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6章 2 別れと再会

「アシス!立ち合うぞ!」


「きゃあ!」


「きゃあ?」


屋敷の三階、寝室に突撃してきたリオンに驚き声を上げるシーラ。とりあえずタコ殴りにして簀巻きにして捨ててこよう


「待て待て!悪かった・・・悪かったから!」


これで何度目だ・・・やはり屋敷にリオンの部屋など設けるべきではなかったか。今日の午後にバーレンロウに向かって出発するみたいだが


簀巻きにして外に放り出してとりあえず話を聞く


出発前に久しぶりに俺と戦いたいと・・・本気で


時々手合わせしているがもちろん本気ではない。手の内は見せないし、武器も木剣を使用している。それを自分の武器を使い今出せる実力を出し切るって言うんだから下手をすればどちらかが死ぬ


リオンは真剣な顔で俺を覗き込む。もしやるとしたら、初めて会った時以来か・・・あれから二人とも随分力を付けたと思う


俺も実際は興味がある


リオンは俺と同じ事を任せられる仲間・・・つまり実力は拮抗していると思ってる。防衛戦の時もサレンジ会戦の時も・・・リオンは見事にやってのけた


勝てる・・・と言いきれない相手の一人と戦うのは緊張感も一入。普通の手合せの何倍もの経験を得られるだろう。しかし・・・


「大事な時期だ・・・下手に怪我や最悪・・・そんな状況になったら、喜ぶのはデニスだぞ?」


「寸止めでいい。俺ら二人なら可能だろ?」


どうだか・・・熱くなったら止める自信ないな。それでも引かないリオンに絆され、俺も望まない訳では無いのも手伝って戦う羽目になった


場所は6番隊が訓練で使い、ウカイと戦い、ナキスが殺された場所・・・フレーロウ南門から出て西に少し行った場所だ


観客はいない


恐らく見る者が見れば止めたくなるような戦いになるから


二人は対峙して各々剣を抜く


リオンはもちろん双剣


俺は黒龍を纏わせる


加減は無意味・・・最初っから全力!


「双龍・・・四龍・・・六龍」


剣を地面に刺し、力を流し終えた後に引き抜きながら地面を蹴る


剣技ではリオンが上、剣速は俺が上だとしても、二本の剣を使われたら優位はない。そうなると俺の優位となるのは力と素早さ


フェイントをかけながら近付き、リオンの死角を探る。右、左と動くがリオンは動かず目線だけで俺を追っていた


死角がない・・・両手をダラりと下げているだけだが、どこからでも剣が飛んできそうな雰囲気だ。なら!


フェイントを諦め、正面から打ち合う・・・一合二合と打ち合うも軽くいなされている感じ・・・六龍による身体能力向上と武具流化でまともに合わせれば剣は吹っ飛んで行くはずなのだが、リオンはそれをさせじと上手く力を流していた


俺の連続攻撃の隙をついて繰り出されるリオンの攻撃は鋭く、躱すのが精一杯で一進一退の攻防を続ける


一旦離れる為に後ろに飛んだ瞬間にリオンが動いた


「千!」


「だらぁ!」


後ろに飛んだ為に足は地面から離れている為、更に後ろに飛ぶことは出来ない。迫り来る千の刃・・・それに空中で対抗するには六龍を開放するしかなく、剣を振り下ろして力の塊をリオンにぶつける


リオンの千と俺の力の塊がぶつかり合い地面の土埃が視線を塞ぐ


着地したと同時に土埃の中からリオンが姿を現した


「死ね!」


「アホか!」


デタラメな奴・・・六龍の塊を剣で切り刻みやがった。多少は傷付いているものの、リオンは俺に向けて突進・・・すぐさま最初と同じ攻防が繰り返される


違うのは攻めがリオンに変わった事と俺が六龍を纏ってないこと


後ろに下がりながら徐々に追い詰められていく


左右自由自在に迫り来る剣に攻める隙もなく、守りに徹して何とか防ぐ。それでも勢いは殺せずに後ろに後退していく


流の型の弱点はこれだ


一旦放てば次に流すのにどうしても隙が生まれる。ジジイは流れの中で・・・とか言っていたが、リオンクラスになるとそんな隙など与えてくれない


攻撃を受け続けているとリオンの様子が変わる・・・何か・・・来る!


