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5章エピローグ

「私はメディア国国王セーラ・ロウ!あなた達の────」


なんでこんな事になったんだ?あの時偉そうな事言ったからか・・・あの時────



────三時間前




「なに?この遠征で子作りに励んだ結果かしら?」


「アホか!こんなすぐに成長するか!」


「マンマ」


「あら?私をマンマと思ってるの?流石お兄様の子・・・賢しいわ~。アシスをパパと私をママと認識してるのね?どっかの誰かさんじゃなくて」


ギチッ


「おい、変な事言うなよ!」


カラホスがバーレンロウに着いて、遅れること二週間・・・ついにセーラが到着した


手紙ではカーネスの事はやんわりと伝えていたが、先程カーネスと初対面・・・笑顔で対応してくれている


直接会ってから話した方が良いとも思ったが、セーラにも考える時間が必要だと思い手紙で前もって伝えてたのが功を奏したか・・・内心では複雑だろうな


「この子を擁立してメディアを乗っ取る?」


「馬鹿言え・・・そんなデュラスが考えそうな事を俺が考えると思うか?」


「条件次第では受け入れても良いかなって」


「条件?・・・どんな・・・」


「私をアシスのお嫁さんにしてくれるとか」


ギチギチッ


やめてくれ・・・エーレーンの件でも機嫌が悪いのに・・・


王城内の一室・・・聞けばガーネットが執務室として使ってた一室での顔合わせ。カーネスはセーラに抱っこされ、普段手の届かない場所にある本を取り出そうと必死だ。読むためではなくて投げる為に取ろうとしてるのだが


「カーネス・・・お前も二人の子なら投げるんじゃなくて・・・ぶっ」


ようやく取れた本を俺に投げてきやがった。セーラがカーネスを下ろした為に仕返しの為に追っかけるとキャッキャッ言いながら逃げ回る。それを追いかけていると表情を変えたセーラが口を開いた


「カラホスから聞いたけど・・・だいぶメディアとは違うみたいね・・・私を受け入れてくれるかしら」


『頑固者』ね・・・こっちに来てから買い物とかしてるけど、こちらが踏み込まなければメディアと変わらないただの店員・・・でも、踏み込んでいくと途端に変わる。壁があるって言うかなんと言うか・・・


「アシス・・・これを見てくれないかしら」


セーラが差し出してきたのは手紙?いや、これから行う演説の原稿だ。四枚もの紙にびっちりと書いてある


「ここに来るまでの間必死に考えたの・・・目を通して何か・・・ああっ!」


俺は受け取った原稿を読まずに破く。咄嗟にセーラが手を出すがもう無理・・・粉々だ


「ちょっと!なんて事を・・・」


「これを読み上げるつもりだった?」


「そうよ!考えて考え抜いて書いては捨てて書いては捨ててを繰り返してようやく・・・」


「別に受け入れられなくても・・・セーラはセーラの想いを告げるべきだと思う。考えて書いた原稿を読み上げるのではなく、民を見つめ堂々と。お前には俺らがついてる。お前はただ『私についてこい』って言えば良いんだよ。想いを告げてな」


「・・・想いを・・・」


「言葉足らずでも、原稿を読み上げるより伝わると思うぜ?相手の目を見て話せば」


「・・・そうね。みんなの心を・・・不安な気持ちを取り除くのに紙を見て話しても取り除けないわね・・・でも、せっかく書いたのに破くのはどうなのかしら?」


「うっ・・・勢いで・・・」


「・・・バツとして演説の際、私の横に居なさい。どんだけ民の目線が怖いか感じると良いわ!」


「いや、それは・・・」


「アシスが・・・悪い」


シーラに断罪され同席決定・・・自分の軍の前でも緊張するのに・・・この後しばらくカーネスと遊び、疲れ果てたカーネスはお昼寝タイム。セーラは執務室の中を神妙な面持ちでうろちょろしていた


