出来る?真に脅威は総本山にいる者達だけよ。ファラスがマベロンを落とした後、決戦の地を総本山の場所に誘導し、ファラスに始末させるのも手か」
「サリナ元王女がメディアに触発されて吽家を率いる可能性は・・・」
「あるやも知れんな。まったく・・・世話のかかる姉上だ。こうなるなら早目に処分するべきだったか」
「寝ている虎をわざわざ起こす事はないかと」
「突然起きられても迷惑なんだがな。まあ、寝起きがいい事を願うか」
「寝起きのいい虎などおりません。起きたら起きたでどうとでもなります。厄介事をまとめて対処するのは不測の事態を起こしかねませんので」
「慎重だな・・・いや、それでこそといったところか・・・のうシグマよ」
「暗殺者は臆病なのです。慎重に慎重を重ねて首を取る・・・まずはこの戦争にて斥候としてお使い下さい。ご希望があれば首一つ金貨千枚でお受け致します」
「それが高いか安いか・・・奴らの足掻き次第か・・・」
デニス国王ザマットと『カムイ』首領シグマの会合を知るものはまだいない。メディアの者はもちろん、自国の幹部達さえも────