「むん!」


リオンが唸ると剣先から剣・・・いや、ガレスが見せてくれた力の塊がスっと伸びる。それにより剣の長さが倍になり、今までの間合いが完全に崩壊した


そのまま剣を横に薙ぐと今まで届かなかった剣が俺に届く・・・しかも力の塊の部分が・・・剣で受けられないと考え飛び退いたら間に合わないので仰け反って躱す


この時点で勝敗は決していた


横に振るった剣が俺の上を通過した後、リオンはもう一方の剣を縦に振るう。同じく力の塊を剣先から出して


仰け反って躱していた俺に縦の剣を躱す術はなく、体に当たる寸前で剣が止まり勝負の終わりを告げる


俺の・・・完敗だった


「なんだよそれ!ガレスさんやセリーヌの真似じゃんか!」


仰け反ったまま地面に倒れていた体を起こしながらリオンに文句を言うが・・・まあ、俺もラクスの技とかパクってるから人の事は言えない


「そうなのか?二人の技は知らないが、前に棍使いと戦った時にもう少し間合いが・・・って考えてたらニョキニョキ出てきた」


偶然の産物!?てか、ニョキニョキって!


「剣の保護の名目でアシスから学んだ力を纏っていたが、それが伸びたって感じか・・・まっ、奥の手だな」


確かにあれだけ打ち合った後に間合いを変えられたら瞬時に対応するのは難しい・・・逆に最初から見ていれば間合いは狂わないから避けるのも容易い・・・とは言わないが、事前に対策は考えられる・・・まさに奥の手か


「これで登竜門は突破・・・とうとう『大剣』ラクスに挑戦出来る!」


「手合わせはしていただろ?」


「本気で立ち合ってはいない。袖にされてたしな。だが、アシスを倒したとあらば、『大剣』も本気になってくれるはず・・・」

・・あれはなしだ」


「何がなしだ!けっ!なら、ラクスにお前の奥の手を教えといてやる!精々無様に散りな!」


「おまっ!それはルール違反だろ!?」


「うるせぇ!奥の手に頼ってんじゃねえよ!」


「頼ってなんかは・・・いいから言うな!」


「今日中に鳥文飛ばしてやる!」


再び何合か打ち合った後、疲れた俺らは仰向けで地面に倒れ込む


大の字に寝そべり、空を眺めながら乱れた息を整えた


「・・・しばらく別々だな」


「次に会う時は・・・デニスの王城か?」


「だと・・・良いな」


リオンは立ち上がるとシーリスが話したい事があるから部屋に来てくれと言っていたと告げると一人でフレーロウへと戻って行く


負けたか・・・強いな・・・


負けた事の悔しさよりもリオンが強いと認識できた事が嬉しかった。そして、心に秘める・・・次は負けない、と



リオンに言われた通りに屋敷のシーリスを訪ねると、バーレンロウへの準備の真っ最中だった。帰って来たばかりなのに苦労かけるな


「あら?負け犬さん・・・遅かったわね」


くそっ・・・早速リオンのヤツめ言いふらしてやがる


「負けるとは思わなかったけど、勝てるとも思えなかったのよね・・・手心加えた?」


「まさか!そんな事したら俺は真っ二つにされちまうよ」


「でしょうね。まっ、ここは素直に喜んでおきましょうかね」


カバンに服を押し込みながら嬉しそうに言うシーリス・・・うむ、やはりデカいが、それを上回るエーレーンには何が詰まって・・・


「シーラに言うわよ?」


どうやら相変わらず心を読まれてしまうようだ。無表情に徹したつもりなのに・・・


あらかた準備が終わったのか、部屋の中央にあるテーブルに座るように言われた。素直に従って座ると手を叩き、メイドを呼んでお茶を用意させる・・・慣れるの早いな


「便利ね・・・まるで王族になったみたい」


「俺は慣れないな。未だにお茶を自分で用意しようとすると怒られる」


屋敷ではとにかく雑用らしい雑用は全てメイドに任せないといけない。俺らがやるとメイドの仕事を奪ってしまうのと誰かに見られたらヨナムの立場が無くなってしまうらしい


運ばれて来たお茶で喉を潤しながら今後の話とか適当に話していると急に目付きを鋭くして今回俺を呼んだ本題へと移った


「アシス・・・率直に聞くわ。ここ最近・・・いえ、戦争が始まってから、シーラに異変を感じなかった?」


シーラに異変?どういう事だ?