演説前にカラホスが執務室にやって来て、演説の流れの最終確認・・・あっ、カラホスに言わなければいけない事が・・・


「カラホスさん、バタバタして言えなかったけど・・・ガーネットの絵・・・」


「ああ、聞いております。なんでも無事に持ち出してくれたとか・・・で、絵はどこに?」


「それが・・・」


俺は昼寝をしているカーネスの顔をチラリと見た。健やかに眠るカーネス・・・ガーネットと別れた後、寂しくて泣いてても泣くのを忘れたと思えるくらいピタリと泣き止む時がある・・・それはガーネットの絵を見た時・・・


「カラホスさん!どうか・・・」


俺が言いかけた時、カラホスはシーと口に指を当てカーネスを見ていた。声が大きくて起きてしまいそうだったのかと振り返るが、カーネスはスヤスヤ寝ている


「アシス様・・・非常に残念です。まさか大使館ごと燃えてしまうとは・・・惜しい絵をなくしました」


「カラホスさん?」


「絵の価値って何なんでしょうね?ただただ紙に描かれた物がどうして人の心を動かすのでしょう・・・その絵を真似て描いても、どうしても同じ絵は生まれない・・・もしかしたら、魂ってやつが宿ってるのでしょうか」


「・・・」


「私が頼んだのはガーネット女王の絵。カーネス様の母君の絵ではありませんよ?アシス様」


カラホスは優しく微笑み、演説の準備があるのでと部屋を出て行った


もしかしたら、カラホスも・・・いや、邪推だな。素直に感謝して受け取っておこう


そうこうしている内に演説の時間となった・・・若干震えているセーラと共に王城にある一室に入る。そこは部屋の窓が大きく、開くとちょっとしたスペースがあり、そこに立つと王城の庭が一望出来る。背伸びして外を覗いてみると・・・人・・・人・・・人・・・セーラの演説を聞きに今か今かと待ちかねている元レグシ国民が集まっていた


「うおっ・・・」


別に誰かに見られた訳でもないが、思わず首を引っ込める・・・この人の数の前で・・・俺が喉を鳴らしているとシーラに襟を掴まれ部屋の中央まで引き摺られた


「アシス・・・メッ」


怒られた


シーラは椅子に座り目を閉じてじっとしているセーラを心配そうに見つめる・・・なんだかんだ言って仲良しなんだよな・・・この二人


カラホスがゴホンと咳払いして窓を開けた。集まっていた人達が急にザワつき始める・・・人数が多いためそのザワつく声はかなりの音量となっていた。カラホスが外に出て注目を集め叫んだ


「静粛に!これよりメディア国国王であられるセーラ女王陛下よりお言葉がある!静粛に!」


カラホスの言葉にザワつきは一旦終息・・・しかし、王城の庭は広い・・・そこに所狭しと集まる人達に声を届けるにはどれだけの声量が必要なんだ?


気付くと座ってたセーラは立ち上がっており、そこから見える外を見つめていた。覚悟が出来たのか恐れはないようだ・・・外に向かい歩き俺の横で止まる


「・・・行きましょう」


セーラは俺の手を取り歩き出す・・・慌てて俺は共に歩き外に出た


ブワッと風が下から吹いてきたのを感じる・・・人の熱気が加わった熱風が頬を撫で思わず目を閉じてしまった


恐る恐る目を開けた時に飛び込んできた光景は、さっき覗いた時とは比較出来ない程の圧力・・・無数の目がこちらを見ている・・・俺の手を握るセーラの手に力が入る・・・そして、意を決したのか一歩前に出た



「私はメディア国国王セーラ・ロウ!あなた達の王となる者!」


だ、大丈夫か?そんないきなり頭ごなしに・・・


暴言とか飛んでくると思ったが、予想外にみんなは静かだ・・・もしかしたら、品定めしてるのかも知れない・・・セーラの王としての資質を・・・


「先の戦争で我らが勝ち、そなたらが負けた!それによりレグシ国はこの世から消え去り、メディアのものとなったのだ!」


煽る・・・煽るねセーラちゃん。徐々に下の方がヒートアップし始めたよ?大丈夫かな・・・


「今!大陸では各地で戦争が起きている!この大陸全土を巻き込んだ戦争は・・・決して終わらない!いずれかの国が大陸を統一するまで!」


セーラが断言すると少し騒ぎ始めてた連中が大人しくなる。メディアとレグシの戦争がやっと終わったと思ったのに、まだ戦争が続くと聞いて信じられないって感じだ


「現在レグシ国とシャリア国が滅亡し、大陸にはメディア、デニス、マベロン・・・そして、ファラスの4ヶ国となった!最後の一国となるまで戦争は繰り返される!誰も望んではいないのに、たった一人の狂王のせいでな!」


