シーラクエスト5
今日は一人で王城に!・・・って大した距離じゃないし、大した事しない。王城は屋敷の隣だし、やる事と言ったらただのお使い。でも、相手は大臣・・・変な事言っても殺されはしないけどアシスの評判は下がっちゃうかな?
アシスの評判?・・・どんな感じだろ?いつも一緒に居るから、周りの人がアシスをどう思ってるか聞いたことないなー
寝室にあるクローゼットを開けてどれを来ていこうか考える
チャイナ服・・・ダメ
ドレス・・・パーティじゃないし
普段着・・・んー
決めた!パリッとしたシャツにズボン・・・無難が一番
ナイフは・・・ないと不安だけど、あからさまに見せると敵意があると思われちゃうし・・・ポーチに入れとこう
言ってもメディア国内だし、王城だし、屋敷から目と鼻の先だし、いざとなればアシスが・・・ダメダメ・・・アシスに頼ってばっかりはダメよ
ただでさえ攫われた後から姉さんかアシスと行動する事がほとんどだった・・・二人の負担になってはダメ
着替えて鏡の前で両頬を叩く・・・気合い入れすぎて赤くなったけど、シュミネさんに会うまでには元通りになってるよね?これ・・・
準備万端!いざ出発!と、その前にアシスに行ってきますと言ってから・・・部屋の中にあるドアを開けてアシスの寝室を覗いたけど誰もいない・・・今日は予定あったかしら?
うーん、まあ、昨日の夜は護衛を付けるとか一緒について行くとか言ってたし、下手に行ってきますって言っても心配させるだけか・・・サッと行って戻って来て安心させてあげよう・・・私もこれくらい平気だぞって所を見せよう
でも、正直王城は苦手・・・セーラ以外ほとんど知らない人ばかり・・・うううん、弱気になっちゃダメよ・・・これくらい鼻歌交じりでこなさないと・・・なんてったって若・・・自分の寝室に戻って変な事を考えてるとドアをノックする音が・・・アシスの部屋からじゃなくて、廊下側から・・・返事をするとメイドさんが入って来て丁寧にお辞儀してくれた
「おはようございます!」
彼女の名前はネオナ。私より少し年上のメイドさん。主に洗濯を担当しているらしくて、いつもベッドのシーツや服を洗濯してくれてる・・・私の部屋のシーツはあんまり汚れないけど・・・
「あら?シーラ様、今日のお召し物はなんだかいつもと違いますね」
シーラ様・・・うーん、慣れないな・・・どうせなら若・・・
「今日は王城に用事があってね。普段着だとちょっとね」
「王城!?ふわー、良いですね~憧れます。この屋敷から見えるのに遠い場所に思えてしまいます」
「ネオナは王城に行ってみたいの?なんなら一緒に行く?」
「と、とんでもございません!私如きが王城に一歩でも入ろうものなら体の震えでまともに歩く事すら出来ません」
そんなもんかな?あー、でも私はいっつもアシスと居たからなー
「ネオナはなんで王城に憧れるの?」
「えぇー?シーラ様、王城は女性の憧れの場所ですよ?きらびやかな室内に紳士淑女が集い、美味しいお菓子と豪華なカップに注がれた香り立つ飲み物を飲みながら談笑する・・・ドレスに身を包む淑女がスマートな紳士にエスコートされ・・・きゃー」
武骨な男共が私を見てニヤニヤする光景しか浮かばない・・・どこの世界だろう?ネオナの妄想は・・・
「窓から差し込む光の中、歩いていると水溜まりが・・・スっと上着を水溜まりの上に被せ一言「お嬢さんどうぞ」とか言って手を引いて下さるの・・・あー」
いつの間にか庭に出てるし・・・水溜まり避ければ良いのに
「その男性は名も告げず去って行き、いずれ再会するのです・・・「あの時のお嬢さん・・・黙っていてゴメン・・・俺実は王子なんだ」って・・・まー」
え゛っ?何その超展開・・・感極まって「まー」とか言ってるけど、そろそろ現実に・・・
「それでその王子が言うのです・・・「今日は君を帰さない・・・もう君は僕のもの」って・・・ムフ・・・ムフフ」
「あは・・・あはは・・・そ、そうね。そうなると良いね」
ならない・・・決してならないのよネオナ!・・・と言えず敗北感を感じながら屋敷を出た
夢見る少女・・・凄い妄想力・・・って私も理想は色々あったなー。人殺しの世界から私を救い出してくれて、ピンチには颯爽と現れて、いつも一緒に居てくれて・・・って、アシス!?
首を振ってネオナから伝染った妄想癖を振り払うと気合を入れ直す・・・けど、無性にアシスに会いたい・・・後ろを振り向くといつものようにアシスが・・・いない。怪しげなローブの人しかいない・・・
自分のアシス依存度に自己嫌悪に陥りながら歩く。足が重いなー、地面に沈みそう・・・
王城の庭園を歩き、気分転換に花を眺める。綺麗な赤い花が太陽の光を浴びて心地よさそうに咲き誇る。日陰を歩いてきた私には花が反射する光すら眩しいくらい
思わず屈んで花に触れ匂いを嗅ぐ。微かな花の香りが鼻孔をくすぐり心を落ち着かせる
この花・・・なんて名前だろ?そうだ、屋敷に花を飾ろう。この匂いが屋敷中に行き渡るくらい・・・この花の匂いを嗅ぐと屋敷を思い出せるように・・・遠く離れていても・・・
ついつい花に見とれてうっとりしてると肩を叩かれた。立ち上がり振り向くと知らない人・・・誰?
「突然失礼を・・・私はダラス将軍の配下でヒュトムと申します。ダラス将軍が是非貴女とお話がしたいと」
ダラス将軍?・・・確かデュラス将軍の息子?
「い、いえ、私用事があるので・・・」
慌てて横を通り過ぎようとしたら、ガっと手を掴まれた・・・反射的にポーチに手が伸びたけど・・・ガマンガマン・・・
「勘違いされては困りますな。これはお願いではありません。命令です」
うーん、どうしよう・・・無視してたけど、屋敷からついてきている怪しげなローブの人から恐ろしい程の殺気が・・・仕方ない・・・
「これは失礼致しました。私は守護者アシス様の配下で補佐官をしているシーラと申します。この度アシス様よりご命令を承りまして王城に赴いた次第です。何か急な用事でしたら、王城隣にあるアシス様の屋敷までお申し付け下さいませ」
アシスの名前は出したくなかったけど、穏便に済ませる為なら仕方ないよね?
「守護者・・・くっ、後悔しますよ?」
「しませんよ?」
とりあえず満面の笑みで返しておいた。逆に後悔するのはダラス将軍じゃないかな・・・
ヨナムさんに教えてもらった通りに王城三階の内務大臣室を訪ねると、シュミネ大臣は居なかった。言伝でアシスが会いたがってると伝えると、中にいた人が伝えておきますと言ってくれた・・・これで任務完了かな?
ヨナムさんの話だと会う順番も大事らしい。まずはシュミネ大臣と話してそれからナントカ将軍かナントカ大臣と会う方が良いらしいけど・・・アシスと一緒にいるからかな・・・アシスの面倒臭い病が伝染ったみたい・・・面倒・・・
午後は軍の訓練か・・・明日の午前中は・・・うん、何もないはず!アシスに任務完了のご褒美に何か買ってもらおうっと
帰ったらヨナムさんにあの花を揃えてもらって、部屋に飾って・・・アシスもあの花の匂い・・・気に入ってくれると良いな────