「いや・・・特に・・・まあ、強くなったなーとかそういうのはあるけど・・・」


「そういうのではなくて、シーラがしないような行動をとったり、違和感を感じたり・・・」


違和感?戦争が始まってから・・・環境が変われば人は変わるしシーラも・・・いや、おかしい所はあったな


「ファラスへの救援依頼・・・」


「そう!それよ・・・今までのあの子ならそんな事は思い付かない・・・思い付いても実行しないわ。しかもソルトの名前を使うなんてまずありえない」


確かに・・・よく考えるとおかしい。切羽詰まってたから?でも、ファラスにはフェードが・・・ナキスを殺したフェードがいる。それを知っていてあんな依頼をするか?


「それと私も少し変なの。まるで誰かに後ろで囁かれているように次々と策が浮かんでくる・・・まるでこうすれば大丈夫と言わんばかりに・・・」


うーん、シーリスは元々冴えてる印象だけど・・・サレンジ会戦の時は少し違ったような・・・


「後は・・・これはセーラ陛下から聞いた話なんだけど・・・シーラが話していた内容が、極小数しか知りえない内容だったらしいの」


「極小数?」


「ええ。シーラはまるでそれを見聞きしたように話していたらしいわ・・・まだその事はシーラには言ってないけど・・・。で、ここからは私も・・・何を馬鹿なと言われそうな事だけど・・・確信も何もないけど・・・」


「シーリスにしては歯切れ悪いな・・・ハッキリと言ってくれ」


「誰かが・・・乗り移ってるんじゃないかと・・・」


うん、このお茶美味しいな


「ちょっと!聞いてる?私もおかしな事を言ってるのは分かってるわ・・・でも、それ以外に説明のしようがないのよ・・・特にセーラ陛下の言っていた事は!」


セーラの言ってた事?


「デニス軍が撤退した時、シーラが言った言葉・・・異なる羽が揃う時、翼になるって言葉は決してシーラでは知り得ない・・・誰かが・・・シーラに乗り移ってるとしか・・・」


「誰かがって・・・誰だよ?」


「さっきの言葉・・・聞いていたのは極小数って言ったわね。それもそのはず、その言葉が発せられたのはアシスとウカイが戦っている時に・・・フェードが放った言葉なのだから・・・」


「フェード!?」


「グロウを演じていたフェードが目を開き、アシスを見つめ語った言葉。二対の羽とはフェードとアシス・・・二人の異なる羽が揃い翼になる事を望んで付けた名前・・・そして、それを聞いていたのは・・・セーラ陛下に『長柄』ワレン・・・そして・・・ナキス王子」


「お、おい・・・まさか!」


「自分で言ってて無理があると思う。でも、セーラ陛下の話を聞いた時に合点がいったのも確か。確かめようもない事だけし、シーラに話すのは躊躇ってるのだけど、あなたには・・・ね」