・・・その言葉を聞いて思い浮かべる顔は一つ・・・


「その名はフェード・ロウ!ファラス国国王にして、我が兄を殺し、レグシ国国王であったガーネット女王を唆した男!」


ガーネットの手紙に書いてあった内容・・・フェードがガーネットに対してメディアと同盟を組むなと言った真意は分からない・・・でも、結果現在の状況になってるのは事実だ


「フェードは言った!『メディアと同盟を組むな』と!それはフェードがメディアとレグシの同盟が大陸統一の障害となると考えたから!我ら・・・メディアとレグシが脅威だったから!シャリアの現状を知ってる者もいると思う!フェード率いるファラスは奴隷制度を復活させ、元シャリアの住民を奴隷として扱っている!ガーネット女王は知っていたのだ!フェード・ロウという狂王の本性を!それ故にガーネット女王はフェードの前に屈してしまった!ファラスに・・・フェードに対抗出来ると信じれなかったから!負けた時に起こるであろう苦しみに耐えれなかったから!」


セーラの声は心配をよそに全員に届いているみたいだ・・・全員が固唾を呑んでセーラの声に耳を傾けているのが分かる


「ガーネット女王を・・・彼女を本当の意味で理解している者は少ないだろう!我も結局は会えなかった・・・しかし!彼女は今際の際まで国民を愛し、必死に戦ってたのだけは分かる!我らが攻めてきた事により、一部の民が暴徒化しそうになった時・・・軍で鎮圧する事無く、あまつさえ軍を街から逃がしたのはなぜか!ひとえに軍と国民が・・・レグシ国民同士が戦い傷付くのを避けたかったから!自らの命が狙われているのに・・・軍で鎮圧すれば安全だったのに・・・彼女はしなかったのだ!だからこそ分かる!彼女はファラスを・・・フェードを恐れたのではない!そなたらが無意味に傷付くのを恐れたのだと!その想いがメディアを攻めてくるきっかけになったのは残念だ!しかし!彼女の想いは理解出来る!彼女は立派な王であった!」


王とはなんだろうな・・・一番偉い人?ただの血族?・・・セーラとガーネットはどちらでもないんだろうな・・・


「先にも言った通り・・・狂王フェード・ロウは恐れている!メディアとレグシが手を組むことを!手を組むことは叶わなかったが、我らは一つとなった!何も恐れることはない!狂王フェード・ロウが我らを恐れているのだから!剣を取れとは言わない!ただ今まで通りの日常を送って欲しい!それが我らの力になる!護る意思となる!民の笑顔を護れずして何が国だ!何が王だ!我は・・・私はメディア国国王セーラ・ロウ!そなたらを・・・あなた達を護る遺志をガーネット女王から引き継いだ者だ!」


静寂に包まれる・・・すぐに受け入れてもらうのは難しいかも知れない・・・でも、セーラの言葉は胸に刻まれたはず・・・セーラの意思は頭に刻まれたはず・・・俺はいつの間にか目を閉じていた・・・みんなの反応が怖かった・・・でも・・・


歓声が聞こえる・・・セーラを責めるのではなく、暖かい歓声・・・恐る恐る目を開けるとセーラに笑顔で手を振る人・・・指を咥えて音を出す人・・・セーラ女王陛下と叫ぶ人・・・全ての人に受け入れられた訳ではないだろう・・・でも、確かにセーラの声はレグシ国民に届いていた


ふとセーラを見ると顔は笑顔を絶やさずみんなを見ている・・・でも、握った手からは震えているのが伝わってくる


大した妹だな・・・ナキス


俺はどこかで見ているだろうナキスに言うとまた空耳のように頭に響いた


『だろ?』


その言葉に笑みが零れ、また目を閉じた


今度は怖いからではなく、この歓声に耳を傾ける為に────


登場人物後、6章となります

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