ナキスが?・・・でも・・・


「なんでシーラ?それにシーリスに?セーラになら何となく分かるけど二人は・・・」


「多分それは・・・『カムイ』が関係してると思う」


『カムイ』?だって『カムイ』は・・・


「そう・・・『カムイ』はただの暗殺者集団・・・でもね、『カムイ』には歴史があるの・・・『カムイ』が『カムイ』である歴史がね」


『カムイ』が『カムイ』である歴史・・・それはシーリス達が生まれるずっと前の話────


『カムイ』が結成されたのはおおよそ300年前・・・つまり大陸が六つに分かれた時だという


『カムイ』の主な仕事は今と変わらず暗殺


しかし、今と異なる点がある


それは対象が『神』のみであったこと


「神?」


「そう・・・神を狩る者・・・そう呼ばれた時期もあったみたいだわ」


「・・・そもそも神ってなんの事だよ?」


「全知全能・・・天地を支配する不思議な力を持つもの・・・それが神・・・そして、この大陸で神と呼ばれていたのは・・・」


「ロウ家?」


「正解。ロウ家は神と祀られていた・・・人々を導き不思議な力を使う者達・・・」


「『カムイ』はロウ家を専門で狙って?」


「それは少し違うらしいの・・・何せ『カムイ』を作ったのもロウ家なのだから・・・」


「はあ?自分らを狩る者達を自分らで?」


「そう・・・ここからは完全に推測・・・ここで質問。ロウ家はなぜ子供を二人しか作らないと思う?」


「そう言えばそんな事を聞いた記憶が・・・多いと王位継承で争いが起きるから?」


「なら、なぜ二人?二人でも争いは起きるわよ?」


「一人だと・・・もし何か会った時、断絶しちゃうから?」


「二人でも同じ危険性があると思わない?安全を考えるなら子は多い方が良いと思わない?」


確かに・・・メディアやレグシはそれで一人になってしまった。今ここでセーラが討たれたら・・・カーネスがいるけどイレギュラー的な所もあるし・・・うーん・・・


「で、考えてみたの・・・ロウ家が増えたら困るのは誰?ロウ家を唯一増やしてるのは?」


困るのは・・・ロウ家を二人以上抱えてるのは・・・


「フェード!?」


「そう・・・仮に・・・仮によ?フェードが300年以上生きていて、不思議な力を持っている・・・そして、それは子供に継承される事を知って、その力が無闇に増えることを恐れていたとしたら・・・そうならない為に『カムイ』を結成し、神=ロウ家の数を調整していたとしたら?」


自分の知らない所で増えた子孫を殺す為に『カムイ』を?まるでそれじゃあロウ家版の『十』・・・まさか・・・


「まさか『十』も!?」


「恐らくね・・・ロウ家を管理する『カムイ』。戦争を管理する『十』・・・これらの二つの機関をフェードが創り大陸を操っていた・・・そう考えるのが一番辻褄が合うの」


フェードが300年以上生きてるってのも馬鹿げた話だが・・・見た目通りの歳ではない何人かの子供がいる時点であながちありえないと言い切れない・・・実際の子供かどうか確認しようもないが・・・


「でもそれだと『十』の頭のナキスは操られていた?」


「いえ、『十』には役割を与えれば済む話・・・ナキス王子を操らなくとも、『十』は戦争を管理するって役割を与えていれば充分よ。直接操っていたのは『カムイ』ね」


「・・・全部憶測だろ?それにその話がなんで二人にナキスが乗り移ったって話に繋がるんだよ?」


「『カムイ』の名前の由来はロウ家・・・神を殺す者だから。そして、神をも殺す威力の技を放つ事が出来るから」


「『神威』!」


「その通りよ・・・シーラの放った『神威』・・・あれは本来ロウ家に向けて放たれるべき刃・・・そして、それを放つのに必要なのは・・・暗示」


「暗示?」


「人はね・・・決して自分の限界を超えられないの・・・いえ、人としての限界を超えられないって言った方が正しいかしら?頭がこれ以上力を出すと自分が壊れてしまうと判断したら、それ以上は出せないのよ・・・でもね、それを出せるようにする方法がある・・・それが暗示・・・もしくは洗脳」


洗脳・・・以前シーラが洗脳されていると聞いたけど、まさか・・・そんな・・・


「ふう・・・私が『神威』を打てない理由は洗脳されてないからと言ったわね・・・それは違うの・・・洗脳を超える恐怖を見てしまったから・・・実の父が『神威』を放ち、腕を失った所を見てしまったから・・・本能的に・・・もう打てないと感じたわ・・・私は腕を・・・失いたくないと・・・だから、打てないと・・・」


「じゃあ洗脳は・・・」


「・・・『神威』が打てるのは私達の血族だけ・・・恐らく血に刻まれてる何かがあり、『神威』を打つことを可能にしている。シーラが父にされた洗脳とは違うのだろうけど・・・暗示、洗脳が『神威』を打てる条件だと思うわ。そして、それを施したのが・・・」


「300年前のフェード?」


「そうなるわね。『カムイ』はロウ家を殺す為に創り出した暗殺者集団・・・ロウ家を殺す為に『神威』を使えるように洗脳した・・・つまりロウ家と密接な関係にあるのよ・・・『カムイ』の血は」


「つまり・・・ナキスに流れるロウ家の不思議な力が『カムイ』である二人に乗り移ることを可能に?」


「ええ。全ては推測の域を脱しない荒唐無稽な話・・・でも、そう考えると全て辻褄が合うの・・・キャロン達の行動もね」


「キャロン達の行動?」


「私達を助けに来たと言いながら、誰かを探してる素振りを見せた・・・あの時、キャロン達と旧知の仲で居なかったのはデクノスだけ・・・だから、デクノスを探してたと思ったけど・・・」


「ナキスを探してた?いや、でもそれだったらなぜ二人が知っている?ナキスが乗り移ってるとか・・・」


「もしガーレーンでジュモンと戦ってる時、ナキス王子がシーラに乗り移っていたとしたら?」


ガーレーンでジュモンと戦ってた時?あの時は俺とシーラが囲まれて・・・まさか・・・


「カイト?」


「そのカイトがファラスに戻り、ナキス王子の事を話したとしたら・・・それにキャロン達が興味を持ったとしたら」


「本当かどうか確かめに来た・・・」


そう言えば初戦のシーリスの頭の冴えはいつも以上だったような・・・でもキャロン達が来た時はどこか気が抜けたような・・・ナキスが抜けたから?


確かに辻褄は合う・・・本当にナキスが・・・


「あーーーー!!」


「な、何よ急に!?」


「いや、そんな・・・マジか・・・でも・・・嘘だろ?」


「だから推測の域を・・・」


「違う!・・・乗り移ってるとしたら・・・夜は?」


「え?・・・あっ」


俺の場合、夜どころか昼間も・・・ぶっちゃけて言うと朝も・・・ヤバいぞ・・・覗きなんてレベルじゃない・・・お祓い案件だ


「・・・それはない」


「え?」


「え?」


突然抑揚のない声で話すシーリス・・・驚いてシーリスを見るとシーリスも驚いてる・・・もしかして・・・


「・・・意外と夜は激しいらしいな・・・うおっ」


「あら?・・・ごめん、勝手に手が・・・」


ガーネットから聞いた爆弾を放つとシーリスはナイフを俺に投げてきた。ギリギリ躱すが・・・やはりナキスは・・・いる


「どうやらシーリスの推測は合ってるらしい。ナキスはいる。しかも今現在、シーリスに乗り移ってやがる」


「嘘・・・いえ、そう言えば今アシスと話してる時、なんだか私じゃない私が喋ってるような感覚が・・・」


てか、やろうと思えば体すら動かせるのか?ちょっと怖いぞ


「阿吽僧として祓ってみるか?」


「あんたねぇ・・・冗談でもやめておきなさい・・・呪われるわよ?」


うっ、それは困る


「うーん、そうなるとシーラにはどうする?話すか?」


「やめておきましょう。意識すると乗り移りにくくなるとかあるかも知れないし・・・ナキス王子が居た方が何かと助かる事があるでしょ?」


確かに。ファラスへの援軍要請がナキスの案だとしたら、ナキスがいなければどうなってた事やら・・・今も昔もナキス頼りってのは情けない話だが、正直心強い


「私はどうしても意識しちゃうから、今後はシーラのみになるかもね」


それはそれで大いに困る。やはり祓ってやろうか



シーリスとの摩訶不思議な話も終わり、とうとう二人は2番隊を引き連れてバーレンロウへと旅立つ


今度会う時はキャメルスロウの王城で・・・再び約束し馬に乗って出発する


もしかしたら一年・・・いや、それ以上会えないかもな


勝ち逃げは許さないぞ・・・リオン



見送った後、シーラと屋敷に戻りながら今後の事を話す。まずは祝勝会、完成披露宴後に挨拶に来た大臣や文官・・・気は進まないが将軍達と面会する事にした


セーラが戻ってから・・・そう考えていたが、こっちにはシーラがいる。シーラと共に仲間に引き込む奴を探し余計な事をさせないようにする


「セーラが戻って来たら・・・多分始まるね」


「だな。今度はこちらから攻める・・・そうしないと戦争は終わらない気がする」


「・・・どうして?」


「デニスは兵士をまるで消耗品のように扱ってる・・・使えなくなれば捨てれば良い・・・そんな扱いだ」


大平原での戦いを終えたばかりの兵士達をそのまま送り込んだり、様子見で兵士を突入させたりもしていた・・・一緒に戦うと言うよりはただの手先・・・


「もしデニスが再びメディアを攻めてきた時、何度撃退しようが攻め続けてくる・・・そんな感じがする・・・減った分は増やせば良い・・・頭さえ残れば手足などいくらでも生えてくると・・・」


「頭を・・・失わない限り・・・」


「ああ。だから、その頭をなるべく早く落とす!デニス軍の兵士だって好き好んで死にたいはずがない・・・」


「でも!」


「分かってる。向かってきたら躊躇はしない・・・護るために殺すか・・・嫌な世の中だよ本当・・・」


「終わらせないとね・・・みんなの為にも・・・私達の為にも」


戦争の終焉はいずれ訪れる・・・でも、その時に果たして笑っていられるだろうか・・・幸せな日々を過ごす程、失いたくないという気持ちと失った時の恐怖が日に日に増してきていた



屋敷に戻りヨナムに訪れた人の名前と役職を聞いた


実は屋敷に訪ねてきた時、居留守を使ったりして会わなかった人もいる。しがらみとか面倒だし、コロッと騙されたりするかもしれないから


六人・・・多いのか少ないのか分からないが、全員と約束を取り付けて会う必要があるだろうな


一人は将軍でコーレタート。知らん。デュラス一強・・・派閥など皆無な状況で俺に会いに来るとは・・・どういうつもりだろう?


一人は大臣のケレミト。ホートンと馴染みらしい。なら信用できるかな?主に交易関係を扱ってるらしいが・・・よく分からんな


一人はこれまた大臣のシュミネ。今回訪問してくれた唯一の女性らしい。主に街管理をしているらしいが・・・これまたよく分からんな


そして、残り三人は文官、デジット、サモー、タルタ・・・どこの所属かは言わなかったみたいだが・・・てか、文官って何やるの?


「文官とは分類と考えて頂いて差し支えないかと。アシス様は武官に分類され、文官は実際に戦場に出ない方々を指します。国王を頂点に武官と文官に分類され、文官のトップが大臣となり、その下に付くものを総称で文官と呼んでおります。大臣の役職の数は主に八つあります。財務、防衛、外務、法務、総務、環境、経済、内務と分かれており、突発的な事情に対応する無所属の大臣も何名おられます。それぞれ────」


いかん、全然頭に入ってこない。ヨナムが常識人なのか俺が非常識人なのか・・・


「────ですので、一概に文官と言えど、されている仕事は聞いてみないと分かりません。ケレミト大臣は経済大臣です。シュミネ大臣は内務大臣です」


「ふ、ふーん・・・ホートンは?」


「ホートン大臣は無所属です」


素晴らしいなウチの執事は・・・もしかして政治に疎い俺の為にセーラが遣わせてくれた?


「大臣は地位が横並びの為、大臣より上は国王となります。それゆえ派閥があり、総務大臣のマドス大臣を筆頭とするマドス派とシュミネ大臣を筆頭とするシュミネ派に分かれております」


シュミネ・・・屋敷に来てくれた人か


「ちなみにシュミネ派は何人?」


「シュミネ大臣とケレミト大臣の御二方のみです。無所属の方もいらっしゃるとの事ですが、正確な人数は分かりません」


「・・・もしかして、マドス派ってデュラスとズブズブ?」


「・・・おっしゃる通りです」


なるほど・・・魂胆見え見えだな。派閥争いに巻き込む気マンマンじゃないか


軍総司令官のデュラスと大臣で最大派閥のマドス・・・二人が組んで国を思うように操っていた・・・もしくは操りたいか・・・となるとシュミネはセーラ派?・・・直接聞いてみないと分からないか・・・


「とにかく会ってみないと分からん。屋敷に招いても問題ないか?」


「もちろんです。武官と文官の相違はありますが、大臣は将軍と同じ地位とされております。ですので、将軍より上の立場であられるアシス様は訪れるより招く方がよろしいかと。基本的に足を運ぶ方が下となりますので」


「ふーん、招く手段は?手紙とか?」


「いえ、一方的は高圧的にもとられしまいかねません。使者を送り伺いを立てた方がよろしいかと」


なるほど・・・守護者と大臣はそこまで地位の差はなさそうなイメージかな?良好な関係を持ちたいなら使者の人選も気を付けた方がいいか・・・


「シーラ、使者って誰にした方が良いと思う?」


「・・・私?」


「そうそう・・・シーラに聞いて・・・え?シーラが?」


「だって・・・私以外にいる?」


シーラ以外に?・・・あれ?誰も思い浮かばないぞ


「武骨な人ばかりだし・・・そう言った意味で今回文官の人と良い関係を持たないと・・・私なら役職的にも問題ないでしょ?ヨナムさん」


「はい。若奥様なら守護者補佐なので申し分ないと思われます」


「わ、わか・・・」


シーラが顔を真っ赤にして照れてるが、普通そう思うだろ?部屋と寝室は隣同士・・・寝室なんて部屋の中で繋がってるし・・・にしても、王城にシーラを一人で・・・不安だ


そりゃあ、王城内でシーラに勝てる奴なんか皆無・・・でもなー・・・護衛にエーレーン達を付けるか・・・いや、それともベースド隊・・・は解散したか・・・人数より少数精鋭で・・・


「アシス・・・私一人で行くからね」


「え?」


一人で行くからね・・・一人で行くからね・・・頭の中で何度もその言葉が繰り返される


理解出来たのは夕食をとり、風呂に入り、布団に入った後だった────




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